実験的音楽を創造するホーリー・ファックにインタビュー
Music Sketch 2016.10.28
2004年にカナダのトロントで結成され、ガレージセールで購入したシンセサイザーやドラム・マシーンを駆使し、実験を繰り返しながら先鋭的な音楽を発表してきたホーリー・ファック。パンクな精神を掲げつつ、ノイジーでハードコアからエレクトロニカまで混在させたインストゥルメンタルのダンスミュージックは、カナダのインディーズシーンはもとより、バトルズをはじめとするアメリカのインディーズシーンや、フォールズなどのUKバンドからも注目されてきた。最新作『コングラッツ』ではヴォーカルが入った曲が加わるなど、さらに進化している。9月末に3度目のコンサート来日を果たしたバンドの、中心人物ブライアン・ボーチャードとグラハム・ウォルシュに話を聞いた。
(写真左から)グラハム・ウォルシュ、ブライアン・ボーチャード(共にキーボードとエフェクト機材を担当)
「Red Lights」ホーリー・ファックを有名にした、猫のミュージックヴィデオ。3枚目のアルバム『Latin』より。
■ポップであることを意識した曲作りを初めてやってみた
—常にチャレンジしてきた中で、今回特に尽力した曲はどれですか?
グラハム・ウォルシュ(以下、G):「『Neon Dad』だね。でも、一番チャレンジしていない曲に聴こえるかもね(笑)」
ブライアン・ボーチャード(以下、B):「自分たちはエクスペリメンタルだったり、ビートだったり、ノイジーなサウンドを作ることに慣れているわけで、普段作っている音楽がポップじゃないから、Holy Fuckというバンドでポップをやることに対して心地よさを感じるのに時間がかかったんだ。書こうと思えばポップソングは書けるんだけどね(笑)。今は4人で演奏するという意味でコミュニケーションを取れるようになって、もっとミッドテンポな曲も作れるようになってきたし、1歩下がって見てみて、ヒップホップみたいのやメロウなものをやってみてもいいんじゃないかとか、違うダイアログで見られるようになった。それが今の自分たちのバンドの変化だと思う」
—この曲はどのようにしてできあがったのですか?
B:「いつもと同じで、4人が一緒になってアイデアを投げ合って、そこから演奏してみて、リハーサルでサウンドチェックしてみて、という流れ。今回もアイディアを交換していく中でいろんなダンスのアイディアも出てきたし、その中でポップっぽいものがあった。もちろんアグレッシヴなものもあるけど、それを別にボツにするわけではなくて、そこからHoly Fuckのサウンドを意識しながら何かを作っていった」
G:「ダンスであろうが、ポップであろうが、ヘヴィメタルであろうが、自分たちはいろんなものから影響されているので、それをいつもやっているエクスペリメンタルというか、そこにひねりを加えることが一番意識したことかな」
「Neon Dad (Live on KEXP)」最新アルバム『Congrats』より。
― 私は前作『LATIN』がものすごく好きで、あのアルバムの中では「STAY LIT」が歌モノ的な存在だったと思います。
B:「その通りで、今までもポップな要素のあった曲はあったよね」
—でも、前作では楽器と歌メロが非常に近い関係性を持っていましたが、今回のアルバムの中でも「Neon Dad」は特に歌モノと言っていい曲で、驚きました。音源ではカルメン・エル(同郷トロントのバンド、アーミー・ガールズのVo&Gt)が歌ってますし。
B:「シドニーでライヴのリハーサルを4人でしていて、8回か9回ほどジャムセッションしていくうちにイントロができて、携帯にセッションをレコーディングしていった。だいたい曲作りはいつもこんな風に始まるからね。採用したのは自分たちが好きだからだと思う。“このアイデアをもう1回作り直していこうか”というところから広がっていって、あの曲ができたんだ」
G:「ブライアンが方向性を決めて、“ちょっとポップだけどやってみよう”ということになって、自分たちは確信できていなかったけど、友達やレーベルのスタッフに向けて演奏したら、みんな気に入って“レコードに入れた方がいいよ”と言ってくれて、それで入れることにしたんだ」
「Stay Lit (Radio K live at SXSW)」
■機材の間違った使い方をして、効果を生み出している
― 音の構築ということでいうと、「Shivering」や「Sabbaties」の曲調が好きなんですけど、音源として作るのとライヴで演奏する内容は同じにしているのですか?
B:「『Sabbaties』はいまだに模索中だよ。『Shivering』も最初は大変だった。今夜のライヴもどうなるか、自分たちも楽しみなんだ(笑)。ノイジーとクワイエットの組み合わせが凄く微妙なところでね。自分たちはあえて機材の間違った使い方をやって、あのヴォーカルの効果を生み出しているので、毎回どうなるかわからない。正しいやり方だったらいくらでも練習すればいいけどね」
― 間違った使い方?
B:「そうだよ。ラインを違うミキサーに取り込んだりして、そのリアクションでサウンドに違いが生まれるんだ」
― 面白いですね。ブライアンは子供の頃はどんな子だったのですか?
B:「笑。すごいハイパーだったよ。じっと座っていられなかった。スポーツよりも、いたずらとかやんちゃばかりしてた」
G:「ブライアンの世界観は全然違うんだ。理解できない人もたくさんいると思うよ。いつも違う角度からアイデアが来るからね」
― グラハムもヘンなところはありますか?
B:「あるね(笑)」
G:「というか、人と違うようにしようと心がけているよ。音楽に関してのみだけど、その方がよりクリエイティヴになれるから。僕は中流のとても退屈な家庭で育った。都会でも田舎でもないような場所で、MTVがすべてみたいな環境だった。だから自分から面白いものをクリエイトしていかないと、面白くないなと思ったんだ。ブライアンと出会ってからは、彼からインスパイアされて箱の外からものを見るようになったよ」
「Tom Tom」最新アルバム『Congrats』より
■妥協しないで何かを表現することが面白い
― 曲を作るのはモチべーションがいると思いますが、音楽のどこに面白さを感じていますか?
B:「自分たちがまず音楽に対して誠実であることが大切だけど、もちろん妥協しないで何かを表現することが面白いし、それに対して人からポジティヴな反応をもらえることが本当に嬉しくて、面白味を感じる時だね。Holy Fuckの音楽はインストゥルメンタルなのにもかかわらず、パーソナルになれる音楽、人がそれに繋がりを感じることができる。そういう音楽を作ることが面白いし、もう一つやりがいを感じられるのが、今まで僕らは他と違う音楽を作ってきたわけだけど、2016年になって“Holy Fuck的なサウンドのバンドが出てきたな”というのを感じるようになった。自分たちが影響を与えることができているというのがとても嬉しいね」
― 具体的には?
B:「サウンドというよりスピリットだね。どんな音楽をやっているかというのは関係なくて、“好きなことをとことんやる”ということ。僕らが活動を始めた2005年頃は、ほとんどのバンドが人の反応とか気にして、勇敢であることに慣れていなかったと思うんだ。みんなを喜ばせるための音楽を作っていたバンドが多かった。今はみんな恐れずに、ノイジーなものを作ることができるようになってきている。実際に若いバンドから直接“インスピレーションをもらいました”という声をもらう時もあるよ。あと、若い子たちが僕らの音楽を通して、“エレクトロニックミュージックとライヴミュージックの融合”というのを知るとか、“ベッドルームで曲を作っていたけど、Holy Fuckのステージを見て、ドラマーとコラボすることもできるんだ”とか、そういうスタイルでも影響を与えることができているんだなと感じるんだ」
― グラハムは音楽をやっていて喜びを感じる時は?
G:「エモーショナルなアイディアが浮かんできた時だね。今回だと1曲目の『Chimes Broken』。小さなループからキーボードのプリセットのシンセとかのアイディアが被さってできたんだけど、このループが決め手になった」
「Chimes Broken (Live on KEXP)」
■カナダ政府はミュージシャンを50年ほど前から支援
― 最後にCDのアートワークに“This project is funded in part by the Government of Canada”と記してありますが、これは?
B:「レコードを制作する資金をカナダ政府が出してくれたんだ。このシステムは50年くらい前からあって、ずっとアメリカの音楽がラジオチャートをなどを独占していたから、カナダの音楽を発展させるためにレコーディングやツアーやミュージックヴィデオの制作などに政府が支援するようになった。ずっと陪審員によってジャッジされていたけど、そのルールがなくなったので申請してみたら、Holy Fuckは何年も活動していてワールドツアーもやっているし、ファンもいるので選ばれることができたんだ。この援助が始まってからゲス・フーやラッシュといったカナダを代表するバンドが次々と出てくるようになったんだよね」
「Lovely Allen」2枚目のアルバム『LP』より。
4枚目のアルバム『Congrats(コングラッツ)』。
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(写真左から)グラハム・ウォルシュ(Key&Effects)、マット・シュルツ(Dr)、ブライアン・ボーチャード(Key&Effects)、マット・マクエイド(Ba)
*To be continues

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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