エディ・スリマンがキュレートした、クラシックカルト映画10選。

さまざまな業界のさまざまなクリエイターが、#STAYHOME、#おうち時間で、人々を愉しませたり、癒したりする試みがたくさん登場してきている新型コロナ禍の現在、セリーヌのアーティスティック、クリエイティブ、イメージ・ディレクターであるエディ・スリマンが、映画のオンラインストリーミングサービスMUBIのラインナップの中から、クラシックカルト・シネマ10本をキュレート。約1ケ月間、無料の視聴サービスをプレゼントしてくれました!

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エディ・スリマン。彼自身、シネマの中の登場人物のようにスタイリッシュ。ファッションの創り手であることはもちろんだが、彼が撮るリリカルなモノクロ写真のメッセージ性や美しさも人気だ。 © Y.R 2

エディ・スリマンは、今回のタッグプロジェクトに関して、
『クラシックムービーを観ることは、この不確かで不安な隔離された日々の中で、私を大いに助けてくれます。この状況の中で、わたしは何を共有できるのか、何が助けとなるのか、少しでも人々の不安を和らげることができるのか?と考えました。MUBIの厳選されたカルト映画たちはこの即興的なプロジェクトに完璧でした』
と語っています。
ここに並んだ10本の作品は、戦争映画あり、ファッションムービーあり、ホラーあり、ヌーベルヴァーグ、フィルムノワール…‥と、多彩なジャンルからの選出。スタイリッシュな絵作りの映画が占めているのも、さすが!です。
せっかくなので、選ばれた10本をご紹介します。

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オードリー・ヘプバーンのスタイリッシュなファッション映画『シャレード』

お宝を巡るサスペンス映画だけれど、逸話になったのは、ユベール・ジバンシイが提供した極彩色のオードリー・ヘプバーンの衣装。ワンピースやセットアップをこれだけ美しく着こなす細身のオードリーが眩しい。映画の中ではよく走ります、オードリー。相手役のケイリー・グラントの衣装がグレーを基調としたシックな色合いであるぶん、彼女の存在感がますます引き立つ。そして、ヘンリー・マンシーニによる主題曲も永遠のクラシックミュージックとなりました。オードリー主演映画はマンシーニの曲がすごく印象的で、2人セットで人々の記憶に残っている作品が多いと思います。『ティファニーで朝食を』『いつも2人で』などもオードリー×マンシーニ映画。個人的に、『いつも2人で』という作品は離婚しそうな友人がいる時に観てほしいとオススメする1本です(ハナシが逸れました……)

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●監督/スタンリー・ドーネン ●出演/オードリー・ヘプバーン、ケイリー・グラント、ウォルター・マッソーほか ●1963年、アメリカ映画 ●113分 ●原題/Charade

グザヴィエ・ドランによる、鮮やかで詩的なLGBTQ映画『わたしはロランス』

映画界の寵児、カナダはケベックの出身のグザヴィエ・ドランの作品。監督だけでなく、衣装も編集も脚本も、ドラン自らが手がけた初期の作品。性同一障害の男性教師が、「本当の自分」である姿で出勤し、周囲がざわめいて……という物語。いまや世界を席巻するダイバーシティの考え方を、おしゃれ感覚も込めて表現したパイオニア的作品のひとつ。これを、クラシックカルト映画、という定義で選出したエディ・スリマンのみずみずしい感性に脱帽。

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●監督・脚本・衣装・編集/グザヴィエ・ドラン ●出演/メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイほか ●2012年、カナダ・フランス映画 ●168分 ●原題/Laurence Anyways

男たちの『仁義』――この邦題をフィルムノワールに!

原題をそのまま訳せば「紅い仲間」というような意味です。それが『仁義』! 日本映画界は任侠映画の波があったことを思わせますね、この邦題。追う輩と逃げる輩、偶然の連続で、男たちは絡みあい、企んだ大きなヤマ=宝石泥棒を仕掛ける、というストーリー。犯罪を背景に、ニヒルなのにパッションを感じる独特なムードのアメリカ映画(30年代か40年代あたりが最初)からスタートするフィルムノワールというジャンルですが、フランスにわたっての傑作のひとつがこの作品です。アラン・ドロンこそ史上最高のイケメンだと信じている私ですが、イヴ・モンタンとの共演、まさにフランス映画の宝のような俳優たちが見られます。

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●監督・脚本/ジャン=ピエール・メルヴィル ●出演/アラン・ドロン、イヴ・モンタン、ジャン・マリア・ヴォロンテほか ●1970年、フランス映画 ●140分 ●原題/Le Cercle Rouge

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ロマンティックホラー『ナイト・タイド』は、超カルト映画。

ご説明できなく心苦しい、こちらの作品は未見です。カーティス・ハリントン監督作は、ストレートビデオで、日本では劇場公開もされていない作品も多く、『ナイト・タイド』もずっと過去にDVDは出たようなのですが。まるで『いそしぎ』のようなロマンティックなシーンから、海の謎の生物が忍び寄る恐怖まで、まさにカルト映画の真骨頂的な予告動画だけ拝見しました。これをセレクトするなんて、とってもユニーク。画角の捉え方のおもしろさ、ブラック&ホワイトの引き締まった魅力からでしょうか。この作品に関しては欧米の評判など、これからも調べていきたいと思います。

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●監督・脚本/カーティス・ハリントン ●出演/デニス・ホッパー、リンダ・ローソン、ルアナ・アンダース ●1961年、アメリカ映画 ●84分 ●原題/Night Tide

音も色彩も!すべてが印象的な『パリ、テキサス』

家族を捨てた男と女、そして離れていた息子。彼らを巡って、再会そして、再び別れゆくロードムービー。当時のヴィム・ベンダースは、自称「映画好き」はみな「大好きな映画監督のひとり」として名前を挙げる存在でした。3年後に発表される『ベルリン・天使の詩』が、特に日本ではヒットしたでしょうか。そちらはモノクロ作品ですが、この『パリ、テキサス』は、ナスターシャ・キンスキーという妖艶で匂い立つように魅力的な女優が、金髪のボブ姿で、背中がばっくり開いたフューシャピンクのモヘアニットを着て、テレクラで働いている、という設定だけで、なんだか眩暈がするくらいスタイリッシュだな、と感じたのを覚えています。青みがかった画面、ライ・クーダーのさすらうような音楽……。でも、大好きなシーンは、失踪していた父親(ハリー・ディーン・スタントン)が息子と再会し、家に帰るまでの道すがら、道路で反対側の歩道を各々歩き、父が息子のマネをしながらおどけるところ。人と人との距離がすーっと縮まるような、そんなシーンです。カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞。

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●監督/ヴィム・ベンダース ●出演/ハリー・ディーン・スタントン、ナターシャ・キンスキー、ハンター・カーソンほか ●1984年、西ドイツ・フランス映画 ●146分 ●原題/Paris, Texas

『気狂いピエロ』、ヌーベルヴァーグの反逆児。

ゴダール以前・ゴダール以後、というくらい、信奉者のいる「ヌーベルヴァーグ」のシンボルである映画作家の、『勝手にしやがれ』ではないほうのカラー作品。ヌーベルヴァーグ映画史に残るという前説以上に、昨年亡くなった伝説の女優アンナ・カリーナが抜群におしゃれで、ファッションムービーとしての強度もあります。ジャン=ポール・ベルモンド演じる主人公が破滅していく過程で、顔を真っ青に塗り…‥そんなヴィヴィッドカラーがアクセントとしても効いています。ゴダールの映画は、『リア王』にしても『はなればなれに』にしても『東風』にしても、パリシックなスタイルの定義にも一役買っていると感じます。

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●監督・脚本/ジャン=リュック・ゴダール ●出演/ジャン=ポール・ベルモンド、アンナ・カリーナほか ●1965年、フランス・イタリア映画 ●109分 ●原題/Pierrot Le Fou

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ベトナム戦争をモチーフに、世界を仰天させた『地獄の黙示録』

70年代のアメリカ映画を引っ張っていった、いわゆるマッチョで、男らしい俳優たちが競演。ホラーチックなほどのこってりした映像と、戦争映画なのに真正面から戦争を描くというよりは、そこにある「人間の狂気」にフォーカスした、「大作なのにカルト的」立ち位置の1本。いまは亡きヴィットリオ・ストラーロ撮影監督による、壮大なカメラワークもすごいです。コッポラ監督作の中で、『ゴッドファーザー』シリーズのどれかではなく、エディ・スリマンがこちらをセレクトしているところも納得。

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●監督・共同脚本/フランシス・フォード・コッポラ ●出演/マーロン・ブランド、マーティン・シーン、デニス・ホッパーほか ●1979年、アメリカ映画 ●153分 ●原題/Apocalypse Now

静かなのに、ヒリヒリとした感情が渦巻く『仮面/ペルソナ』

以前、スウェーデンに出張に行ったのですが、その直前にベルイマン監督が亡くなりました。ベルイマン監督は、人間のドラマを哲学的に描写する映画作家、として知られていますが、訪れたスウェーデンの空気、風景、光を体感した時に、ああ、やっぱりこの土地があってこそのベルイマン監督なんだなあ、としみじみしました。ウディ・アレン監督作『インテリア』もベルイマン監督の影響があります。茫漠と広がる海、明るさよりも、静けさが印象的な浜辺、透明感のある空気や光、などは北欧の風土あってこそ。『ペルソナ』は、患者と看護師という立場で、女と女の自意識のぶつかりあいを、モノクロのフィルムが映します。人の「顔」を描き出すのも巧みですが、その人物たちが佇む風景描写も研ぎ澄まされているのです。

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●監督・脚本/イングマール・ベルイマン ●出演/リヴ・ウルマン、ビビ・アンデショーンほか ●1966年、スウェーデン映画 ●82分 ●原題/Persona

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退廃的で社会的、『赤い砂漠』の大人の女の魅力。

いつの頃からか、大人の女性に憧れる風潮はファッション界で下火になり、若さと新テクノロジーの主張が一世風靡しています。しかし!『赤い砂漠』のモニカ・ビッティは、ヨーロッパが育む矛盾と色香を備えた大人の魅力にあふれています。決して富裕層を描いているわけではなく、工場を舞台に、そこで起きる情事や出来事を通し、なすすべのない退廃的なニュアンスの醸し方など、やはりモニカ・ビッティの存在の乾いた艶やかさ(矛盾しているけど、そうなのです)が映画の魅力をけん引しています。

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●監督・共同脚本/ミケランジェロ・アントニオーニ ●出演/モニカ・ビッティ、リチャード・ハリスほか ●1964年、イタリア・フランス映画 ●116分 ●原題/ll Desarto Rosso 英題/Red Desert

『大人は判ってくれない』、それは少年を生きること。

アントワーヌ・ドワネルという少年が、ヌーベルヴァーグではとても大事な存在です。女性に人気が高いフランソワ・トリュフォーですが、トリュフォーみたいに映画を愛し、「女」という生き物を愛した映画作家は他にはいないじゃないか!と個人的に感じています。『大人は判ってくれない』は、トリュフォーが得意としていた「少年」の描写が生きた作品。俊敏な子どもたちの動きを画角の中に躍動的に表現するのがトリュフォーは巧みでした。主人公アントワーヌ・ドワネルを演じた俳優ジャン=ピエール・レオーは、彼自身の長い人生、ドワネルとして生きていく強迫観念にかられるほど、この作品の印象は強烈でした。パリの下町で、少年院で、そして開かれた海で。アントワーヌ・ドワネルの感情が豊かに独り歩きするように完成したモノクロ映画です。

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●監督・共同脚本・製作/フォランソワ・トリュフォー ●出演/ジャン=ピエール・レオー、クレール・モーリエ、アルベール・レミー、ジャン=クロード・ブリアリほか ●1959年、フランス映画 ●97分 ●原題/Les Quatre Cents Coups 英題/The 400 Blows

以上エディ・スリマンが選んだ10本は、MUBIで観る時、日本語字幕はありません。でも、ストーリーを理解するだけが映画の楽しみではない気がします。画面の構成、言葉を理解できなくても役者の演技だけで伝わる人間の感情、などを観察するのはとても豊かな映画経験だと思います。劇場に行けないいま、この10本に浸ってみては?

MUBIへはこちらから https://mubi.com/hedislimane
2020年5月31日(日)まで無料配信中です。
#CURATEDBYHEDISLIMANE
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