歴史的黒人音楽フェスが私たちに語りかけること。

音楽界で1969年といえば、「ウッドストック・ミュージック・アンド・アート・フェア」(8月15〜17日)が開催された年として知られている。その一方で、6月29日から6週にわたって日曜日にニューヨークにあるハーレムのマウント・モリス公園(現マーカス・ガーヴィ公園)で開催されていたのが、「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」だ。のべ30万人以上を動員したという。映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』は、この時の映像を元に完成された映画である。

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圧倒的な存在感を示すスライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ。

50年ほど地下室に眠っていた映像を出演者が回顧。

60年代はアメリカにとって激動の年であった。ジョン・F・ケネディ大統領の誕生とともにベトナム戦争への軍事介入がエスカレートし、50年代半ばから勃興していた公民権運動は、60年代に入って動きがさらに顕著となる。63年8月のワシントン大行進でキング牧師の歴史的名演説が行われ、リベラルな姿勢を見せていたケネディ大統領は同年11月に暗殺されたものの、64年にジョンソン大統領が公民権法を制定、同年12月にキング牧師にノーベル平和賞が授与された。しかし65年にはマルコムXが、68年にはキング牧師が暗殺され、その翌日に100以上の都市で黒人の暴動が発生し、白人との対立が激しくなっていった。そのため映画の中では、「このフェスの目的は黒人たちの暴動を防ぐためだったのかもしれない」と、語られているほどだ。

この映画が完成するきっかけは、製作者ロバート・フィヴォレントが、2016年に友人から聞いた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の話に興味を持ったことからだった。そして当時の映像の持ち主の家で、地下室に置かれたままだった映像素材を発見する。映画監督は、ヒップホップバンド、ザ・ルーツのクエストラブが担当。彼は映画そのものにストーリーを作り、そのストーリーに意味を持たせた選曲を行い、当時の出演者から現在も活躍しているシーラ・Eといったアーティストにもインタビューを実施。加えて当時のニュース映像も挿入し、このフェスやこの映画の意義を現在の視座からも捉え直すことに成功している。

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クエストラブの選曲で、意義のあるストーリーに再構築。

当時、「ブラック・ウッドストック」と名付けられていたというこのフェスだが、決して、対白人を意識したものではなかった。これはタレントでミュージシャンのトニー・ロレンスがキング牧師暗殺の一周忌に企画をしたもので、開催に向けてニューヨーク市長ジョン・リンゼイが積極的に協力していたことからもわかる。

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フィフス・ディメンションは当時を語るインタビューでも登場する。

また、フィフス・ディメンションがロック・ミュージカル『ヘアー』(1969)から「輝く星座(Aquarius)/レット・ザ・サンシャイン」を歌うようになった、白人との心温まるエピソードを明かしている。それを知ってこの曲を聴くと、人種差別を嫌う音楽世界ゆえの平和を感じる。しかし、その後のブラックミュージックの苦難や止まない人種差別を考慮すると、この曲は翌年のグラミー賞最優秀レコード賞などを受賞したものの、形だけの意義に過ぎなかったのではないかと思わずにはいられない。

なかでも傑出した存在はスライ・ストーンだ。人種差別や性差を超え(つまりは問題を提起して)白人ドラマーや黒人女性トランペット奏者をメンバーに要し、思い思いのファッションでステージに登場。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽に込めた力強いメッセージや意志には敬服するばかりだ。

210825-sub4_nina.jpgプロテストソングを数多く歌ったことやDVによる離婚を経験したニーナ・シモンは、この翌年アメリカを離れる。その前年の貴重なステージ。

60年代といえば商業的に成功したモータウンの曲が全米チャートを席巻していたが、クエストラブの選曲は、公民権運動に積極的に参加していたキング牧師の盟友であるゴスペル歌手マヘリア・ジャクソンや、ニーナ・シモンのステージも、しっかり終盤に位置付けている。また人種のるつぼから生まれた音楽として、プエルトリコにルーツを持ちながらニューヨークで育ったニューヨリカンによる音楽やアフロ・ラテン音楽なども登場させている。音楽フェスとしての醍醐味にあふれ、スクリーン越しに体感していることを忘れるくらいに引き込んでいく。

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現在のアメリカに起きていることとの類似性。

インタビューはアーティストだけではなく、庶民の声も収録している。69年7月にアポロ11号が月面着陸した時に、観客が感想を求められ、「月に行く金で、ハーレムの貧困層を助けられた」と答えている。貧困に苦しむ黒人は、当時ベトナム戦争の前線に派遣されていた。常にフロンティアの開拓を続けて帝国を築いて来た白人主義のアメリカにとって、独立宣言(1776)の草稿から黒人解放の文言を削除した時点で黒人を(ネイティヴ・インディアンはもちろんだが)見えないものにしているし、“人間は生まれながらにして平等である”というべきところで、all men are created equalとしたことから男女平等にもしていない。長年問われてきた問題は、いまも何も変わっていない。

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女性のアフロヘアも多く、観客の60年代ファッションも興味深い。1969年からアフリカ系アメリカ人のことをニグロではなく、ブラックと呼ぶようになった。

映画の資料の中で、クエストラブは「50年も経ったのに、またゼロからやり直しか。不安・抗議・殺人・発砲・不公平……、一体何が変わったんだ? 答えは明らかに『ノー』だ」と語っている。製作を共同で担当したジョセフ・パテルは、「ハーレムで、ニューヨークで、全米で、あまりに多くのことがステージ外で起きていたので、ステージの内容だけを追っているわけにはいかなかった。俯瞰して見ると、50年後の現在のアメリカに起きていることとの類似性をより見い出すことができたからね」と説明している。

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しかしながら、昨今はヒスパニック系やアジア系、黒人といった非白人の人口増加が続き、2020年の国勢調査(10年単位で実施)によると、白人の人口が減少する可能性が高いという。ものすごく極端な言い方をすれば、もちろん楽曲の良さも十二分にあるものの、昨今の全米チャートでのプエルトリコ出身のルイス・フォンスィとダディー・ヤンキーによる大ヒット曲「デスパシート」(2017)や韓国出身のBTSの快進撃からもそれは推測できる。

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グラディス・ナイト&ザ・ピップスなど、TV番組『ソウル・トレイン』(1971〜2006)世代には、懐かしいグループも続々登場。

ブラック・ライヴス・マターしかり、人種差別、性差……と、分断社会に対して考えるべきことは数多あるけれど、この『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』は、アメリカのことだからと客観的に見るだけでは終わらない問題を提示している。けれどその一方で、音楽から発信できること、音楽の力も存分に伝えてくれる。音楽フェスの映画なのだが、約2時間で3本分観たくらいに感じる、非常に価値の高いドキュメンタリー映画なのだ。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
●監督/アミール・“クエストラブ”・トンプソン
●出演/スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、スライ&ザ・ファミリー・ストーンほか
●2021年、アメリカ映画 
●118分 
●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2021年8月27日(金)より、全国公開
https://searchlightpictures.jp
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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