サマーソニック09報告
Music Sketch 2009.08.18
時が経つのは速いもので、怒涛のサマーソニック09から一週間が経ちました。今回は取材が現地・幕張メッセではなく東京で行われたので、サマソニ終演後も取材に追われ、ようやく最近になって通常の生活に戻ってきた気分です。
7日(金)の初日は、現地に着いたのが昼過ぎ。友人はお目当てにしていたKatty Perryが疲労のために来日中止になっていて大ショック。ちょうど最新シングル「ウォーキング・アップ・イン・ヴェガス」が全米チャート第1位に輝いていた時期で、でもNo Doubtのツアーに同行するのをキャンセルしたくらいだったので、本当に倒れてしまったのでしょう。
毎回食べている焼津の上トロ丼で気持ちを入れ替え(昼食時のダイノジのお笑いパフォーマンスが異常に盛り上がっていました)、マリーンスタジアムへ。ライヴに定評があり、私も今回のツアーを2度も観に行ったDragon Ashに続き、Paramoreが登場。ヘイリーが日本の女子高生のセーラー服で登場したのは予想外で、しかも、パフォーマンス全体から華を感じることができず、ややガッカリ。一緒に観ていた男友達は「セーラー服だけでも嬉しい!」と、喜んでいましたが、私はそういう音楽でもないのに、と思ったり。最後に歌った映画『トワイライト』の「ディコード~恋の暗号」は良かったけれど、10月に発売になるニュー・アルバムの出来が良いだけに、期待し過ぎてしまったかも。屋外よりも室内向きのバンドなのかもしれませんね。
Nine Inch Nails:残念ながら当日の写真を入手できず。これは今年6月6日PNC Bunk Arts Center, NJで行われた時の模様。サマソニでは、こういったステージの周辺に稲光が飛び交っていた、ドラマチックなライヴになりました。Photo by Rob Sheridan
幕張メッセ会場へ戻ってからは、Mercury Rev、Daterock、the HIATUS、Mew等を数曲ずつチェック。その後はビーチステージで行われるJack Penateに惹かれたけれど、雲行きが怪しくなってきたし、今年でトレント・レズナーは見納めといわれているNine Inch Nailsを観に再度マリーンスタジアムへ。......で、これが本当に凄まじかったんです。急に空が暗くなったかと思うと、豪雨に落雷到来。その荒れ具合は、ステージの照明が点滅しているのか、雷雲が激昂しているのかわからない有様で、しかもステージ前の観衆は大雨に打たれても退出することなく彼らの緊迫感に満ちた演奏と叫びを浴び続けていて......。稲妻が落ちるのをバックに演奏するなんて、サマーソニック10周年を飾るにふさわしい劇的ロックな瞬間の連続でした。今回のベストアクトの1つでしょう。
Soulwax:ダンスミュージックを力強い生演奏で展開。大盛況でした。
その後は幕張メッセに戻り、Mogwai、Soulwax、Kasabian、Aphex Twinと見たのですが、どれも素晴らしいと感じたものの、既に頭はNine Inch Nailsに占領されていて、思うように体感できず、この日はとても疲れ切ったこともあり、22時前には退出しました。
8日(土)の2日目は、取材することが決まっているLenkaの12時スタートを目指して会場へ。ジャズ好きな両親からの影響か、ミュートを使ったトランペットでの色彩の加え方が素敵で、またLENKAも「やった~!」といった日本語を巧みに使って会場を盛り上げていました。
Lenka:チャーミングなライヴを繰り広げたレンカ。ステージに置かれたオブジェは、恋人でもあるアーティスト、ジェームス・ガリヴァー・ハンコックによるもの。詳しくは次回のMusic Sketchに紹介。
Paolo NutiniからワーナーのIさんとキマグレンのスタッフAさんと合流してLittle Bootsを前の方でチェック。前列はメンズ度が非常に高くて、やはり美しい人には男子が勢揃いするんですね。そのままIさんと大好きなYuksekへ。ちょうどダンスステージに流れた時に「Tonight」を演奏していたので興奮し、踊ってしまったけれど、その後のつなぎ方が微妙で、不完全燃焼。なので食欲で満たすために、本日も焼津の上トロ丼へ。
Little Boots:今年のグラストンベリー09でも好評だった、ロンドンの新進気鋭のデザイナー、ヘンリー・ホランドのスワロフスキーを使った衣装。足にも施され、照明に反射して、とても美しかったです。ステージ上ではテノリオンやテルミンを駆使し、キーボードとドラムスを率い、独自の世界を展開。
Iさんに連れられてビーチステージのNattyを見に行くと、畳の海の家に知人友人が集まっていました。Nattyの演奏をバックにお喋りしてしまい、結局彼の顔を見ることなくHoobastankのマリーンスタジアムへ。本当はThe Horrorsも見たかったんですが、FIGARO Japonの副編Uさんはじめ、お誘いのメールがわんさか入り、席を取っていてくれた友人M氏に合流。まだ明るい時間にも関わらず、アリーナもスタンド席もほぼ満杯で、しかもその全員を唸らせるようなパフォーマンスを展開し、どのくらいHoobastankが日本を気に入っているかを全身全霊で示してくれるかのような熱いライヴでした。
Hoobastank:本当に大人気。ヒット曲も多く、誰からも愛されるロック・バンドですね。笑うと、つい表情が崩れすぎてしまうダグは、祖母が日本人。
前日はいろいろなものを数曲ずつ見て、結局なかなか印象に残らなかったので、今日はそれぞれのステージをじっくり専念してみることに。Lady Gagaが入場規制がかかるほど混みそうだったので、私は幕張メッセ会場に戻り、Tom Tom ClubとElvis Costello And The Impostersを見てからは、CSS、Klaxons、Lady Gagaが登場するとソニックステージに留まることにしました。
CSS:全身タイツの衣装で有名なヴォーカルのラヴフォックス。この日は全身光モノで登場。彼女は日系三世で"マツシタ・ハナエ"という日本名も持っています。
そして、これが予想以上に大正解。久々に見たCSSは、フェスというかパーティにふさわしい華やかなステージを繰り広げました。演奏がしっかりしてきたので、フロントのラヴフォックスがこれまで以上に縦横無尽に振舞い、後半になるとビーチボールなどが会場に飛び交っているうちに、勢い余って他のメンバーも会場に飛び込むほど。どんどん観客が集まってきて、会場も満杯でした。CSSと親交の深いKlaxonsも前回よりも演奏がシャープかつタイトになっていて素晴らしく、本当に新作が楽しみになりました。
そしてLady Gaga。時間が22時30分スタートと遅かったからか、心配していたほど混まず、マリーンスタジアムでLinkin Parkを見た男友達が「大至急移動したらLady Gagaのステージ前まで進めた」と話していたほどだったので、世間のLady Gaga旋風とフェスに来る人たちには温度差があるのかしら、と思ったり。
Lady Gaga:おそらくこのマスクもお手製なのでは。
そのGaga様、インタヴュー時に語ってくれたように、前回とは違う『HOUS OF GAGA PRESENTS WHO SHOT CANDY WARHOL』というフィルムからスタートし、1曲目の「パパラッチ」からギター、ベース、ドラムスを従えて、ハードロックばりの演奏をバックに展開。取材時に「好きな男の影響で、ヘヴィロックばかり聴いているの」と話していましたが、たぶんロック・フェスということを意識して、さらにロックなアレンジにしたのでしょう。「コンニチワ、トウキョウ。ハロー、リトル・モンスター。私にとってアジアで最初のフェスティヴァルよ!」と挨拶した後、「ダーティ・リッチ」ではもろパンク風の間奏が入ってしまうし、ロック度の高いパフォーマンスに初めて見た人は圧倒されたかもしれません。
自らキーボードを首から提げて「ラヴ・ゲーム」などを演奏。
その後は日本人形を意識したような赤い衣装を着たまま赤いスクーターに乗ってステージに再登場、上着を脱ぐと赤いビキニ姿になったりと、アンコールを含めて4着ほど衣装替えをしたように思いました。会場の広さに比べてスクリーンが1基もなかったので、後ろの観客にはかなり見えづらかったようで、直前までオススメの上トロ丼を食べていた副編Uさんも、見えなくてほとんど堪能できなかった様子。こういったヴィジュアルを重視したショウは単独公演向きなのかもしれません。ちなみに友人のパリス・ヒルトンと一緒に来日していて、パリスも会場を歩いていました。
9日(日)最終日は、早起きが無理そうだったので、取材が決まっている13時過ぎのThe Temper Trapを目指して会場へ。表参道で友人Tさんをピックアップして高速に乗ると、意外と空いていて予定よりも30分以上も早く到着。運転のお礼に、Tさんが上トロ丼をご馳走してくれました。
The Temper Trap:オーストラリアのメルボルン出身、現在はイギリスに移住し、イギリスのメディアがこぞって絶賛している話題のバンド。デビュー・アルバム『コンディションズ』(日本は9月30日発売)は、ビョーク、アークティック・モンキーズ等を手掛けたジム・アビスがプロデュースしている。
で、The Temper Trapが実に素晴らしかったです。「レスト」から、レディオヘッドの影響を感じさせる最後の「ドラム・ソング」に至るまでをたっぷり堪能し、翌日もライヴがあれば絶対に行きたいと思ったほど。古くはファイン・ヤング・カニバルズに象徴されるファルセット・ヴォイスって、私は好きではないのですが、インドネシア人のダギーから発せられる美声には哀愁感に加え、希望の光とピースフルな安堵感が混在していて、聴いているうちに涙がこぼれそうになるほど。ベースのジョニーが不思議なダンスを踊るようにリズムを取って演奏するので、それだけちょっと目に付きましたが、アコースティック曲を含め、ダギーの歌がエモーショナルなグルーヴと共に曲全体を高みへと昇華させていく流れが美しく、Tさんと感激していました。
Razorlight:フロントマンのジョニー・ボーレルは、2年ほど前にキルスティン・ダンストの恋人として有名になったことも。
この日も、時間のある限りいろいろ会場を覗いて見ましたが、Keaneは室内の方が向いていそう、と思ったり、Paramoreではないですが、時間帯と会場によってライヴの感じ方が違うように思いました。Razorlightの際にまた土砂降りになったのですが、ヴォーカルのジョニーは、豪雨に濡れながらも見てくれているファンのために、自分もアリーナに降りて雨に打たれながら歌い続けていて、その温かい心意気に感動しました。私は友人とスタンド席で見ていたのですが、ユニコーンが登場するまで、雨に濡れたアリーナのシートの上で水上スライディングをして遊んでいるファンが数人いて、彼らが係員に怒られるまで、スタンド席のみんなが温かい声援を送って見守っていたのが楽しかったですね。
Sonic Youth:圧倒的なパフォーマンスは、芸術的と呼びたくなるほどあらゆる感情を呼び起こしてくれました。
残り少ない演目となり、何を見ようか心底迷い、特に見事に時間が重なったBeyoncéとThe Flaming Lipsは迷ったのですが、まずは取材が決まっていたThe Flaming Lips を見始めたところ、あまりに凄いことになっていて、結局Beyoncéは友人にしっかり見てもらうことにして最後までソニックステージにいることにしました。翌日に中心人物のウェインに取材をしたのですが、本当にこの人はユニークですね。またあらためてしっかりご紹介したいと思いますが......。
The Flaming Lips:イマジネーションの塊と呼ばれる中心人物ウェイン・コインは"スペース・バブル"と自らが呼ぶ巨大な風船に入って登場し、しばし観客の頭上を渡り歩く。キャサリン・ハムネットからバーバリーまでを着こなす、ダンディさんでもある。
音楽から発する壮大なスケール感そのままに、ライヴの冒頭からスモーク砲が飛び交い、紙吹雪が天井から降り注ぎ、瞬きをするのが惜しいほどマジカル・ファンタジー・ワールドが次々と展開される。
風船の中に紙吹雪が大量に詰まっているものがあり、ウェインが演奏しながらギターのヘッドで割っていく。
ステージの向かって右には多数のセクシーネコ、左にも同数ほどのカエル、他にもいろいろな怪物!?がステージ上に登場。「生命のあらゆる神秘に好奇心を駆られている」と話すウェインならではの、想像力とメッセージ性を持ったパフォーマンスが1時間20分ほど展開された。
今回サマーソニック09を観ていて思ったのは、音楽は決して競い合うものではないけれど、真摯に自分と向かい合って完成した音楽をどれだけみんなに本気になって聴いてもらえるかと、時には戦うくらいの気合で、どのミュージシャンも全力を出し切ってパフォーマンスしているのが実に気持ちよかったこと。それぞれの音楽の好き嫌いは多少あるとしても、手を抜いている人なんていなくて、限られた時間内で120パーセントの自分を出し切る勢いがあり、しかも誰もが日本を気に入ってプレイしているのが伝わってきて、それも嬉しかったですね。それにしても、ウェインが話していましたが、The Flaming Lipsと、R&B系のBeynceとニュー・メタル系と呼ばれるLimp Bizkitが同じ時間帯に演奏しているフェスティバルは、サマーソニックくらいでしょう。もっともっと見たいバンドやアーティストがたくさんいたのに、身体が1つしかなくて残念。来年までに、私も体力をつけておかなければ!
PHOTO:(c)SUMMER SONIC 09 all rights reserved(Nine Inch Nailsを除く)
*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh