椎名林檎、東京事変10年ぶりのアルバム『音楽』を語る。

2012年2月29日、うるう年のうるう日に解散した東京事変が、同じくうるう年の20年1月1日に「再生」することを発表し、新曲「選ばれざる国民」を配信。さらに、うるう日である2月29日より全国ツアーを開始したが、新型コロナウイルスの影響で2公演のみ実施、以降は中止となった。

また椎名林檎は、16年のリオオリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)閉会式における「東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」のクリエイティブ・スーパーバイザー/音楽監督として参加、東京オリパラの開閉会式の演出企画チームの一員にも選出された。しかし、そのチームが昨年12月に解散となり、コロナ禍の影響を受けて迷走を続けるオリパラ問題にも巻き込まれる事態となった。椎名林檎に、東京事変の10年ぶりとなるアルバム『音楽』や、昨今の心境について話を聞いた。

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210608_sub1.jpg写真左から:浮雲(guitar) 、刃田綴色(drums)、椎名林檎(vox)、伊澤一葉(key)、亀田誠治(bass)

カラフルな音楽にしたかった10年ぶりのアルバム。

――「再生」に向けてどのように動いていったのですか。

椎名林檎(以下S):うるう年が(数字の並びが)綺麗な2020だから「何か作りたい気もする」と言ったら、「やろうか」ということになり、ぬるっとトライした感じです。

――東京事変をざっと振り返るならば、結成した頃の林檎さんは何をしてもニュースにされてしまうほど、注目度を越した切迫感みたいなものがありましたよね。私から見てですが、隠れ蓑としてバンドを組みつつ、メンバーには表舞台に立っていない隠れた才能を持つ若手音楽家を発掘し、ワークショップ的に音楽を制作し、そこでバンドとしての連帯感といった楽しみも味わっているのかな、という感じがありました。ただ、そこからメンバーチェンジがあり、個性が拮抗する強力なバンドとして加速していった印象があります。

S:本当にその通りで、もっと延命装置的な存在でしたね。とても立っていられなくて、そんなに契約って強固なものなの?と思いながら、引退しようとしていました。バンドを組み、世代の近い人たちが対等に作家性を発揮できる、という喜びで(自分を)麻痺させるしかないという。それで(外部を)シャットアウトしようとしていて。おっしゃる通り、恐ろしかったんじゃないですかね。

――今回、まずEP『ニュース』をリリースし、このアルバム『音楽』になるわけですが、映画やドラマなどのタイアップ曲が先に完成していたとはいえ、赤とか青とか、曲名に色が入っているのが目につきます。色縛りはいつ頃から意識したのですか?

S:最初の頃はタイアップ作品の都合で、たまたま赤と青ができてしまって。まだ音楽というテーマもアルバムタイトルも決めていなくて、「カラフルな音楽にするのもいいなぁ」とだんだん思ったという感じです。

――タイアップの曲が結構揃い、ほかの曲を作っていくなかで、白や紫を曲名につけていったという?

S:そうですね、文字だけでもなるべくカラフルにしたいなと思っていました。13曲だったら、本当は13色にしたかったぐらい。音楽のプレゼンテーションって本当に難しいです。だからこそ、なけなしのイメージを入れ込みたいと思って。デザインとして楽しんでいただくだけでもうれしいですし。

――この色遣いは解散時のEP『color bars』からの繋がりもあります?

S:そういうふうに自ずと繋がって来てしまうストーリーはあると思いますけど、別にそれを意識したわけではないです。

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「孔雀」は、ソロアルバム『三毒史』の1曲目のアンサーソング。

――曲を完成させていく中で、何か決め事はあったのでしょうか?

S:ボーカルの割り振りくらいでしょうかね。メンバーの伊澤一葉(キーボード)と浮雲(ギター)が奇数トラックで必ず歌っているという。ソロアルバムの『三毒史』でも偶数トラックに男声をお迎えしていたので、それを踏襲した格好で、地続きだという印象をちょっと残したかったんです。お客さんが『三毒史』を聴いた後に、『音楽』をそのままかけてほしいと思っていて。

――それで1曲目の「孔雀」(東京事変のロゴでもある)にお経が入っていたんですね。

S:そうです。アンサーのつもりで書いているので。『三毒史』のオープニングの「鶏と蛇と豚」で書いたリリックに答えはないようにしてあるので、そこでかき消していたお経を今回私が発声しているんですね。でも、具体的にアンサーというのは1曲目だけです。このアルバムは前作までのあらすじを踏まえると、こっち側の焦点の当て方をしますよ、という状況説明を1曲目でできればという感じで。

――なるほど。

S:『三毒史』は起こったことに対してスケッチしっぱなしで、東京事変はそれに対して議論し、お経が我々の三毒に届かず、三毒の方が勝って世の中にいろんな問題が蔓延しているけれど、それについて「大人だから考えてみましょうか?」というところから始めています。憂うべき状況をそのままにしないでカジュアルに議題にするという姿勢を、アルバムの最初に『三毒史』の話をひっくり返す形式で始めたかったんです。それが東京事変の意義なので。

――私の中では、東京事変はそういった意義を強く感じさせる曲ももちろんありますけど、知的かつどこか飄々として遊び心を存分に見せている強者の集まりというイメージがあったんです。ただ、今回はこれまでになく闘う音楽として、演奏も言葉も、非常に強く響いてくるものを感じました。

S:いつも逆のことを言われがちだから、いまびっくりしました。メディアの方とかお客さま方が、「綿密に企画されてて、1ミリでもズレたらいけないって感じで緊張します」とか、「完璧主義のピリピリとしたプロ集団でどうのこうの」みたいなことを言われるので。「そんなことないのに」って思って「おとぼけ5人組ですよ」って、いつも言うんですけど。では、それはわかっていただけるんですね。

――逆に、私はそうなのかなって、思っていました。おそらく、私はほかのメンバーの皆さんの個別の活動も見てきているからかもしれないです。

S:そうですよね。

――もちろん真剣に楽曲制作や演奏に取り組んでいて、歌うべきこともしっかりある一方で、タイミングが合った時に集まるサークル的というか、楽しんで活動している雰囲気が伝わってきて。でも、私は単に東京事変はいちファンとして楽しみたかったので、詳しくない部分があるのは否めないし、感覚が違うと言われちゃうかもしれないですね。

S:いや、でも思うままに書いていただきたいです。本来の正解のことなので(笑)。でもそれにしては、確かに曲によってはグッと気合が入っているものが今回ありますね。はぐらかしてないというか。

――たとえば「青のID」は映画『さくら』(2020)の主題歌で、曲調は軽快で演奏は痛快ですけど、林檎さんはとても熱唱されていますよね。

S:珍しく、確かに、久しぶりに。

――このように演奏の濃密さに向けて、より深く読み取って歌われている曲が多いと感じました。

S:ありがとうございます。

――『三毒史』の流れを汲むということで、歌いたかったことが多かったという?

S:「獣ゆく細道」とか「目抜き通り」とか、ああいう1回書いておかないといけないと思っている曲が、この10年で揃ったというのもあるのでしょうね。『逆輸入〜航空局〜』のような提供曲をセルフカバーしたアルバムや、『三毒史』あたりを1回世に発表できたということで、節目だったかもしれません。「あとは自由にやろうかな」というような、すごく楽にしてくれたような気がします。やはり作家として、これを書くためにいままで修行してきたのだ! という生涯におけるノルマみたいな作品があるんですよね。

――そう前回のインタビューで話していましたよね。

S:遺書になりうるというか、名刺になりうるというか。資料価値として機能するものを書けていないのに、道草食ってらんないというか、そういう自分にとって最も重かったプレッシャーがもうだんだんなくなってきて、いまはいっぱい残せて良かったなあと思っています。

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同じ愚かな情景を見ているから、それを思うと歌詞を書くのに力が入る。

――歌詞も楽しく書いているという感じではない、今回の懲りようです。

S:苦しかったですよ。いつも大変です。文字合わせというか、イントネーションも聞き取っていただけるようにきちんと整えなきゃと思うと、やっぱり集中力が要って。でも、それだけです。書くことが決まらないとか、テーマが決まらないとか、そういうのは相変わらずなくて。

――絶対にこの歌詞が書きたかったというのはありますか?

S:ないですね。ただ、「一服」はどうしても最後に「あとがき」や「エンドロール」として収録させてもらいたかった。他の曲のリリックを、堅苦しく思われるようなお客さんがいらしたら、それは誤解と申し上げたかったし、このアルバムはとにかく後味さっぱりさせたかった。

――となると、今回のアルバムはいままでのアルバムとは違いますよね?

S:話していて、そうかもしれないとは思いましたね。もうちょっといつも通り職人的に書こうと傍観できているつもりではあったけど、今回意図せずして力が入ったというか、筆圧が強くなってしまったような感じはあります。いまみんなで同じあまりにも愚かな情景を見ているものですから。ストレスに立ち向かったり、向かわなかったり、逃げたり、逃げなかったり、逃げられなかったり……。それでみなさんがお感じのことをやっぱり書かなきゃいけないと。

――『三毒史』の時のように、『音楽』を完成させて少しは楽になりましたか?

S:う〜ん、それはないですね、やっぱり。締め切りの苦しさや漠然とした不安などから解放されたっていうのはありますけど、そういえば、別に楽になってないですね。

――これだけのアルバムを完成させていて、なぜなのでしょう?

S:『三毒史』となぜ違うのかなと思うと、自分を作曲家と認識しているからだと思います。他の人が作曲しているものに作詞しているだけだと、本業ではない感じがするというか。だから、やるべき仕事をやった感じというのは、ちょっと薄いですね。たかがポップスの歌詞って言っても、あくまで曲のほうが言葉を呼ぶような気がするんです。それを正しく抽出しさえすればいいんだけど、自分の曲だと全方位でコントロールできてしまうじゃないですか。だから作家としての達成感が違うんでしょうね。

東京事変
https://tokyojihen.com

210608_210609Al_02.jpg『音楽』(通常盤)¥3,300/ユニバーサルミュージック。特製ハードケース、写真帖『仕事中』(40ページ)、マキシシングルCD『赤の同盟』(全3曲)が付く初回生産限定盤(¥4,500)もある

コロナ禍で家族に話したことや、大人としていま自分がとるべき態度についても語っているインタビュー続編もお楽しみに。

*To Be Continued

 

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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