大野由美子インタビュー 舞踊団とコラボした音楽について②
Music Sketch 2011.02.24
引き続き、珍しいキノコ舞踊団の公演『The Rainy Table』に向けて大野由美子さんが制作した、ソロ・アルバム『Music for Dance Performance The Rainy Table』についてのインタビューを紹介します。
――どの曲がいちばん苦労しました?
「いちばん最初に作ったのが『intro』で意思の疎通がなかなかできませんでした。演奏にいちばん苦労したのは『Animal Room』でした」
――馬のイメージって、作りにくかったんじゃないですか?
「馬は、自分を導いてくれる役として劇中にでてきていました。馬の鳴き声もあったし、喋る馬も出てきました。音楽の中での馬の音はパーカッションで作りました。私は午年生まれで、馬が好きで、乗馬も好きでちょっとよその国に行った時に乗馬したり・・・・・・」
――では、馬の心がわかっていたんですね(笑)
「そんなことはないけど(笑)」
――でも音の響きとかあるじゃないですか。音の質感が全部同じなんですよね。馬のパカパカって音も重すぎず軽すぎずって感じで、経験者だからこそわかるのではないかと(笑)。
「じゃぁ、そうかもしれない!(笑)」
珍しいキノコ舞踊団の公演"The Rainy Table"から。photo: Yohta Kataoka
――「Animal Room」という曲名は先にもらっていたんですか?
「内容はちゃんと決まってないけど、みんなでまとまって動物をイメージする組体操みたいなものを「Animal Room」でやりたいって言われて。でもどんなものになるか見てなかったのでまったくわからなくて」
――『Mizu no naka』は水槽の中にいるような感じがする大好きな曲なんですが、これも"水の中の曲をお願いします"ってオーダーされて?
「そう、それも言われていたんですが、最初にオーダーされた時に私の中で、何かの音のリバースみたいなので"トリップするような感じに楽曲を作りたい"というのがあって、ちょうど水の中っていうのが合いそうだったから、"これはいいかも"と思ったんですよね」
――『Atama no naka』はどいう要望でできた曲なんですか?
「これは"水の音で作ってほしい"ぐらいのオーダーで」
――頭の中だけど水の音?
「そう。なんかね、逆じゃないの?って思うんだけど。あんまり作り込まないで、スタジオで水の音だけサンプリングして、即興みたいに勢いで作っていきました」
――でも"はぁ"とか、ため息が入っていますよね?
「頭の中の主人公は女の子だと思ったから、少し声も入れた方が人間味が出てイメージが膨らむかなと思ったんです」
――この曲はどんなシーンに使われたんですか?
「映像では始め雨が降ってくるんだけど、曲が盛り上がってくると、キャンディとか動物とか色んな物が降ってくるんです。雨はマイナスイメージが大きいけど、見方を変えれば恵みの雨、天からうれしいものがぼたぼたと降ってくるイメージらしいです」
珍しいキノコ舞踊団の公演"The Rainy Table"から。photo: Yohta Kataoka
――舞台を全部見た方が、絶対に楽しめそうですね。今回の作品について言えば、音楽が軸になっているので音楽ができないとダンスが完成しないわけじゃないですか。しかも注文は多いし、公演前までの時間のないプレッシャーの中で大変でしたよね。
「何も見ずに迷いながら、ずっと混沌と作ってて(笑)。で、80%ぐらいできた時に初めて全体会議があって、映像のplaplaxさんに初めてお会いした時に、"音楽がすごい救いになった。どうしていいかわからなくなった時に音楽を聴いて、なんか明かりが見えてきた"って言ってもらえて。すごくうれしくって、そこでやっと安心しました(笑)」
――全体の作品を見て、やっと千枝さんが言っていることがわかったのではないですか?
「完成を見た時は感動でした。言っていることもやっとわかりました。でもそれより初めて見た時に"私の音楽にダンスと映像がついちゃってもう感激!"って思って、涙しちゃったの。普通、音楽って何かのサポート的な役目でしょう?でもここでは音楽が主体になってるからビックリして」
自身のバンド、Baffalo Daugtherは1993年に結成。その他にも活躍が多岐にわたる大野由美子さん。演奏する楽器も、ベース、オルガン、ミニムーグ、ヴォーカル、スティールパンなど、多彩。
――私もDVDを見た時に音楽が軸になっているって思いました。この舞台は2年前の2月と3月に公演されて、それからしばらく時間が経って、CDのリリースになったのには何か意味はあるのですか?
「公演をやっている時は出すつもりはなかったんだけど、山口の会場で"CDはないんですか?"って聞かれたので、東京公演ではCD-Rを焼いて売りました。1回の公演で30枚くらい売れるので驚いて。そんなにみんなが気に入ってくれたのなら、CD-Rだと音が悪くなるし、馬の喋っている声が入っていなかったのでそれも入れて、ストリングスも本物にしてCDで残したいなと思うようになりました」
――とても聴きやすい音楽だし、気分を選ばなくて、しかも世代を超えて楽しめるので素敵な作品だと思います。
「この音楽を作っている時と、Sunshine Love Steel Orchestraの制作時期がほとんど一緒で、思いがほとんど同じでした。どちらもいろんな人、子どもからお年の人までいつでも楽しんでもらえるような曲をという思いで作っていましたから」
先日のイベント、《オオノユミコ デュオプラス》も大好評だった大野由美子さん。次なるチャレンジも楽しみにしています。
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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