オペラの衣裳を手掛ける、
ひびのこづえさんにインタビュー①

以前ご紹介した『ルサルカ』から、私はすっかりオペラの魅力に引き込まれてしまい、場所の利便さもあり新国立劇場に足を運ぶ機会が増えています。そして今回、コスチューム・アーティストとして各方面で大活躍しているひびのこづえさんが衣裳を担当する『さまよえるオランダ人』の公演があると知り、無理を承知で取材をお願いしたところ、ひびのさんにお話を伺うことができました。しかも新国立劇場から、このmadameFIGARO.jpの読者をペアで2組4名のご招待まで付けていただきました。ぜひ、衣裳の面からもオペラに興味をもっていただければ、と思います。


120214music_01.JPGとても気さくに答えてくださった、ひびのこづえさん。

――舞台衣裳のお仕事では、野田秀樹さんとのお仕事が最初で(1990年~)、それからバレエや歌舞伎、映画などもご担当されていますよね。野田さんとのお仕事について、あるインタビュー記事で「最初の舞台設定というのが制限されていないし、どこの国のどの時代なのかもわからないので、すごく自由に新しいことにチャレンジできた」というように喋っていらしたのですが、その後、歌舞伎も担当されるようになって、「それまで自分は結構アバンギャルドで、すごく西洋的な人だと思っていたら、日本の空気や色彩といったものが自分には染み付いていて、日本らしさをすごく感じた」と、話していました。実際に西洋のオペラを担当されてからは、どのように感じました?

「やっぱり歌舞伎もオペラもいろいろな決まりごとがあるじゃないですか。そこのギャップに最初は驚きましたよね。やはり歌舞伎も日本の伝統だし、オペラも西洋の伝統文化ですからね。なので、長い伝統の中にパッと入ると、ビックリすることがいろいろあるんですよね」

――というのは?

「まずどんな仕事もそうなんですけど、初めての現場には(伝統を)守ってきた人たちがいて、すごいよそ者扱いされるんです。それは映画などどこの世界でもそうで、私なんか歌舞伎も勉強してないし、オペラも勉強してないし、洋服すら勉強していない人なので(笑)、そうなるのはあたり前なんですけど、そういうところの抵抗にものすごく遭うんですよ。だからどんな世界も決してウェルカムではないので、"なんだよコイツ、なんでコイツが選ばれてきたんだ"みたいな感じになっちゃうので、毎回それを乗り越えるのが大変で(笑)」

――そうですよね、オペラに関しても、ヨーロッパ人が演じる際に、"えっ、こんな服?"みたいな反応があるのかもしれないですし。

「オペラの場合は、最初は体型がまず理解不能でしたね」


120214music_02.jpg新国立劇場オペラ『さまよえるオランダ人』(2007年)に登場するオランダ人役のユハ・ウーシタロ。確かにお腹の出具合からして、規定外の体型かも。
撮影:三枝近志

――サイズが大きいですしね。

「カッコイイと思ってデザインして、実際に会うと、もう見たことのないすごい体型じゃないですか(笑)。『さまよえるオランダ人』(2007年)を最初にやった時は、今までの演劇とかでやっていた"この人をカッコ良く見せる方法論"がすべて違っちゃったんですね」

――そうなんですか。でも、『さまよえるオランダ人』のエリックの衣裳など、すごくインパクトがありましたけど。

「もう最初にやった時はオランダ人の衣裳は作り直したので(笑)、デザインもキャストが来日してから変えたりして。演劇の人ってみんな痩せてるじゃないですか。でもオペラはメインキャスト以外のコーラスの人たちでも、やっぱりこれだけ体型が違うんだなって驚いて。私の仕事はコマーシャルとかが最初はメインですから、そうするとどうしても綺麗なモデルさん、綺麗な女優や俳優さんっていう無駄な肉がないような人たちばかりだったんです。なので、まず人間の質が違うという意味で驚くし、だからその人たちをどういうふうに舞台上でカッコよく見せるかという、その方法を模索する感じでした」

――『さまよえるオランダ人』は、海賊ものというか元ネタが『パイレーツ・オブ・カリビアン』と同じだそうで、この体格のいい人たちをよりカッコよく、男らしく見せるという衣裳は、私は全身を見てもすごく好きでした。

「他はわりとバランスが取れていたり、そんな問題のあるキャラではないし(笑)。でもオランダ人は、写真で見たら結構マッチョでもスッとした人かなって思ったら・・・」

――お腹の出方が全然違いますよね。

「そうなんですよね! あれには、ちょっとビックリですね。お腹を隠さなきゃ!みたいな感じだったので」

――でも子ども心に、昔は"オペラ歌手はみんな大きい"っていうイメージがあったんですけど、今こうやって何作か見せていただくと、女の人はスマートな人が増えてきた気がしますね。

「でも今度のゼンタは前回とは違う人で、シルエットを変えないと乙女に見えないんです。でも服が入らないからって、痩せていただくのはオペラの人には無理ですもんね」


*To be continued


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音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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