坂本龍一コンサート
Music Sketch 2009.05.18
GW直前の4月28日に、初台にある東京オペラシティ コンサートホールで行われた坂本龍一さんのコンサートへ行ってきました。最新作『OUT OF NOISE』発表後のツアーで、ピアノの弾き語りです。演奏の内容についても書きたいのですが、あまりにも書きたいことが多いので、少し音楽作品からは話がズレてしまうかもしれません。
演奏は静寂の中から始まります。
今回全国24公演行なったのですが、全公演とも教授(坂本さんの愛称)が演奏しながら、その場で曲を決めていました。映像がシンクロする曲もあれば、自動連弾になる楽曲もあるので、私はてっきり教授がピアノの横にMacを置いて、次に演奏する曲をPCからスタッフに伝えて、即座にそれに合わせた映像やサウンドを流しているのかと思っていたら、......違いました。イントロ当てクイズそのままで、最初に鳴らした1音か2音でスタッフはどの曲なのか察知して映像を選択し、また教授の正面にスタンバイしたマニピュレーターが即座にプログラミングされた音を出していったそうです。
マニピュレーターは対面位置にスタンバイ。
連弾用のピアノも。連弾曲はコンサートの前に弾いて録音しておくそう。
その場で曲を決めていったのは、ライヴそのもの、つまり演奏していると観客の呼吸が教授の演奏に同調してくるため、その気の流れを汲んだり、壊すように緊張感を持たせたかったりしたかったからでしょう。
高音質配信に向けてのマイク。
もちろん今回、24時間以内に当日のライヴ音源をi-tunesで発売するという画期的な試みをしたため、多くのミュージシャンがやっているような予め曲順をきちんと決めてしまうようなことは絶対にしたくなかったのだと思います。販売する意味も薄れますからね。そして、この全演奏曲目が異なる連日のコンサートの音源をアップしたものは、i-tunesの売り上げチャートのトップ10を独占するという快挙を成し遂げたそうです。ファンにはたまらないし、コンサートにいけなかった人にも涙ものです。
当日は70曲分の譜面を用意。
コンサート会場では、"ライブで弾きたい"30曲(25曲の未発表音源と5曲の既発音源)を収録した2枚組CDと6冊の小冊子による豪華なツアーブックも販売されました。ファンには嬉しい心遣いを細部からもたっぷり感じることができます。ちなみに各会場でCDのプラスチックケースを回収していましたが、それはレーベルのcommmonsが再利用していくそうです。
この日は全24曲(うちアンコール10曲!)も演奏。
CD『OUT OF NOISE』には、通常盤であるパッケージレスCD、アナログレコード、他にフルアートワークCDの3ヴァージョンがあります。フルアートワークCDは、書籍にCDが付いているといっても良いほど読み応えのある内容で、教授へのQ&A、作品解説や参加ミュージシャン紹介がしっかり書かれています。
フルアートワークCDには北極で音を採集する教授の写真も掲載。
当初このアルバムは『CHASM』(2004年)のPART2を意識したような内容になるはずが、CD『commmons:schola vol.1 Ryuichi Sakamoto Selections:J.S.Bach』(commmons)や『グレン・グールド 坂本龍一セレクション』(ソニー)の選曲作業をするうちにそういった音楽が脳裏に残っていたり(おそらく左右の旋律を反復あるいは循環から創られた「hibari」はそうなのでは?)、制作を中断し昨秋に北極圏へ行ったことで、作風が途中から大きく変わってきたそうです。このCDには実際に、現地で採集してきた音も曲に編集されています。
最新作CDと初の語りおろし自伝書。
ピアノ・ツアーに向けて、私は坂本龍一著『音楽は自由にする』(新潮社)を興味深く読んだばかりだったし、ライヴの後日にスタッフの方と話しているだけでも面白い話ばかりだったので、この原稿を書いてはいるものの、今回のライヴや書籍に関して頭の中が全く未だ整理されていない感じです。最近は仕事を離れてミュージシャンやアーティストと話す機会が多く、新しい刺激をもらっています。そして、文章にすることの難しさをつくづく実感しています。
Live Photo:RAMA
*to be continued*

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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