激動の2014年を終えたtricotの最速インタビュー
Music Sketch 2014.12.26
今年最後の記事は、tricotの最新インタビューを。以前に掲載したように今年3月にはアジア・ツアー〜東京・大阪ワンマン〜ドラマー脱退......と、波乱の1ヶ月を過ごし、その1週間後には急遽サポートドラマーを迎えてマキシモ・パークのオープニングアクトを務めたのをはじめ、5月から全国ワンマン・ツアー、7月には野外フェス4本を中心としたヨーロッパ・ツアーなどの全日程を激走。8月のシングル『Break』リリースや年末の自主企画ライヴ"爆祭"の間にも、多数のフェスやイベント、学園祭、対バンライヴ、TV番組公開収録などに出演し、激動の一年を無事に終了することができた(ライヴは26日と29日に2本残すのみ)。来年3月にリリースするアルバムの作業もほぼ終えた3人に話を聞いた。

京都と滋賀出身の3人で2010年9月に結成。Photo:伊藤香織
■ サポートドラマーを迎えての激動の一年
―この一年を振り返っていかがでした?
ヒロミ(以下、H):「目まぐるしい感じではあったんですけど、海外に行けて充実してたし、大変というより凄い経験になったと思います。一番はドラムが抜けたことが大変というか、自分らの曲は複雑なので、誰かに曲を覚えてもらって、一緒にやって......ということが大丈夫かなと思ったし、既にライヴもいっぱい決まっていたんですけど、もともとtricotはドラムがいなかった3人組ですし、"なるようになる"と思いながらやっていました。いろいろありましたけど、経験を積んだし精神的にも成長できた一年だったかなと思います」
キダ(以下、K):「ドラムのサポートは当たり前にうまい人たちばっかりで、それについていくという感じで、自分も技術的にも精神的にもちょっとレベルアップしたかなと思います。ヨーロッパとかも行ったりして、そういう意味でタフになったかなと」
中嶋(以下、N):「今年はターニングポイント的なことがありすぎて、最初は無謀かなと思っていた事も、なんとかやり切ってしまったんで(笑)。ドラムが抜けてからすぐ4月に決まってたライヴを美代さん(山口美代子:detroit7他)の力を借りてやれて、そこの出会いも恵まれていましたし、美代さんがワンマン・ツアーにも来てくれて、だんだん凄いグルーヴでガチってなった状態でヨーロッパ・ツアーへも一緒に行けたし、その後も東京で男女それぞれ限定のライヴをしたりとか......。最初はフルアルバムをこの3人の状態で完成させられるのか不安だったんですけど、ヨーロッパから帰ってきてから曲を作り始めて、しかもその間も爆祭の準備も同時進行で全部やったりして、本当に忙しかったですね。でも、ドラマーを誰にするとか考えているのも楽しかったですし、いろんな人に叩いてもらって凄い刺激も受けて、ちゃんとtricotにはなっているけど、新しい要素も発見できたし。来年もいろいろ楽しいことが決まったので、いい一年だったと思います」

チェコのプラハ城で
―tricotが求めているドラマー、作りたい音楽ってどういうものなのだろうと思って観ていたけど、今はいろいろなドラマーとやることによってバンドが成長してきたという方が大きい?
N:「ドラムのプレイももちろんなんですけど、美代さんの性格が凄くやりやすかったですね。最初は曲が難しいっていうのが大きくて、お互いにベストな状態にすぐには持っていけなかったんですけど、少しずつライヴやリハを重ねていって音としての団結力というか、みんながバン!と出したい時や、ガーッと行きたい時に美代さんも一緒に行ってる感じがあって、凄く気持ち良かったですね。こう叩いてほしいとお願いしたことが、次にはすぐできてるところも尊敬するし、自分の刺激になりました」
K:「サポートでやり始めた時は、自分の中にあったのがkomaki(前ドラマー)の音で、"そういうふうに叩いて下さい"というお願いとかもしていたんです。でも、やっていくうちにサポートの人の色を出せるようになってきたし、これまでの音にこだわらなくてもサポートの人とこれまでのtricotになかったところと一緒に合わせて音が出せるようになってきたというのが、今の強味でもあるかなと思います」

チェコのフェス《ROCK FOR PEOPLE》のステージに上がる前の様子
■ 個性的な人を選んで、より大きい化学変化を
―リズム隊という面で、一番大変だったベースはどうですか?
H:「サポートの人がみんなメチャメチャうまいのは当たり前で、個性は全然違うし、安定感も凄いんで、そのパワーに自分が負けないようにというか、いろいろな挑戦ができて凄くいい経験になっているから嬉しいですね。こういう機会はなかなかないし、いろんなグルーヴで自分のベースの弾き方を考えられるというのは貴重な経験だなと凄い思って。ノリに自分も合わせたり合わせてもらう感じとかだんだん掴めていくし、美代さんとは演奏回数が多いから、だんだん寄り添っていく感じがお互いに掴めた時は嬉しいし楽しかったです」
―他にもYuumiさん(FLiP)や千住宗臣さんと叩いているライヴも観に行きました。どういうふうに合わせていったの?
N:「人によるんですけど、特に千住さんはオリジナリティが凄くて、うちらが"こうして下さい"と言っても全くその通りにはならない(笑)。常に千住ワールドが入ってきてて、凄かったですね。曲の中だけじゃなくて、スタジオでの会話も凄くてスピリチュアルで面白くて、最高でした。レコーディングで叩いてくれたBOBOさん然り、うちらが個性的な人を選んで、より大きい化学変化を求めているところがあると思います」
―お願いした限りは、もう世界観を出してもらっていいですよ、みたいな?
N:「はい、新しいものとして捉えてました」
―NHKの番組収録でのライヴや、爆祭の演奏もキレッキレで、キダ先輩のギターも変わってきた気がしますね。負けてられないもんね(笑)。
N:「サポートに負けるなんてなぁ(笑)」

2014年12月19日に梅田Shangri-Laで開催された自主企画ライヴ《爆祭−BAKUSAI-VOl.10》。bacho、後藤まりこも出演。 photo:Ohagi
■ 初のヨーロッパ・ツアーは野外フェス
―夏のヨーロッパ・ツアーどうでした?
N:「1本目のチェコが始まる前はどれくらい人が来るかとか、どういう空気なのかとか全然わからなかったので、いつもの通りにライヴをしたんですけど、それで凄い良かったと思うようなことが多かったです。お客さんの反応もストレートで"良かったらいい、つまらんかったら出て行く"というスタイルだったので」
―MCでは日本語でも喋っていましたよね。
N:「そうですね。Ustreamがあるところでは、見てくれている日本の人にも伝えたいことがあったので、ありのままで行けて良かったなと。アジア・ツアーの時はtricotを知ってて来てくれる人が多かったんですけど、ヨーロッパ・ツアーはフェスで、ほとんどtricotを知らない人が音楽をいいと思って集まってくれたので、ステージから見てて凄い気持ち良かったよかったです」
K:「アジアとは違うのは、機材が全然しっかりしていました。音が鳴らないということはなかったし」

チェコのフェス《ROCK FOR PEOPLE》でのステージ
―ピクシーズのオープニングで出演した時はどうでした?
H:「森の中みたいな会場で、凄くステキな場所でした。アウェイな感じで最初はみんな"誰?"みたいな感じで見てて、でもちゃんと聴いてくれて、曲が終わると盛り上がってくれたんで良かったと思います」
―どこが一番良かったですか?
N:「スロヴァキアのPohodaFestivalが声を掛けてくれたのがきっかけで行けたツアーだったので思い入れもあったし、向こうも凄く喜んでくれたし、人も優しい人ばっかりで、また行きたいなと思いました。しかもキャンセルしたバンドが出たからって、スロヴァキアでは急遽1日に2回ライヴを依頼されてやれたのも凄く楽しかったです」
ハンガリーのVOLT FESでの模様(オフィシャル)
■ シングル『Break』に込めた思い
―帰国後も夏フェスなど続いていましたが、3人での再スタートがどう見られているか、お客さんの反応は気にならなかった?
N:「この体制になって未だ1年も経ってないんで、みんなの中ではまだ前のドラムの音が鳴っているんやろなと思います。でも、自分たちの気持ちは次に行っているんですね。だから、その気持ちを感じてもらうしかないと思いますし、ドラムが代わったからファンが凄く離れていったという感覚はないので、見ててもらえるんじゃないかなぁとは思っているんですけど」
―シングル「Break」を出した時はどのような考えがあったの?
N:「その時にあった曲の中で、これを一番出したいなと思ったし、その時の気持ちを歌詞に書けたので、リアルタイムに出せたので良かったと自分的には思っています。見せ方としてはドラムが変わっても今まで通りの激しくて変拍子バリバリ!みたいな、カッコイイ感じの曲を出せた方が良かったのかもしれないけど、今となってはその時の気持ちに一番素直なヤツを出せてて良かったなと思いますね。この間の自主企画(爆祭)で『Break』を演奏してる時に、この曲の思いがお客さんにもちゃんと伝わっている感じがあったので、この曲を出して本当に良かったなと思いました」

3人のコーラスもふんだんに活かしたシングル『Break』
『Break』のMV。世界各国のファンから届いた応募素材以外の撮影と編集はメンバー自らが担当。
■ 来年2月発売のシングルで新たなtricotを
―2月に発売するシングル『E』はどんな感じですか?
N:「楽しみにしていて下さい。たとえばカップリング曲の『ぱい〜ん』はすっごいカッコイイ曲で、"なんでこんなタイトルにしたんやろ"って思うかもしれない(笑)」
―ドラムは誰が叩いているの?
N:「『E』も『ぱい〜ん』もBOBOさん。BOBOさん、最後まで『ばい〜ん』って言ってました(笑)。それも訂正せずに私たちは『ぱい〜ん』で会話を続けていたんですけど、最後まで『ばい〜ん』でした(笑)」
―3曲目の「ダイバー」はヒロミさんが作詞・作曲に歌も担当?
H:「(笑)。全然歌う気はなかったんですけど、"歌ったらいいやん"って言われて。作曲は前のバンドでやったりしてたんですけど、作詞もメインヴォーカルも初めて。歌メロを付けるのはメチャクチャ悩みましたけど、歌詞は意外とそんな悩まなかった。歌詞は"なんとかなるさ"的な、"大丈夫ですよ"って言ってる曲なんです」
N:「"ヒロミさんやな"っていう感じはありますね、歌詞にしてもメロディにしても。それが(このシングル3曲の中で)一番いいかもしれないです」
H:「凄い恥ずかしいです」
―この曲のドラムは?
N:「脇山(広介)さん(tobaccojuice)です。すっごい上手」

キダ モティフォ(G&Cho) 中嶋イッキュウ(Vo&G) ヒロミ・ヒロヒロ(Ba&Cho)Photo:伊藤香織
■ サンバはtricotなりのパンク精神
―私が行った東京での爆祭Vol.9の時に新曲を初披露していましたね。サビが印象的でしたが、どんな歌なの?
N:「ある映画を観てて、その中に入っているような感じで書いた曲『食卓』ですね」
―アンコールでも新曲をやりましたよね?
N:「あれもアルバムに入る曲で『庭』です」
―「庭」ではいつもあそこにサンバが入ってダンスになるの?
N:「サンバにはなるんですけど、踊ったり笛のソロのシーンは今は爆祭とか(ライヴで)時間のある時しかやっていないですけど、やれたらどんどんやっていきたいなと」
K:「最近は踊れるバンドが多いので、そっち(4つ打ち)じゃなくて、サンバでいいや、と(笑)。フェスとかでサンバを踊らせたいなと思って」
N:「tricotなりのパンク精神やと思います。サンバにしたのは、4つ打ちばっかりなのに飽きてるというか、"どうせ踊るんだったら、これくらいやればいいのに"みたいな感じで作ったのかな」
―それなら来年は南米ツアーですね(笑)。キダさんのダンスも凄い上手だし。
N:「でも現地で本物のサンバを踊られたら、ちょっと(笑)」

年末の爆祭の用に中嶋イッキュウが描いたイラスト。ポスターやTシャツにも使われた。
―2月発売のシングルも3月発売のアルバムも、4月からのワンマン・ツアー、そしてZepp DiverCity公演も楽しみですが、来年はいろいろなドラマーの方とコラボしたことでtricotの引き出しがもっと開いて、遊び心もふんだんに、バラエティに富んだ活躍になるということですね?
N:「はい」
―まずはシングルを楽しみにしていますね。ありがとうございました。
全員:「ありがとうございました」

インディーズの自主レーベルで躍進し続けるtricot。Photo:伊藤香織
tricotのHPはコチラ → http://tricot.tv/
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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