注目のサウンド・クリエイター、mabanuaの新作について②
Music Sketch 2012.11.30
前回に続き、ミュージックシーンで評価の高い若手クリエイターのmabanuaのインタビューを。
----mabanuaさんの作品はデジタライズ、つまり音を加工しているものが多いような気がしますが、それは自分の音だということを伝えたい意味からですか?
「そうですね。トラックメイカーにはMPCなど同じような機材を使っている人が多い。なので、何か自分のトレードマークになるようなことを音で何か探さないとならなかったような。ドラムもそうだし、それに乗る楽器もそうなんですけど、全部がバランス良く混ざっているというのが自分の中ではこだわりたい部分で、デジタライズすることによって、アンサンブルがパズルのようにキレイに収まると感じるんですね。あとは、たまたま1stと2ndの音楽性が、デジタライズした音の方がハマる音楽性でやっていた。Ovallだったら、あまり切り貼りせずに、生ドラムで通した方がいい音楽性だから、そっちでやっている感じなんですよ」
mabanuaさんがメンバーとして参加しているOvall。左から関口シンゴ(G)、mabanua、Shingo Suzuki(B、Key、トラックメイカー)。
----最新アルバム『only the facts』はどのようにして曲を制作していったのですか?
「今回は基本的に鍵盤で曲を作っていて、あらかじめクリックを鳴らして鍵盤を弾いて、コード進行だけ先に決めちゃうんですよ。譜面にそれを全部書いてから、レコーディングを始める感じですね。メロディは、ベーシックのオケを先に作って、あとから考えます。1枚目の『Done Already』の時は逆で譜面に書かず、とりあえずいっぱい音を重ねてみて、良くなればそのままラップを乗せるし、だめだったらボツにするっていう逆のプロセスで進めました」
mabanuaさんのソロ1枚目『Done Already』(2008年)。ジュュラシック 5 の AKIL THE MC、アレステッド・ディヴェロップメントの Esheなどが参加したヒップホップ色の強い作品。
----4年間空いたうちに、作りたい音楽が変わってきたのは?
「これはアルバムタイトルにも関係してくるんですが、今回は前作とカラーが違うので、1枚目を聴いていた人はビックリすると思うんです。ただ、前作を作り終えてからCharaさんのプロデュースやCM、『坂道のアポロン』とか、ああいった(ポピュラーな)作品をいっぱい経てきて、1枚目と同じ音になるわけがないと思っていて。この4年間の中で構築されたものを自然と表すと、今回の2作目みたいな音になったんで、ありのままの自分を表現した感じですね」
mabanuaさんのソロ2枚目『only the facts』からのリードトラック「talkin' to you」。 ヴォーカルもmabanuaさんが担当。
----ソロ作品では、どのあたりにポップさを求めました?
「やはり歌、メロディですね。ビートルズを聴き始めた頃から、メロディというものが自分は一番好きなんだなと思っていて。リズムも凄く好きなんだけど、今回は原点回帰ではないけど、音楽を始めた時みたいにメロディをまた重要視してやってみようかな、という」
----音の話になりますが、「Sweetest Things」ではシンセベースの歪んだ音がずっと冒頭から入っていて、とても印象的です。ああいう音の作りもとても上手ですよね?
「さっきサンレコ(『サウンド&レコーディング・マガジン』誌)のインタビューの人が来ていたんですけど、同じところを指摘していて(笑)。あれも普通に鍵盤で、気持ちのいい音色を探してパッて弾いただけなんで」
----いわゆるドラムス、ベース、ギター、キーボード、そういうバランスではなくて、自分の中でハマりやすい音を見つけて構築していく感じですか?
「そうですね。逆にバンド・サウンドというと、もうギター、ベースとか、生の鍵盤ということになると思うんですけど、そういうバンド的な構築ではなくて、トラックメイク的な、気に入った音色をどんどん重ねていく方法ですね。それは1枚目の時と変わらないかもしれないですね」
----アンサンブルをしっかり考えていくという感じ?
「そうですね」
「喋るのは苦手」と言いつつ、Oshite(http://oshite.net/)ではトーク番組も担当。
--−mabanuaさんの音楽は、どれも音遣いにユーモアがあるというか、ロマンチストな感じがしますね。インストゥルメンタルの「want to go」の冒頭の箇所とかも。
「そうですね、なんか耳に残る音色とかフレーズをどこかしら忍ばせるようにしています」
----性格的にも冗談好きとか?
「冗談は好きなんですけど、この口調なんで、真面目に喋っていると思われがちで。だから言葉で笑わせたり、ハッとさせるのが苦手なんで、逆に音楽でやっているのかなっていう(笑)」
----でも、音にこだわるといっても、やはり最初はグルーヴありきなのでは?
「そうですね。グルーヴを決めて、音色を選ぶという順序ですかね、Charaさんに言われたのは、"mabanuaは音色云々もあるけど、点と点のアレンジが一番合っているよね"って。自分は色ではなく、点と点を結ぶ線だけで楽曲を構築しているっていう感覚がある。ドラムのグルーヴで、スネアが少し速くても遅くても気持ち悪いと感じる、自分の目指す位置が必ずあって、鍵盤にしてもベースにしても必ずこの位置にいてほしいというの位置がいつも明確にあるんですよね。それからちょっとでもズレると、"あぁ、このアレンジ、やだ!"っていうふうになってしまう。自分の音楽の特色というと点と点のアレンジだと思うんですよね」
----それが先ほどのアンサンブルに繋がっていくという?
「そうですね」
引き続き、タヒチ80のグザヴィエ・ボワイエも参加した、最新アルバム『only the facts』について具体的なお話を。
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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