挑戦心にあふれた、NIKO NIKO TAN TANの『新喜劇』。

NIKO NIKO TAN TAN(以下ニコタン)がメジャーファーストアルバム『新喜劇』を発表した。インディーズ時代のアルバム『微笑』の取材を2018年に取材しているが、コロナ禍を挟みつつ、2020年には「VANS MUSICIANS WANTED」で2万人の応募の中からアジアのトップ5のアーティストに選出され、アンダーソン・パーク(ブルーノ・マーズとSilk Sonicを結成)が大絶賛。EP『?』(2022年)発表後はフジロックフェスティバルに2年連続で出演し、またCMや、TVドラマの楽曲や映画の主題歌も担当するなど、徐々に活躍の場を広げていった。この激動の時期を経て、満を持して発表した傑作アルバム『新喜劇』について、現在3人組のニコタンの中で、音楽、演奏を担当しているOCHANとAnabebeに話を聞いた。

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(写真左から)OCHAN(オオチャン/Vo, Synth, etc/作詞・作曲・編曲)、Anabebe(アナベベ/Drum /編曲)、さらにDrug Store Cowboy(ドラッグストアカウボーイ/映像/アートディレクター/モーショングラフィック)を加えた3人で、クリエイティブミクスチャーユニット、NIKO NIKO TAN TANとして活動している。photograhy: Kentaro Oshio

チャップリンにも通じる、喜劇だったと思えるような生き方を。

――オープニングの曲名が「Smile」ですね。

OCHAN(以下O):これには、いろんな偶然があるんです。まずアルバムタイトルについては、「新喜劇」という言葉が浮かびました。僕は言葉の響きを重視するので、意味は後回しにして、ある言葉が出てきた時に、そこから作りたいものや自分がいま感じていることなどを掘り下げていくんですね。その中で喜劇に関してはチャップリンの言葉"人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である"にある通り、これは美談とかではなくて皮肉でもあるみたいな、いろんな側面で取れる振り幅を持った深い言葉だなと感じて、まずは「新喜劇」という曲を作っていったんです。 

――最初に言葉ありきだったんですね。

O:そうです。「Smile」というのは、2年前に「Smile」というタイトルのワンマンライヴをやっているんですけど、NIKO NIKO TAN TANというバンド名にしても、アルバム『微笑』にしても、僕らは笑いということをバンドのモチーフにしているところがあるので、このアルバムも1曲目は「Smile」というタイトルのイントロダクションにして、そこから「新喜劇」に流れる考えがありました。それで調べていたら、チャップリンの映画『モダンタイムス』のテーマ曲が彼の作った「スマイル」という曲だったので、運命的なビビッとくるものを感じたんです。

 

――凄いですね! この「新喜劇」とは関西の新喜劇とは関係ないというのは、先日のライヴでも話していました。アルバムタイトル曲ということで、歌詞に込めた思いはありますか?

O:記念すべきメジャーの1枚目だし、つらつらと頭の中に浮かぶ言葉とかを眺めたりした時に、サビの"おどけて おどけてみる"というフレーズを思いついたんです。そこから(喜劇や悲劇についても書かれている)太宰治さんの『人間失格』を読みながら、遊戯からの「戯(おど)ける」でもいいなと思いつつ、そこからまた自分のいまの状況とかを深掘りして行って、「おどけて」に、あえて「お道化て」という文字を当てはめました。

 

OCHANが着ているTシャツのイラストはAnabebeの手描きによるもの。

――おもしろい。そこまでこだわったんですね。

O:幸せの到達地点というのは、僕だったらずっと日々生きている限り満足しないし、もちろんアップダウンはあると思うし、最期に死ぬ時に、自分の人生的にも「これは喜劇だった」といえるような生き方をしたいという思いがあって。「最期は笑って死にたいよね」、「終わり良ければすべて良し」みたいな。たとえば、いまの時点でもうまくいかないことはいっぱいあるけれど、数年後の自分からいまを振り返った時に笑い話になればいいなっていう。数年後に自分がどう思っているかというのは、いまからの生き方次第だと思う。だから過去に対しても未来に向けても、「自分の生き方は喜劇でありたいな」っていうメッセージソングですね。自分を鼓舞する意味での歌ですね。

――曲調は歌謡曲のニュアンスを含んでいて、これまでの歌い方とは明らかに違いますね。

O:そうですね、歌い方はいろいろ挑戦してみました。よくファルセットで歌っていたんですけど、「Jurassic」あたりから地声で歌うのもいいなと。

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「Jurassic」が僕らをいろんな新しいところへ連れて行ってくれた。

――私はふたりの音楽活動を長年追ってきていますが、曲作りをしているOCHANにとって、音楽的な転機はいつですか?

O:それはニコタンをやり始めた時ですね。バンドでは、曲を作っていてもライヴで再現できるかどうかを考えてしまって、そういう制限も僕にはストレスでした。なので、そういうのを一切考えずに自由に曲を作りたくて、ニコタンを始めた時がいちばんの転機でした。

Anabebe(以下A):そうだね。

 

――いまはOCHANが最初に楽曲の元となる部分を自分で打ち込んで作って、楽曲という形にする時にふたりでスタジオで一緒に組み立てていくスタイルで制作して、本当にいろんなタイプの曲ができてきましたよね。四つ打ちで盛り上がるナンバー「Jurassic」に代表されるようにダンスミュージックが増えてきたのは、フジロックに出たのが大きかったのかなと思いますが、その前のEP『?』に収録されていた「WONDER」はディスコというかファンキーなダンスチューンで、実はこの辺りから次の転機を迎えたのかなと思っていて。

O:そうですね、「WONDER」かもしれないです。昔からダフトパンクとかジャスティスとかフェニックスが好きなんですけど、偶然、 フェニックスのライヴにダフトパンクが登場したライヴ映像を目にして、ダフトパンクの「アラウンド・ザ・ワールド」をフェニックスがバンド演奏でやっているのがめちゃくちゃ良くて、それに感化されて「WONDER」を作りました。

――2010年のマディソンスクウェアガーデンのものかもしれないですね。その後にダフトパンクとナイル・ロジャースやファレル・ウィリアムスが一緒にやっていたこともありましたね。そうすると、ダンスチューンをやっていくうちに、こっちもおもしろいぞと四つ打ち系の方に流れていった感じ?

A:そうですね。

O:それが僕らの手札のひとつになったみたいの感じの曲になりました。

――「Jurassic」が誕生したきっかけは? 歌詞も歌い方も含めて、ここまで勇ましいのは初めてですよね。

A:確かに。

O:(笑)。「Jurassic」はフジロックの2回目の出演がレッドマーキーに決まって、そこで闘える曲というイメージで作りました。これは去年出してきた曲の中でも、デモの段階からいい曲になりそうだという予感があって。CMが決まったのを含め、この曲は僕らをいろんな新しいところへ連れて行ってくれたイメージがありますね。

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前半の第1幕は新曲中心、第2幕は傑作「IAI」から始まる。

――「Jurassic」に続いて収録されている「Paradise」は前からある曲ですが、エレクトロニカというより力強いダンスビートになっていて、ドラムの表情が豊かですよね。しかもインタールード的になっているのも良くて。この曲をアルバムの中間の7曲目に持ってきたのは?

O:第1幕の最後の曲のイメージでいました。このアルバムではライヴでずっとやり続けている古い曲で、好きになっていった曲です。

――次は8曲目だから曲名が「八」なのかなと。これはOCHANがひとりでやっていて、歌詞にある"ともに勝って 望みたいな"という強気な面は、「Jurassic」に続くアウトロな感じがしました。

O:エイトと読むんです(笑)。

A:えっ、知らなかった(笑)。

O:歌詞の意気込みというか、ここに置かれている主人公がいたとしたら、「Jurassic」と同じ主人公のようなイメージですね。まさにアウトロということなのかもしれないですね。

――では、正解の丸をいただいてもよろしいでしょうか?(笑)

O:(笑)。さすがわかってくれてますね。 

ライヴ会場でステージの背後に映すことをイメージした「IAI」のヴィジュアライザー。

――(笑)。私はこの曲順がすごく好きで、その次に来る「IAI」が最強にズルイ曲で、私は現在のニコタンの集大成の曲だと思っています。イントロは喜劇を思わせるチャンバラを想起させる三味線や鼓のような音色が入っていながら、AメロからBメロへは行かずに、いきなりキラーフレーズのサビに入るじゃないですか、この構成が犯罪的にズルくて(笑)。サウンドの印象で言ったら、可笑しさと、力強さと、切なさが無理なくマッチしていて、素晴らしいですね。

O:うれしいです、そんなに言ってもらえて。さっき「八」をアウトロみたいって言ってくれたんですけど、転換のBGMみたいな感じなんです。「IAI」で第2幕をスタートしたいイメージで持ってきたんですよ。 

――私も新曲中心の前半がレコードでいうA面の扱いで、次がB面、とメモしていて、そんな感じで解釈していました。では、ここも丸をいただきました(笑)。

O&A:(笑)

――歌声や鍵盤、パーカッションといった音が混在するなかで、シンセベースがとてもいい味を出していて、そこも好き。ただ今回、音の整理が大変だったのでは?

O:大変でしたね。「IAI」がいちばん大変でした。ちょっと変な展開じゃないですか。結構いじった結果、そうなっているということなんですよね。

A:ドラムも結構変わりました。サビとかははじめスタジオに入った時、ズンズンパズンパ、ズンズンパズンパ叩いていたんですけど、これだとちょっとわかりにくいので、もうちょっとわかりやすい普通の8ビートみたいな感じにしたり、こねくりまわしたりして。

O:サビが地繋ぎになっているようなビートがいいんじゃないかなぁっていうふうに考えたりしたんですけど、曲展開が激しすぎても、自分らに正直になって、やっぱこっちの方がカッコイイな、という構成になりました。

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自分で書いた歌詞で歌うことで、新しい楽器を覚えたくらいの変化が。

――「No Time To Lose」も従来のニコタンの刹那系の曲ですけど、これは珍しくピアノのアルペジオの三連符ですね。

O:この曲は映画に向けて作った感じですね。映画の題材が、一見コミカルな感じなのかなぁって思っていたら、少し哲学的な部分も感じられて、主人公もひとりにスポットライトが当たっているというよりかは、オムニバス的に何人もいる人間ドラマを描いている感じだったので、人間讃歌みたいなものを描こうという音楽的イメージはありました。

 

――それで声を重ねているという。とても聴きやすい曲ですよね。

O:ピアノで作っていったんですけど、あのアルペジオが最初にできて、あとは弾き語りするように、メロディはスーッとできていきました。あと、音数を少なめにしましたね。 

――最後にアルバムのリード曲「Only Lonely Dance」について。これは言葉遊びも含めて、楽しんで作ったダンスチューンかと。

O:そうですね、冒険と好奇心と、周りを気にせず人生を味わい尽くしたい、というような、自分の中のテーマで作りました。

――作詞を自分で担当するようになって、ライヴ会場では自分の書いた歌詞で歌って、目の前の景色が広がっていくわけじゃないですか。そうすると、こういうことを歌いたいとか、自分自身が強くなるとか、そういう変化はありました?

O:全然違いますよ。新しい楽器を覚えたくらいに変わりますね。「新喜劇」がいい例だと思います。

――では、OCHANにとっていま書いている歌詞はどういうもの?

O:現時点の作詞ということでは、自分を鼓舞するものでもあるし、日常生活でもあるし、でも僕が本気で考えていることを他の誰かが全然他の意味に取ってもらってもいいものでもある。音楽という意味では、Anabebeとふたりで作ることで、自分がイメージしていたものと別のものが出来上がるおもしろさもあるわけじゃないですか。でも歌詞は自分の考えていることを吐露していたり、伝えたいことだったりするので、後から一語一句を見て、こうしたら良かったのかなと思うこともありますね。あと、作詞は性格が出るなぁって思います(笑)。

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OCHANは、ニコタンの活動とは別に、イラストレーターとしても活躍中。Anabebeは父がボーカル、兄3人がギターとベース、妹がキーボード担当という、家族でバンドを楽しむ環境で育った。photograhy: Kentaro Oshio

――最後に、ともに進化していくお互いの様子をどう見ていますか?

A:OCHANの挑戦心を大尊敬しますし、あんまりほかにない感じの曲を作りはるなぁって、思って、負けないように頑張ろうと思っています。

O:最初に出会ったときの俺の目は間違ってなかったなという感じですね、やっぱり。

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『新喜劇』VICTOR ONLINESTORE限定版(CD+オリジナルキーホルダー+ブックレット/ビクターエンタテインメント/¥6.050)通常盤(CD)¥3,300
*タイアップ曲
「新喜劇」(映画「この動画は再生できません THE MOVIE」主題歌)
「Jurassic」(戸田建設のCMソング)
「IAI」(水曜ドラマ23「向かいのアイツ〜メトロンズ初主演連続ドラマ〜」オープニングテーマ)
「No Time To Lose」(映画「みーんな、宇宙人。」主題歌)

*NIKO NIKO TAN TAN ONE―MAN TOUR 2024新喜劇
10月18日(金)大阪 Music Club JANUS
10月26日(土)愛知 新栄シャングリラ
10月27日(日)福岡 BEAT STATION
11月4日(月・祝) 北海道 Sound lab mole
11月23日(土)宮城 仙台MACANA
11月29日(金)東京 LIQUIDROOM
詳しくはHPを参照
https://www.nikonikotantan.com/

*To Be Continued

   

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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