ひたむきな想いに心が焼かれる『恋空』の三浦春馬。
編集KIMのシネマに片想い 2025.04.05

透明感あふれる新垣結衣と三浦春馬のふたりが主演して、2007年当時、ティーンエイジャーを中心に一世風靡した映画。それまでも三浦春馬という若手俳優は認知されていたけれど、本作がその人気を決定づけたと記憶している。
恋が自分自身に降りてくるのを待っている高校生の女の子たち。新垣結衣演じる美嘉は、学校の廊下でぶつかった桜井弘樹(三浦春馬)が想いを寄せてくれていることに気付かず、落としたガラケーを拾ってくれた男子(=桜井弘樹/ヒロ)が誰であるかもわからぬまま、彼が送ってくるメッセージやかけてくる電話に導かれ、大らかな優しさと強引さにだんだん惹かれていく。携帯のメッセージと声だけで親交を深めていくふたりは夏休み明けの学校のプールでリアルに会い、純真な美嘉はアニメのヒーローのような立体的な金髪のヘアスタイルをした不良っぽい男子(三浦春馬演じる桜井弘樹/ヒロ)にがっかりし、怯える。でも、ヒロが持つ熱い想いやロマンティックな性格に気付いて、本当の恋に浸っていく。
透明感あふれるふたりのティーンの姿が印象に残る。新垣結衣のお下げ髪、チェックのミニスカートの制服。三浦春馬の金髪や、ネクタイを緩めパンツインせずだぼっと羽織るシャツ。着崩した制服姿でもカッコいい。種類もわからぬまま庭から引っこ抜いた花でお手製のブーケを贈り、ホースから出る水しぶきで虹を描いて美嘉を喜ばせるヒロ。
女の子はいつだって、ロマンティックに強引に連れていかれるのが好きなのだと思う。授業をさぼって自転車に二人乗りして行く野原までの時間も愛しいくらい。ふたりの恋が深まるのと比例して、美嘉には次々と不幸が襲う。暴行、家族の不和、流産......しかしながら、どんな辛い時でもヒロは美嘉を守り抜こうとする。
この映画で繰り返しメッセージされているのが、思い出のリフレインと、しあわせ。
ヒロとの大切な時間やエピソードはずっと美嘉の中に残っていて、新しい人と出会い、印象的な出来事が起こっても、決して「上書き」されない。新しい出来事たちは、ヒロとの懐かしい思い出を記憶の中で再現するスイッチになるだけだ。
そして、自分が純粋な想いを寄せた相手が自分の存在によってしあわせであるか、しあわせになれるかどうか。主人公ふたりだけではなく、美嘉の家族も友人も新たな恋人もみんな、「愛する人をしあわせにしたい」という思いにあふれ、その思いによって苦しんでいる。

記憶は、人をしあわせにも不幸にもすると思う。でも、記憶をどう心に残して共存していくのかは、それを抱いている人にしか選べない。本作は結論を「空」に捧げた。いつまでも覚えているよ、という約束は空を見上げればいい、そこに居るから、と。
空は快晴であるよりも、雲によって翳りがあるほうが美しい、と常々思う。さまざまな表情があるほうが深い奥行があるから。


『恋空』
●監督/今井夏木
●出演/新垣結衣、三浦春馬、小出恵介、香里奈、臼田あさ美、中村蒼ほか
●2007年、日本映画
●本編129分
●DVD プレミアム・エディション¥6,270、スタンダード・エディション¥4,180
発売元:TBS 販売元:東宝
Ⓒ2007 映画「恋空」製作委員会