OWL CITY&MAE@渋谷クラブクアトロ

11月24日に渋谷クラブクアトロで行われたMAEのライヴは、なんだか得した気分になるコンサートでした。まずオープニングアクトが、ちょうど全米で「Fireflies」が第1位に輝いた、大ヒット中のOwl City。アダム・ヤングによるソロ・プロジェクトなものの、ステージにはギターや電子機材を操りながら歌うアダムの他に、温かな音色を紡ぎだすチェロ奏者、ヴァイオリン奏者なども登場。睡眠障害だったアダムが眠れない夜に作曲していったという、爽やかで優しいメロディを持つ楽曲を温もり溢れるサウンドで引き立てていきます。全部で11曲も演奏し、会場の温度を高めてくれました。

FIGARO057A.JPGオープニングアクトは全米で大ブレイク中のOWL CITY。Photo:Kentaro Kambe


メインアクトのMAEは、アメリカはヴァージニア州出身のバンド。今回のアルバムで4作目、来日公演もフェスを入れて4度目になるので、知っている方が多いかもしれません。Multisensory Aesthentics Experience(多感覚な美的体験)という言葉の最初の文字を合わせてMAEとつけた、アクロニムなバンド名が示すとおり、「五感で音楽を感じてほしい」と、多角的なライヴを展開します。

FIGARO57B.jpgメンバーは3人ながら、ステージはサポートメンバーを加えて、自在に演奏していきます。


まず、ライヴ会場に入る前に3Dメガネを渡されます。スクリーンに「MAE3D」のサインが出ると、観客はみな3Dメガネをかけ、3D映像を前に演奏するMAEのパフォーマンスを堪能できるからです。でも、お楽しみはそれだけではありません。メンバーから指示があると、最前列の数人が容器に入ったミストを吹き、ステージ前にある大型の扇風機で後ろへと飛ばします。私はうまく匂いをキャッチすることができませんでしたが、当日ライヴ前に行なった取材によれば、海の香りがしたはずです。また、最新アルバム『(m)orning』のスペシャル盤がライヴ会場で限定で発売されていて、「そのCDジャケットの表面を擦ると、同じく海の香りがするように工夫している」と、メンバーが話していました(ライヴに興奮し、すっかり購入し忘れました)。

FIGARO57C.jpg「MAE3D」のサインがスクリーンに現れると、観客は会場で配られたメガネをかけます。


MAEはラウド系のサウンドを放ちながらも、常に優美なメロディに重きを置いた音楽を展開し、特にピアノを主軸にした2枚目のアルバム『ジ・エヴァーグロウ』(2005年)がピアノ・エモ系と呼ばれて全米を中心に大ヒット。ダイナミズムを前面に打ち出した3作目『シンギュラリティ』(2007年)も評価が高く、フー・ファイターズなどとツアーを回りながらビッグ・バンドに成長しました。

FIGARO57D.jpgあと1ヶ月ほどで結婚するデイヴ・エルキンス(Vo&G)。チャリティ活動を経て、考え方が柔軟になったそう。


そんな中、発表した4作目『(m)orning』はインディーズに戻り、自分たちのレーベルCELL RECORDSからの第一弾。マネージャーもディレクターもいない制約のない中で、"モーニング"をキー・ワードにイメージを展開し、野外で録音した爽やかなサウンドも織り交ぜながら、1分半の曲から8分を超す曲まで、その時の気分に流されるように自由に音楽を創作しています。

FIGARO057E.jpgどこか牧師のような雰囲気を醸し出すジェイコブ・マーシャル(D)。


残念ながらライヴでは新作からの曲は2曲で、初期の楽曲が大半を占めていましたが、まだまだ実験中という、今後に繋がる可能性を随所に感じさせてくれました。

FIGARO057F.jpg終始エネルギッシュなパフォーマンスで魅せたザック・ギャーリング(G&Vo)。


HPで、"1ゴール:メイク・ア・ディファレンス"と称し、毎月1曲ずつウェブ限定で新曲を発信し、その利益を慈善団体などに寄付している彼ら。アルバムのリードトラック「焔の家」のヴィデオをライヴの演奏中に流していましたが、それは彼らの創作に欠かせないピアノを燃やし、そのクリエイションの象徴である"炎"を元に、メンバーが家のない家族のために住まいを実際に建設していくというもの。

アメリカなどカレッジ・シーンを中心に支持されているMAEは、ウェブ上のネットワークを活かして他にもさまざまなチャリティ活動やプロジェクトを進めていて、「U2を目指しているわけではないけれど、救済できるものには手を差し伸べていきたい。個人の力では何もできないと思っていても、1人1人の中で何かが変わっていけば大きな変化に繋がる。僕たちの音楽を通して、みんな1人1人の力によって変化を生み出せることを確信していってほしいんだ」と語ります。

FIGARO057G.jpg五感で音楽を体感してもらおうと、仕掛けの多いライヴは大盛況。


「五感を活かしたビジュアルハーモニーを作っていきたいし、僕らのやりたいことはすべて音楽の延長線上にある」と、広大な視点で音楽を捉えているMAE。今後は『(a)fternoon』、『(e(v)ening)と、1日の時間帯を追うようにコンセプチュアルな作品を3部作として発表するそうですが、是非次回は自然をそのまま体感できる屋外でライヴをやってほしいです。


it1.jpgMAE『(m)orning』


MAE Live Photo:Maranori Naruse
*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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