ブルガリ ホテル ローマに見る宝石と遺跡都市の魅力。

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大理石が廃された瀟洒なホテル内部。ブルガリのアンバサダーのひとり、プリヤンカー・チョープラー・ジョナスがオープニングに訪れた。© Bvlgari Hotels & Resorts

映画好きにとっては、ローマは特別な街だと思う。フェリーニの名作のトレビの泉、オードリー・ヘプバーンがジェラートのコーンをポイ捨てするスペイン階段や、真実の口でのご愛嬌、ヴェスパで走り回る道など、生き生きとした描写の名シーンが撮影されたことはもちろん、一度でも訪れれば歴史遺産の傍らに庶民的なトラットリアがあったり、街の中に花や果実の香りが漂っていたり、7つの丘から美しい街並みが眺められる、そんなシネマティックな街のムードにとことん魅了されるはずだ。

ローマを創業の地とするイタリアブランドはたくさんあり、老舗ジュエラーのブルガリもそのひとつ。古代の貨幣を使用したコレクションや、鮮やかな色彩の貴石や半貴石が有機的にデザインされた生き生きとしたジュエリーの数々は、まさにローマ的な美学だと個人的には感じている。

ジュエラーとして高名なブルガリだが、これまでにミラノ、バリ島、ロンドン、東京の八重洲など、世界中にホテルを作ってきた。そして2023年6月、創業の地ローマのテヴェレ川のほとりにあるアウグストゥス帝の廟の向かいに、ブルガリ ホテル ローマをオープン。約2年をかけて23年6月8日のオープニングデイまでの様子をドキュメンタリー映画に収めたのが本作『エンペラーズ ジュエル 皇帝の宝石 - ブルガリ ホテル ローマができるまで』だ。

映画の中に登場するのは、イタリア全土からこのホテルのために選ばれたクラフトマンシップを支える最上級のクリエイターと職人たち。ブルガリのヴァイスプレジデントでありホテルズ&リゾーツ部門を立ち上げたシルヴィオ・ウルシーニが、

現代はほとんどのことがデジタルで行われているが、ここを造る際には"人の手"を重視した、それは決して懐古趣味を強調するためではなく、ホテルを人の温もりで作り上げるためである......

というような言葉を述べた。その言葉をスイッチに、本作は人の叡智と「手」が創る素晴らしい建築に関わる人々の姿を追いかけてゆく。

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ローマの光を受け止める窓の装飾。© Bvlgari Hotels & Resorts

ローマという都市をつくったアウグストゥス帝の彫刻がエントランスに置かれるのだが、その修復士の仕事も映し出す。年月によって色が変化してしまった表面の汚れを丁寧に取り去り、欠けた部分を同じ成分の石を探して継ぎ加工する。

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壁画には鮮やかな自然の風景も描かれる。© Bvlgari Hotels & Resorts

各部屋に置かれるファブリックは古代からある文様を軸にした柄行などを含みながら、ほとんどすべてが機械ではなく人の手で織り上げている。

ブルガリのジュエリーのデザイン画を着想源に、さまざまな色彩のガラスを用意し、まるで点描画のようなモザイクのバラ窓が仕上げられる。

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モザイクを並べる気の遠くなるような作業。© Bvlgari Hotels & Resorts
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プリヤンカー・チョープラー・ジョナスが屋上を歩く。© Bvlgari Hotels & Resorts

屋上に敷かれるテラコッタ素材にもこだわりがあり、一人前になるまで7年も修行する工房がじっくり時間をかけて焼き上げた逸品が運ばれ、ヘリンボーンを描く屋外の床が出来上がる。

スパで使用される大理石にいたっては、石切り場から巨石を運び出し、天然のストーンが持つ色柄を合わせ、スムースに加工されて、古代ローマの浴場のようにロマンが漂う荘厳な浴槽エリアに配置される。

あらためて、イタリアという国は「時間」に対して敬意があり寛容かつ繊細なのだ、と思った。ミラノの洗練された規律的な雰囲気に比べて、ローマには美しいカオスがある、と感じる。そして、時間を投資して何かを創ることや、大昔に作られた物事に対して愛着が深いなど、時に対する概念が伸びやかで、創造への限りない情熱を持っていることを本作で体感できる。

パーフェクトに完成したネオクラシックな建造物だけではなく、もちろん、お皿の上に広がる芸術的な料理や、スタッフの温かなホスピタリティもブルガリ ホテル ローマの大きな魅力だ。

そして、世界の映画ファンを魅了するインド出身の俳優、プリヤンカー・チョープラー・ジョナスが映画の冒頭とラストを飾ることも見逃せない。2012年に製作された映画『バルフィ!人生に唄えば』で心に残る演技を見せ、美しい顔立ちを意図的に隠すようにあどけない町娘を演じたプリヤンカー。彼女がローマのからっとした青空の下、空に溶け込みそうな青いシャツでホテルの屋上を歩き、パーティではオープニングに合わせて作られたアウグストゥス帝の顔が描かれたコインを用いたイエローゴールドのハイジュエリーを纏って登場する。

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ペンダントトップには大きなコイン。プリヤンカーのツインテ―ルのヘアスタイルも愛らしい。© Bvlgari Hotels & Resorts

贅を極めた演出。しかし、真のリュクスとは、創ることに情熱を注ぐ人々の手で仕上げられた愛の証なのだと、このドキュメンタリー映画を観ると気づくはずだ。

どんな時代においても、心を込めて作られたものは美しく、流れる「気」は素晴らしく快い。ローマの都の新名所ブルガリ ホテル ローマを画面で見るだけでなく、いつか訪れたいと感じるはずだ。

『エンペラーズ ジュエル 皇帝の宝石 - ブルガリ ホテル ローマができるまで』
●監督/アンドレア・ロヴェッタ 
●出演/プリヤンカー・チョープラー・ジョナス、ジャン-クリストフ・ババンほか 
●2024年、イタリア映画 
●62分 
●Amazon Prime Videoにて配信中 

2024年よりフィガロジャポン編集長。フィガロ歴約30年。旅、ファッション、美容、カルチャーなど、現場時代はマルチで担当。多趣味だが、いちばん大切にしているのは映画観賞。格闘も好きでMMAなどよく観戦に行く。旅は基本的にひとりで行くのが好み。チミーグッズをこよなく愛する。

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