自分たちを癒して祝う、双子姉妹イベイーの心地よい新作。

アフロキューバ系フランス人の双子リサ=カインデ・ディアスとナオミ・ディアスによるイベイーが、3枚目のアルバム『Spell 31』を発表した。デビューアルバム『ibeyi』(2015年)では、家族や先祖、死といったことをテーマとし、『Ash』(2019年)では、ミシェル・ンデゲオチェロをはじめとする錚々たるミュージシャンと共演して、ジェンダーや人種問題といったことを扱った。彼女たちはビヨンセのアルバムに参加したり、楽曲はシャネルやナイキのキャンペーンでも使用されたりして、注目され続けている。今回は古代エジプトの『死者の書』をきっかけにアイデアが増したといい、母親がスポークンワーズで参加したのに加え、亡き父も音源で参加しているのも話題だ。2016年の来日時以来、リサとZoom取材を行った。

img20220111_18031613_Amended_credit Suleika Muller.jpgブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ等で活躍したミゲル・“アンガ”・ディアスの娘たちということでも知られる。写真左から、ナオミ(ボーカル、パーカッション)とリサ(ボーカル、ピアノ)。photography: Suleika Muller

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お互いが強く主張をすることで最高のバランスを見つけ出せる。

―今回はリサがロンドン、ナオミがパリに住むなかで制作したわけですが、曲作りはどのように進んだのでしょうか?

リサ:普段だったら私が書いた曲にナオミが彼女の音を乗せていくけど、今回ナオミは自分で別にサウンドを作りたいと言ってきたの。私が書いたのはピアノとボーカルのバラードで、彼女がプロデューサーのリチャード・ラッセルと作ったのはレゲトンからポップやヒップホップ、ダンスからファンクまで幅広くて30曲くらいあった。でも、いざ合わせてみると、まるで合わさる運命だったかのようにマッチして、筋肉のようにストレッチをしてやわらかくなりながら強化され、どんどんタフになっていった。この絶妙なバランスを見つけることができたという点で、このアルバムはこれまでで最高の作品だと言えると思うわ。

 

――サウンドがとてもミニマムに感じました。たとえば、「Tears are Our Medicine」のようなトラックは、どうやってナオミの世界をリサの世界に近づけていったのでしょう?

リサ:それはすごく良い質問。答えは3つあるわ。ひとつめは、今回はナオミの方が私の世界に入ってくる準備ができていたと思う。イベイーでは、私の世界とナオミの世界があり、お互いが強く主張をすることで最高のバランスを見つけ出せる。今回、ナオミはこれまでよりも強くなって、私を優しくもしっかりと押してきた。だから私も押し返すことができた。ふたつ目は、別々に作業をすることで捻りを加えて新しい挑戦をしたから、新しいバランスが生まれたこと。3つ目はナオミの声。「Tears are Our Medicine」で聴こえてくるのはナオミの声で、あそこまでリード・ボーカルの役割を果たしたのは今回が初めてなの。このアルバムでは私の声よりナオミの声の方がたくさん入っているんじゃないかな。そのため、そこでもまた新しいバランスが生まれたと思う。
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ズールー族やヨルバ族の浄化に関する歌からはじまる。

――1曲目「Sangoma」に続く「O Inle」という曲は何語で、どういうことを歌っているのですか?

リサ:歌っているのはヨルバ語。“インレ”というのは癒しの神様なんだけど、その前の「Sangoma」という伝統的なズールー族の信仰治療を行う人々についての曲から始まり、「O Inle」に辿り着く。あの曲で、私たちは全てを洗い流してほしいと神に頼んでいるの。それによって人々は浄化され、「Made of Gold」へと、そしてアルバムの残りの曲の旅へと足を踏み入れる準備ができるのよ。

――今回のアルバムは古代エジプトの本『死者の書』と出会ったことから生まれたと聞きました。

リサ:それは「Made of Gold」を作っている時の話よ。この曲の方向性について考えていた時、リチャードが、彼が持ってきた本『死者の書』を開いてごらんと言ってきた。そこにちょうど“Spell 31”があって、それを読んだ時、これをアルバムのタイトルにすべきだと直感した。そして、「Made of Gold」は先祖の力と繋がっている曲だと気づいたの。この曲の最後の歌詞、“あぁ背骨を持つものよ、私の魔法に口を挟むもの/それは途切れることなく受け継がれてきた/空は星を包み込み/私は魔法を包み込む”は、そこから引用したの。うまく説明できないけど、この部分を読んだ時は、まるでひと目惚れみたいな感覚だったのよね。

 

――あなたたちの祖先でもあるヨルバ族にも神話的な伝承や物語が多いと思います。またアフリカにもマジックリアリズムと呼ばれている小説がありますが、そういう世界に興味はありますか? 

リサ:もちろん。そういう文化の中で生まれ育ったから、私たちの家族にとってそれは普通のこと。人間って気づかないだけで、そういう世界を信じていたり、興味があったりするじゃないかと思うわ。お墓に花を持っていったりすることも、母やおばあちゃんのレシピで料理を作ることもそうだと思う。私たちにとって音楽はそのひとつ。音楽は私たちのために作るものでもあるけれど、私たちの先祖や亡くなった家族から受け継ぎ、伝えていくということも、私たちの音楽のひとつの大きな要素だから。でも、何を通してそれを感じるかは人それぞれよね。私のルームメイトは、部屋の壁を掃除している時に先祖と繋がりを感じるらしいから(笑)。

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まずはいちばんに自分を愛し、自分自身を守るのは当たり前。

――「Lavender and Red Roses」のミュージックビデオからもそういった世界観を感じます。

リサ:そうよね。あれは私のアイデアなの。ただちょっと極端だったから、そこにナオミのアイデアも加わって完成した。この映像のコンセプトは3人の運命の女神。この三姉妹は、ひとりが紐を作り、もうひとりがそれを分析し、3人目がそれを切る。3人が井戸の中の暗闇に埋もれている人の運命を見つけ、助け出そうとするけれど、彼はあまりにも重く、無知で、自分の暗闇にいたがる。そして3人はどうにかしようとした結果、彼自身が自分で立ち直る道を見つけることができるようロープを切ることを学ぶの。実はあの曲は、私にとっては究極のラブソングなのよ。

――ラブソング?

リサ:自己愛について書かれた曲で、自分に他人は救えないことを歌っているから。自分自身だけが自分を救うことができるということ、そしてもうひとつ、自分がその人を愛しているからこそ、その人が自分でどうにかしようとすることを受け入れるということについても書かれている。みな、まずはいちばんに自分を愛し、自分自身を守るのは当たり前。それに気づくことはカタルシスだと思うのよね。あの映像では、3人が紐を切って倒れるでしょ?ピンと張りつめた紐が切れる瞬間って、すごく美しいと思う。

 

――なるほど。

リサ:付け加えると、1枚目のアルバムで、私たちは「Stranger/Lover」という曲を書いたけど、その時は、曲の最後で、“こっちに来て。私の腕の中で癒してあげる”と言っていた。それはそれで美しいことなんだけど、いまの私たちは、”ここにいるから”と言っている。私はあなたのためにここにいるけど、自分自身を癒すことができるのはあなた自身だと言っているの。あなたの手は握っていてあげられるけど、本当の力を持っているのはあなた自身。その違いに気づいた時、数年前と比べて自分たちがどれだけ成長したかに気づかされたの。

――自分たちの音楽を呪術的に感じることはありますか?現実逃避できるというか。

リサ:私は呪術的だとは感じるけど、現実逃避というよりは、実は逆で、むしろ地に足がしっかりついている気がする。不安を抱えている時や辛い時期って、その現実の中にしっかり存在できてない、その瞬間に何が起きているのか、しっかり理解できていないと思うの。でも音楽を聴くことは、それと向き合う瞑想みたいなものだと思うのよね。私にとってはそれがすごくマジカルに感じる。それが人の心を動かすことができたらうれしいし、それを必要としている人々に音楽が届いたらいいなと思う。

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パンデミック中に祝うことができなかったことを祝いたい。

――「Rise Above」では、これまでになく強い感情が歌声に出ているように感じました。

リサ:これはいままで書いた曲の中でもいちばんのお気に入りのひとつ。あの曲にはすべてが詰まっている。怒りも込められているけれど、同時に希望も込められている。すごくパワフルだけどデリケートでもあるの。それに、自分の骨がそれを感じるほどキーが高いのよね。あそこまでの高音は、私たちの中で初めてなんじゃないかな。ライブで歌っていても、すごくエネルギーを感じる。

――どういう思いを込めたのですか? 歌詞を変えたとはいえ、アレンジもカバー曲とは思えないほど違いますよね。

リサ:これは、不公平な扱いを受けているすべての人々のために作られた曲。あの曲を聴いて自分自身の炎を見つけてほしいし、そんなことがこれから続いていかないよう、私たちは立ち上がり、戦わなければいけないことを思い出してほしい。あの曲は、もともとパンクバンドのブラック・フラッグによって書かれた作品だけど、驚くほど私たちの経験に繋がっていたの。だからほかの多くの人々も繋がりを感じるだろうと思って、あの曲を作ることにしたの。

――最後の曲「Los Muertos」に“Ibae”という言葉が出てくるのですが、これもヨルバ語?

リサ:そうよ。天からの恵みや恩恵という意味。あの曲は、私たちの亡くなった父親や、曲を作っている時に周りにいてくれたような気がした人々のことを歌っている。あの曲は実はカバーで、私たちの父親も自分のアルバムで同じことをしたことがあったから、私たちも自分たちのアルバムで私たちらしくそれをやってみることにした。あの曲で聴こえてくるのは父の声。彼のアルバムから、あの声をサンプルしたの。

――今回のアルバムには決まったテーマがあるのでしょうか? 浄化する音楽のような雰囲気を全体から感じました。

リサ:もしすべての曲を繋げてひとつにし、それを言葉で表すとすれば、癒しと祝福だと思う。私たちがパンデミックで直面しなければならなかった苦境から私たちを癒すこと。そして、これまでにうまくいったことや、私たちを幸せにしてくれたものとか、時間をかけて祝うことができなかったことをいま祝うこと。「Sister 2 Sister」もそのひとつだった。もちろん、このアルバムがみんなのこれからの人生のサウンドトラック、生活の一部のようなレコードになってくれたらうれしいな。

――今日はありがとうございました。

リサ:また日本へ絶対に行くから!そこで会えますように。

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『Spell 31』ビート・レコーズ ¥2,420

*To Be Continued

text: Natsumi Ito

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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