中国を愛するための映画、疑惑を持つ映画。

コロナ禍になって旅に出られない現在、スクリーンに映る映画のシーンを観て旅情をかきたてられる人も多いと思う。NHKの紀行番組「空からクルージング」を観て癒やされて、心は彼方に飛んでいきたいと思ったりも……。
そんななか、毎年編集KIMが通い続けているアジアの映画をメインに世界の作家性が高い作品を集めた映画祭「東京フィルメックス」で出合った2作品で、「中国」という国に心から魅了された。

まずは、『永安鎮の物語集』(邦題。英題『Ripples of Life』、原題『永安镇故事集』)から触れたい。

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映画製作を通して、土地と人の心への理解が深まる『永安鎮の物語集』

どの国にも豊かな風土や文化があるように、国土が広い中国は地方や省によって多彩だ。
永安鎮という湖南省の鎮で起こる3つの物語を集めた本作は、現代の中国を詩的かつユーモアたっぷりに描く。
映画を創るって、実は果てしない挑戦と苦労の連続だ。企画を立て、資金を集め、シナリオ制作からキャスティングやロケ地の選定、撮影、そして編集、音響、公開にいたるまで……。『永安鎮~』はプレプロダクションにまつわる苦労を作品にしていて、そこに現代中国の日常、人の世の日常が心地よく絡まっている。
第1話は、撮影隊がロケ地として訪れる食堂で働く美人な若女将(嫁)が、撮影スタッフに食事を出したり世話を焼いているうちに、日々の子育てから少しだけ背伸びして、女優となって出演するチャンスと出合い生活に新しい刺激が加わるのではないか、と期待するストーリー。

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端正な顔立ちで子どもを産んでも細身な体系を維持する若女将。

食堂で出す湖南料理はとっても辛くて、スタッフ陣から辛さ控えめリクエストなどを受けながら、精一杯対応する若女将。彼女の淡白な演技がすごくいい。撮影隊に興奮するでもなく、でも、いつも小綺麗にしている女性。町では評判の美人なのだろうが、地味だ。乳飲み子の世話を一生懸命にしているけれど、義理の父母たちは食堂でたくさん働かせようとするが応えて淡々と働く。時に搾乳機を利用しながら張った乳房をやり過ごし、生きる。物語のオチはさしてないけれど、さびれているのに調理の音が活気良い厨房のある古い建物も素敵で、地方都市に撮影隊が来た時のちょっとした人々のざわめきも万国共通でいいなあ、と思う。3つの物語のスタートを切るこの食堂の若女将の物語は、まず永安鎮の食文化と、都会から来た人々が旧市街の趣に吸い込まれていく様を観客に植え付けてくれる。

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続いて第2話は、永安鎮を故郷とする女優の物語。
人気女優のキャスティングということで、監督も余念がない。サングラスをかけて車から降り立つ彼女を丁重に扱い、永安鎮を舞台にした作品の説明を尽くす。女優のほうは、むしろ芸能界での活躍に翳りをそこはかとなく感じているようで、彼女のルーツである故郷の友人たちとひとりの人間として向かい合いたいと思っている――有名女優としてではなく……。裏腹に故郷に残った人々は、有名人とは無縁でいたいと距離を取ったり、観光産業の宣伝に利用したり。ほのかな恋心を感じた男友だちの家に夕食に招かれれば、その妻から芸能界へ近づく手立てがないか相談されたり。郷愁をあたたかく感じられない訪問になってしまう。

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芸能系への所在なさを感じても、居場所はそこしかないのかもしれない、そんな思いに揺れ動く女優役。

ここでは市井の人たちが住まうアパートや、新市街の発展した観光スポットがスクリーンに映る。観客である私たちに魅力的な景色は第1話のほう。常に旅情を求めてしまうが、現代の人々のリアルな生活の軸があるのは第2話だ。有名人である女優が故郷の人間関係に片想いをするように、観客である私たちもレトロな旅の情感に片想いしてしまうのかもしれない。実際の映画製作に関して、この女優の最大関心事は「脚本」なのだが、そのことが第3話で語られる。

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第3話は、2話の途中からどんどんおもしろくキャラ進化してしまっている劇中内映画の監督が、脚本家と対峙する物語。
脚本家はさまざまな方向から何度もダメ出しをくらい、どっちに行っていいのやら、ほとほと悩み果てていて自暴自棄になっている。おもしろおかしく脚本家を諭す監督。時にフシギなラップが歌われたり、第3話は脚本家のアタマの中同様にカオス満載になる。皮肉が効いておかしいのは、脚本家役を本作の脚本家本人が演じているところ。まさか裏方とは!と驚くくらい演者として魅力的なキャスティングだ。

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右が脚本家。本作の脚本を書き、演者も担当。●『永安鎮の物語集』監督:ウェイ・シュージュン  2021年、中国映画 123分

私編集KIMも、高校時代・大学時代は映画部やサークルに所属していて、映画製作がどんなカオスに満ちているか、苦難がいっぱいなことはなんとなく体感でわかっている部分があるが、この作品を観て、それをまざまざと思い出した。もちろん商業作品とは比べものにもならないけれど。

本作のウエイ・シュージュン監督は、映画内に出てくる監督と同じく、人生は続く~といった体で映画製作を続けるセンスのいい若手、という印象。今年のカンヌ国際映画祭の監督週間でワールドプレミア上映された。生きる時間を、こんなふうに呑気なようでいて鋭い観察眼をもって過ごせる人物は、まさに映画監督か作家向きだと思う。

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ウェイ・シュージュン監督

Q&Aが上映後にオンラインで行われ、その模様も11月23日まで視聴できるので、ぜひご覧ください。※文末に紹介します。

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いつになったら大好きな香港へ行けるの? 『時代革命』を観て。

「東京フィルメックス」において、覆面上映のようなカタチで直前まで作品名は明かされず、映画祭最終日に上映された本作。ついこの間まで、毎日のように報道されていた香港における民主化運動と、それを制圧しようとする中国政府の意図を汲む香港警察との対立の時間をとらえたドキュメンタリーだ。

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雨傘運動というのがあったせいか? 雨合羽の背中にメッセージを書いたデモ隊たち。

観て衝撃!の本作、上映終了後に拍手は鳴りやまなかった。すぐ後ろの席に、中国映画と中国の情勢に非常に詳しい友人が座っていたのだが、上映前に「涙なしには語れないっていうウワサだよ」と話していたのを耳にし、まさかと思っていたが例に漏れず私も涙していた。

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ドキュメンタリーとは思えない迫力だが、街中がこうなった香港。私もかつてパリのメトロで催涙ガスと出くわしたことがあるが、濃度が薄くても身の危険を感じました……。香港の現場は、相当キツかったはず。

いかに自然発生的に民主化運動は激化したか、そして、現代のゲーム社会のなかで、推測するに若い人たちがさまざまなメディアやエンタメから闘いの策に関する情報も得ながら、人海戦術として警察の力に対向していったか……。時間を追って、民主化運動の参加者たちの心の変化、闘い方の進化、挫折、大きくとらえられる事件などを軸に、わかりやすく運動が描かれている。参加者の多くは学生で、12歳くらいの子さえいる。若者に触発されて、彼らを守ろうとして立ち上がる老人集団もいる。助け合いもあるが、不信感に苛まれたり、言い争いももちろんある。逞しく闘う集団はヒーローとして祭り上げられたりもする。最後には香港を出て台湾に移住する人たちもいる。共通するのは、「香港は離れても、香港人であることに変わりはない」という想い。

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多くの参加者たちにインタビューしていて、モザイクや後ろ姿などで顔は身を守るために出さない演出。

世界各国で大きく報じられた理大籠城にて、民主化運動チームは警察の策にやられてしまい、だんだん運動は減速、日本でも報道番組に多く登場したアクネス・チョウも投獄され、尻つぼみに終わった部分もあるが、この作品では、香港民主化運動は終わりではない!という強いメッセージが発せられている。

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香港が大好き!という旅好きな人にこそ、観てほしいと思った。私たちが旅先として訪れる場所には、表面的な華やかな美しい顔と、裏の顔がもちろんある。旅とはもちろん楽しいものであるべきだとは思うけれど、ショッピングとグルメだけで本当に満足できるのか、コロナ禍を経て先に待つ旅は、そこに住む人たちの生活や歴史があってこそ、目の前に広がる風景があるのだ、と感じざるを得ないかもしれない。映画を観終わり、アジア通の友人たちとごはんを食べながら話していた時に、行きつけだった店がもうなくなった、という話題も出た。観光地として愛した香港は、たぶん同じ姿でそこにはいない。コロナ禍とほぼ時を重ねて中国に対して民主化運動を起こした香港人たち。彼らが息づく街に、もう一度訪れられるのはいつだろう。
おいしかったあのお粥屋さんがまだあるといいな、そんな気持ちになった。

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民主化のいちばん大切なメッセージ、香港解放、そして自由を。美しき夜景を背負いながら。●『時代革命』 監督:キウイ・チョウ 2021年、香港映画 152分

そして、中国返還の1997年に香港に渡った私の友人は本作に対し、「また片側からの香港を描いた作品だけが観られることになってしまった」と共通の友人へLINE返信が来たそうだ。デモの間、香港内の移動もままならず、普通の会社員たちは酷い目に遭った。主張が正しくても、活動する側の方策には共感できず。そういう人々が相当数、香港に暮らしていることも付け加えておく。また、香港電影のファンである世界の人々にとって、しばらくの間、香港警察がヒーローになる映画は描かれにくく、秀作も出にくくなるのかもしれない、という悲しみがあることも。いまの時代に『インファナル・アフェア』があっても、誰もが香港警察への偏見がありすぎてまともな気持ちで観られないかもしれない。

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いずれにしても、少し我慢すれば対策を練ったうえでなら、海外へ旅に出ることを人々はスタートするだろう。
その時にもう少しだけ、いままでとは異なる目線で訪れた土地を眺められるといいな、と思う。豊かで美しく気高く、大いなる欠点も内包する中国に、ラブコールならぬ愛に満ちたヴィジットをするためにも……。

東京フィルメックス
毎年秋に開催されるアジア映画を軸とした作家主義の作品を集めた映画祭。小さいながらも、映画愛にあふれるスタッフたちが運営している。下記オンラインにて、『永安鎮の物語集』<上映後Q&A>ゲスト:ウェイ・シュージュン監督は2021年11月23日まで鑑賞可能。
www.online-filmex.jp
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