『リトル・マーメイド』で海中散歩しよう!

 アンデルセンの悲劇から、ディズニーのハッピーエンドへ。いまの時代に合わせて実写映画化された『リトル・マーメイド』は、劇場に訪れる人々の期待度で熱気がムンムン。
パネルの前でセルフィーする人もいれば、女子二人組がロングドレスをペアで合わせてたり(カラーはパステル系のアクアブルーやパープル、ピンクなど)、「作品を観る」ことはもちろんオフラインのイベントとして、大画面で2時間強を目一杯楽しんじゃおう!という観客たちのエネルギーが充満していた。
公開前から、アリエルを有色人種の女優が演じることも話題だったし(実際、主役を射止めたハリー・ベイリーはコケティッシュでめちゃくちゃ可愛かった)、ハビエル・バルデム演じる海の王トリトンの娘たちが、さまざまな肌の色をしていてアジア系のマーメイドまでいることなど、多様性に配慮した設定はいまの時代ならでは。ただ、私が本作にド肝を抜かれたポイントは、こういったメジャー映画のコードではなく……海の描かれ方だった。

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情報通だがおっちょこちょいで陽気なカモメのスカットルや、幼なじみの魚フランダーとおしゃべりする人魚アリエル。
©︎2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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この場面写真を見てもわかるように、アリエルの髪の浮遊感の素晴らしいこと! 演じ手の動きもそうだが、髪やヒレなどの水中での揺らぎ方などがとてもナチュラル。大海原の描写もダイナミズムがあり、一緒のタイミングで鑑賞した同僚は座席が前のほうだったので、巨大スクリーンから流れ出るような水の迫力に圧倒され、船酔いの感覚をおぼえたらしい。船が波間で揺さぶられる難破シーンは豪快で、不安を煽る場面ながら、そのCGへの感動のほうが大きくなってしまった。
「人魚姫」の物語同様、大嵐によって難破する船から王子を救い、人魚アリエルは彼に一目惚れするのだが、アリエルはもともと人間という生き物に興味津々という設定もボーダーレスやインクルーシブを理想とする「いま」っぽさ。

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難破して意識を失っているエリック王子を岸辺に運び、たぐいまれなる美声で歌いかける。
©︎2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

名曲「アンダー・ザ・シー」に合わせて海中生物がダンスするシーンは、アニメーション同様、最高の盛り上がりを見せる。アリエル役のハリー・ベイリーのスピーディな動きやくるくる変わるキュートな表情に目が行きがちだが、7つの海を統治するトリトン王の近くとはいえ、これほど多種多様な生物が集合するのは夢物語でファンタジーだ。アザラシもいれば、エイもいる。時折、これはウミウシ?と見えるような生き物も。コレは棲息場所としてはオカシイ? でも、実写版の踊り子(!)たちはとってもリアルに描かれていて、そのクリエイションのレベルが高く、観ているこちらも興奮してしまう。ヒトデが立って素早く動いたり、魚群が有機的な模様を描いたり、その様を観ているとスキューバダイビングで海中にいるような気持ちになる。実際に私はスキューバダイバーなので、海の中を浮遊する体験には慣れているのです。
いわゆる悪役もめちゃカッコいい。オクトパスの身体を持つアースラ(メリッサ・マッカーシー)はトリトン王の妹だが、トリトンに根深い恨みを持つ魔女。歌声も最高にドスがきいてて、ペットとして近くに置いているのがウツボという、ちょっと海中では幽霊みたいな、人魂みたいな生物を飼ってる点もなんだかカワイイ。

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王子エリックもアリエルに恋心を抱き始める。ここは内陸になる川か湖だが、そこまでアリエルのお守りである魚のフランダーや、トリトン王の執事であるカニのセバスチャンが応援に来るという設定がスゴイ。
©︎2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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監督はロブ・マーシャル。ミュージカル大作の名人だが、最終的には音楽にのせて人間の感情を描く達人でもある。わかりやすいハッピーエンドとはいえ、たくさんの不思議とファンタジーを抱えながらも、父と娘、友情、仕えること、身分違い、など、さまざまな人間的な感傷を高らかに、明るく描き切ったのはさすが。135分を駆け抜けるように観られるはずです!

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ハリー・ベイリーの歌声は必聴。王子を想い、岸のほうを観ながら熱唱する。
©︎2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

『リトル・マーメイド』
●監督/ロブ・マーシャル 
●出演/ハリー・ベイリー、メリッサ・マッカーシー、ジョナ=ハウアー・キング、ハビエル・バルデムほか 
●2023年、アメリカ映画 
●135分 
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 
●6月9日より、全国にて公開中

編集KIM=編集長森田聖美 2024年よりフィガロジャポン編集長。フィガロ歴約30年。旅、ファッション、美容、カルチャーなど、現場時代はマルチで担当。多趣味だが、いちばん大切にしているのは映画観賞。格闘も好きでMMAなどよく観戦に行く。旅は基本的にひとりで行くのが好み。チミーグッズをこよなく愛する。

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