メロディ・ガルドー取材&ライヴ

アルバムの評判が良かったのにも関わらず、昨年から体調不良や交通事故に遭い、来日の機会が延びていたメロディ・ガルドー。満開の桜の余韻が残る頃、三度目の正直でようやく日本へやってきました。

ito1.jpg撮影は本誌アクチュアリテのページでお馴染み、寺澤太郎氏。このコラムの私の写真も撮っていただいています。

昨年の本誌11月5日号でも取り上げましたが、ファッション・デザイナーを目指していた19歳の時に生死を彷徨うほどの交通事故に遭い、記憶障害などの治療の一環として医者から音楽セラピーを勧められ、ベッドの上で曲作りをスタート。その歌が認められて、デビューへとつながりました。

趣味として子供の頃から聴いていたのは、キュアー、デュラン・デュラン、ニルヴァーナ、トーリ・エイモス、ローリン・ヒルなど。それが今、ジャズ・テイストへと変わったのは、「精神が軽くなり、苦痛を取り除く音楽にするため、自分にとっての癒しとなるように柔らかい音を心掛けて使っていたから」。確かにメジャー・デビュー作となった『夜と朝の間で』では、極力シンプルで柔和な音空間にメロディの歌が広がっています。

しかし、最新作『マイ・ワン・アンド・オンリー・スリル』では、"セラピーのための音楽"から"楽しむための音楽"へと進化し、まるでペイントするようにサウンドを選び、歌詞も映画のストーリーのように書き綴っていったそうです。詳しくは本誌6月5日号(5月20日発売)に記事を書いているので、そちらを楽しみにしていただくことにして、少しインタヴュー時の様子をご紹介しましょう。

ito2.jpg視覚障害を配慮し、室内をなるべく暗くして撮影しています。

長身のメロディ。未だリハビリが続いていて長時間同じ体勢を続けるのは辛く、視覚障害もあるために、ホテルの一室で行われた取材&撮影も光をできるだけ遮断して行ないました。

ポエトリーが好きなせいもあるのか、喋っている時も囁くような小声にポエティックな表現が続きます。好きな詩人・作家として名前を挙げたのが、ラテン・アメリカを代表するパブロ・ネルーダとアーネスト・ヘミングウェイ。特にネルーダの詩には強く影響されているようで、彼の作風についてしばらく熱く語っていました。思わず私も、彼のことを描いた映画『イル・ポスティーノ』の話をしたくなってしまったほどです。

ito3.jpgファッション・デザイナーを目指していたとあってオシャレさん。自ら写真チェックもします。

繊細で詩情に溢れ、ユーモアも欠かさず、笑う時は思い切り顔を崩して笑うメロディ。明るい性格のように感じましたが、それは根っからそうなのか、九死に一生を得て、音楽の才能開花という新たなチャンスを獲得したことが彼女自身を変えたのか、それはわかりません。ただ想像を絶するほどの努力と葛藤を経て、ここまで到達したはずです。実際に対面してみて、本当に魅力的な女性で、本人も作品もより好きになってしまいました。
         *        *        *

13日に恵比寿リキッドルームで行われたライヴは、彼女の溜め息さえも歌になり、静寂をも活かしたコンサートになりました。

ito4.jpg1時間に及ぶライヴ。美意識の高いサウンドと歌で魅了しました。

"共感覚"(注1)の持ち主なのか、メロディは「ブルーやグリーンの色合いを感じるトランペットの音色が好き」といい、ライヴではその芳潤なサウンドがセンシュアルなヴォーカルと見事に溶け合っていきます。また、「しゃきっとしたイエローを感じる」というギターのクリスピーな音色をアクセントに挟みながら、そしてメロディ自身も、途中でアコースティック・ギターやピアノを演奏しながら、ショウはゴージャスかつ緩やかに流れていきます。

ito5.jpg場内は薄明かり。メロディの情感を掬っていくミュージシャンの技量も見事。

会場は混んではなく、かなり余裕があったのですが、そんな時、スタンディングが辛かったのでしょうか、終盤、私の背後にいた女性が、私の背中に頭突きをするかのように勢いよく貧血で倒れ込んできました。なんとか抱き止めて床に座らせて、声を掛けていたら、どこからか現れた女性が、「ブラ外して。ブラ外して。恥ずかしがらないで」と意識朦朧の女性に話し掛け、逆に私は「あなたは黙っていなさい」と、一喝されてしまいました。私は怒られたことに唖然として場所を変え、アンコール終了後に倒れた女性の様子を見に行ったら、復活して立って見ていたので安心しました。とはいえ、私はあまりに首と背中が痛くてその後はライヴをまともに見ていられず、軽い鞭打ち状態に・・・・・・。

ito6.jpg次回は座ってゆっくり歌を堪能したい、と、誰もが思ったはず。早く戻ってきて欲しいですね。

以前から気になっていたのですが、ロックコンサートなどでステージ前でモッシュ&ダイヴを頻繁にやっていますが、背後からいきなり頭上に乗っかられた人、かなり痛いですよね。メロディのライヴももっと混み合っていたら、あんなに勢いよく倒れずに済んだのかもしれませんが、今後は背後にも気を遣いたいと思います。ちなみに貧血時にはブラを外すと良いそうで。私は子供の頃から貧血症だったのに全く知らず、すっかり大人になってから編集部KEさんから教えてもらいました。ライヴに夢中で、気分不良になる人に対して見て見ぬふりをする観客もいる中で、あのように駆け寄る人がいるのは嬉しいですね。私と一緒に行った友人M氏は、男性なのに力を貸してくれなかったし......。

ito7.jpgイチゴ・ジャムの季節到来。これからたくさん作ります。

数日自宅で安静している際に、毎年私がイチゴのジャムを作っているのを覚えていてくれた近所の八百屋さんが熟した"とちおとめ"を大量に分けてくださったので、早速作ってみました。小粒よりも大粒の方が果実味の感触がしっかり残り、美味しくできるような気がしました。すぐに、友人たちにお裾分けしました。

《セットリスト》
01.No More My Lord
02.Sweet Memory
03.Who Will Comfort Me
04.Ain't No Sunshine
05.Worrisome Heart
06.All That I Need is Love
07.Baby I'm a Fool
08.If the Stars Were Mine
09.Love Me Like a River Does
10.My One and Only Thrill
11.Your Heart is as Black as Night
12.Goodnite
13.Somewhere Over the Rainbow
(アンコール1)14.Pretend Thant I Don't Exist
(アンコール2)15.Caravan

注1:ある刺激に対して通常の感覚だけではなく、異なる感覚も生じさせる特殊な知覚現象で、文字を見て匂いを感じたり、音を聴いて色が見えるといった特別な感性間知覚が生じる症状。レオナルド・ダ・ヴィンチや画家のワシリー・カンデンスキー、デヴィッド・ホックニー、音楽家ではフランツ・リスト、マイルス・デイヴィスなどが有名。


ライヴ写真提供:ユニバーサル・ミュージック
*to be continued*

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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