AIが語る両親から学んだこと、子どもに伝えたいこと。

AIインタビュー後編。彼女のピースフルな思いの根底あるものについて話を聞いた。

>>インタビュー前編「AIに聞く、感動で毎回泣けてしまう最新アルバムの裏話。」

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感動とセクシーを音楽に共存させるのは難しい。

――去年、デビュー20周年を迎えましたが、R&Bやヒップホップをやっていると、セクシーさの見せ方も迷うと思うんですね。今回だったら「Listen」の日本語訳もその方向で訳そうと思うと全然そうできると思うんですけど。

AI:確かに。そこはもう日本語訳している人がうまくさじ加減しているっていう(笑)。

――アメリカと日本の土壌や文化の違いはあれど、このブラックミュージック特有のセクシーさをどう表現していこうと悩んだことはなかったの? 

AI:全然考えなかったですね。そういうのは大好きだし(笑)、R&Bはあのセクシーな感情とビートが合っているというか、やっぱり男も女もセクシーじゃないとダメって思っているので、そういうエモーションは大好きなんですけど。

――そうですよね。

AI:自分の歌い方が変わってきていたのもあるし、ライブでやることをちょっと考えるようになったというのもあるかもしれないですね。ライブの時に、よくバンドがそういった雰囲気で、ギターでポワ〜ンみたいな色っぽい音を弾いたり、ドラムもそういったビートをゆったりと始めて、自分もそれを聞いてWow!ってなるんですけど(笑)、いまはそういうものより感動の方が必要だと思っているところがあるからだと思います。
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国内での活躍をはじめ、クリス・ブラウンやスヌープ・ドッグ、ザ・ジャクソンズ、チャカ・カーンなどレジェンド・アーティストとのコラボレーションも多数。

――感動重視。

AI:最近は自分が感動したいのかもしれないです。時代もあるのかな。たとえばスーパーボウルのハーフタイム・ショウでスヌープ・ドッグたちがパフォーマンスしているのを見ているとやっぱりいいなと思っているし、この次の自分のライブではそういうパートを入れ込んで、それで満足しているかもしれない。でもいまは自分の人生が一人身じゃなくて旦那や子どもがいるので、あんまりセクシーというより、生活している中でメッセージ、やっぱり感動がほしいと思っていて。感動とセクシーって音的に共存させるのがなかなか難しいんですよね。

――なるほど。

AI:難しいですよね。感動とセクシーをくっつけたい!って思いながら、トラックを毎回探しているんです。でも、それがなかなかない。

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夢を持たなくてもいいと思う時期もあった。

――それを完成させてグラミー賞を獲りに行こう!

AI:行きたい!(笑)いっぱいやり方があるんだろうけどね、なかなかセクシーと感動は一緒になれないというか、特にいろんな国の人にわかってもらえるような感動に合わせるセクシーが難しいかな。

――AIさんは40歳になってお子さんが2人いて、子どもの頃から自分の中にあったDREAM、そしてこの言葉をどう受け止めていますか?

AI:実は2009年頃、もう少し前かな、夢を持たなくてもいいと思う時期もあったんですよね。

 

――そうなんですか?

AI:(5歳下の)妹の仕事がなかなか決まらなくて、いろんなバイトをやっていた時期があって。「何がしたいの?したいのが決まれば、協力もしたいし、そっちに向かって強くなれるよ」って言っていたんですけど、妹からは「そんな言われても」って言われて。

――妹さんは夢を持っていなかった?ということ?

AI:やりたいことはあったのかもしれないですけど、自分から夢とかいうタイプではないので。私は15歳頃から、「これをやる」「ダメだったらこれをやる」とか仕事を決めていて、早く自分の仕事を見つけないと、もし親が亡くなったりしたら、小さい妹がいたので誰が育てるの?とか思って焦っていたんですよね。

――すごいしっかりしていますね。

AI:私は18歳からいまの仕事をやっているけど、いつもイライラしている、でも妹はなんとなくいろんなことをやっているけど、すごく優しい。この性格を保つにはこれでいいんだってどこかの段階で思うようになってきて、それでそういう妹を見ていて、私が変わらないとなと思ったんですよね。そこで夢に対しての考えが変わった感じです。いまは妹も自分の仕事(カメラマン:217..NINA)を見つけていますけどね。
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苦手な人への対処法は、相手を知ることから。

――そうですよね。AIちゃんにとっての30代はどういうものでした? 

AI:30代の途中までは自分のこととか、まだ探っている感じですね。仕事は、我々が何か作って、発表して、取材を受けて、ライブして、ずっとそれの繰り返しで何年も。ただ、その繰り返しの中でもメッセージが少しずつ変わってきているのかなと。

――同じことの繰り返しといっても、キャリアを積んでステイタスをあげたいという意識はなかったの? その中で32歳の時に結婚されていますが。

AI:キャリア、それももちろんありますね、やっぱり歌も上手くなりたいし、本当にいまも練習したいし。いまはYouTubeでもいろいろ紹介されているので、自分のレベルをアップできるような、そういうのも見たい。ただ、家のことも大変でやることが多いけれど、ちょうど妊活の時期に時間があったのでいろいろ見たり、自分の声のことを考えて、喉など治っているのかチェックしにいったりしたり、身体のことを考えてみたり。自分を見直せる時期になったので良かったです。そういう意味で30代は忙しい中にもちょっと立ち止まって自分を見直すことができたのがよかったと思います。

――AIさんは、オープンハートで本当に素敵な女性ですが、苦手な人がいたり人付き合いで悩んだりした時の対処法はどうしているの?

AI:それは相手を知ることですね。苦手なのはその相手を知らないから苦手なだけで、知っちゃえば、好きになっちゃうんですよね。

――すごいなぁ。

AI:それが困っちゃう。嫌だとか散々思っていたのに、話すと、いいヤツじゃん!っていうのが結構パターンであるので、それが逆に自分の最初の判断ミスではないけど、反省するというのはよくありますね。

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――ご両親から教わったり受け継いだりしたことで、自分の子どもにも伝えていきたいことはありますか?

AI:人を褒めるとか、人のいいところを見ること。人って絶対いいところがいっぱいあるから、それを見て、人の気持ちを感じて欲しい。自分の子どもが何かをもらった時に、どうしてあなたにくれたかを考えさせることで、それがもらったものを大事にする気持ちや感謝する気持ちに繋がるので。人に優しくしてもらったら、「あの人、すごく優しいね、なんでこうしてくれたと思う?」とか、うるさいかもしれないけど、子どもに言っています。

――それはご両親からの教育?

AI:そうですね、私も小さい時から両親からよく褒めてもらったし、あと、自分の家があること、洋服を着られていることや、ごはんも好きなものを食べられることとか、「それは当たり前のことではない、ありがたく思いなさい」と両親から言われてきました。ママがすごいゲットーな場所で育ったのでその話を聞いたり、小さい時から連れて行かれて、車が来るとドラッグ中毒の人やホームレスが「金くれ」って寄って来るのを見て来た。小さい時からそういうのを怖いと思ったりしていたけど、ママはまず人に優しくするところから始める。欲を出して来た人がいたらママも結構強く怒ったりしてましたけど、親を見て子どもは考えますよね。
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子どもにはお互いをケアするようになってほしい。

――H.E.R.の楽曲がブラック・ライブズ・マターで注目され、去年のグラミー賞でもアカデミー賞でも受賞していて。彼女はアジアとブラックのハーフで、双方のコミュニティの軸となるように音楽を歌っているのに、特に現地でのアジアンヘイトは加速しています。実際、AIさんが昔からLAを行き来していて感じることはありますか?

AI:何回かそういう場面はありましたね。最初の頃に教会に行った時も、座ると隣の子が席を外したりとか。LAでも地方に行くと、私がどこの国の人かわかってない人にディスられるみたいな。すれ違っただけで何か言うって、相当刷り込まれていますよね。当時は怒ったりしていたけど、いまは大人になったし、向こうは自分たちのことを知らないだけとか、「ディスってるヤツはホームステイにでも来てごらん」みたいな感じで、結構相手を見て「なにをそんなに恐れているのか、なんでそんなにディスっているのか」とか考えたりしますね。

――すれ違うだけでとか、ありえない、本当に。

AI:でしょ?こっちがニコニコして「ハ〜イ!」って言っても、嫌そうな顔をされると、「なにを言われて育ったの?」という気持ちになる。自分の周りはいろんな人種がいたので、その人種が悪いとは絶対思わないし。ただ、小さい時から「あれには気をつけろ」って言われ続けたら、我々だったら、本当は鬼が超優しいかもしれないのに「鬼は怖いものだ」と小さい時から言われていたらそう思ってしまうように、刷り込まれてしまうことはあるでしょうね。「Not So different」(『IT’S ALL ME-Vol.2』収録)の歌詞にも書きましたけど、みんな最初は赤ちゃんだったのだから同じだと思うんですけどね。

 

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――アメリカのある社会学者の姉妹が「人種というものは存在しないものの、人種差別やそういった言動が人種差別という虚構を生み出している」と言っていて、それは人種についてだけでなく、LGBTQに関しても、人間が細分化してきた結果なのかもしれないですね。

AI:そう思います。とにかくいま自分ができることとしたら、自分の子どもたちに「人は人種によって違いはない」と言うこととか、もちろん自分たちの国の素晴らしさがあって、言葉もいい言葉があるので、それをディスる方面に使わないで、いい方面に使うように仕向けたいなと思っています。その子たちが友達に対してもそういう感じで、とにかくどんどんみんなお互いをテイクケアするようになってほしいなと思うんです。

――そうですよね。今日はいろいろお話できて良かったです。AIさんの歌の背景にあるこのような話を読者にも知ってもらいたいですね。

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『DREAM』(通常盤)¥3,300/ユニバーサルミュージック。ライブ映像+MV集を収録した限定盤(CD+BD)もしくは(CD+DVD)ともに¥5,500もある。

『DREAM』スペシャルサイト
https://sp.universal-music.co.jp/ai/dream
AI“DREAM TOUR”
https://aimusic.tv/category/live
●問い合わせ先:
ヘムト ピーアール tel: 03-6721-0882
マーク ジェイコブス カスタマーセンター tel: 03-4335-1711

*To be continued

Interview & text: Natsumi Ito photograhy: Kentaro Oshio Styling: Noriko Goto hair & makeup: Akemi Ono

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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