Rie fu 個展@プロモ・アルテ・ギャラリー
Music Sketch 2009.07.31
シンガー・ソングライターとしても活躍するRie fuさんの個展に行ってきました。ここでは舩越里恵という本名で油絵を発表しています。高校卒業後、2003年9月にロンドン芸術大学(セントラル・マーチンズ大学)に入学し、当初はファッションデザインの方へ進もうと思っていたものの、大学2年目ではグラフィックデザイン科へ進み、3年目からファインアート科へ。自分の本当にやりたいことや表現したい手段を見つけるまでに何度も悩んだというけれど、いろいろな分野から学べたことはとても良かったそうです。そして実際にその経験はアートはもちろん、音楽の分野にも活かされていると思います。
見応え、読み応えのある画集です。
Rie fuさんがシンガーとしてデビューしたのは、渡英した大学入学後の2004年3月。子供の頃、父親の仕事の関係でアメリカに住んでいたことがあり、カーペンターズなどに親しんできた彼女の作品には古き良き時代の洋楽の薫りがして、当初からとても親しみやすいものでした。しかも、日本語や英語を流暢に心地よいメロディに乗せながら人間の本質や根本に問いかける歌詞は、今までのシンガーにはない意思を感じさせました。そしてイギリスでもライヴを行ったり、現地のミュージシャンと曲作りをするなどして、ミュージシャンとしても成長してきました。
かなり天然な部分もあるおっとりしたキャラのRie fuさん。
私はデビュー直後から親交があるのですが、デビュー・アルバムを発表した頃、「自分の願いとしては、光と影の際を追及し続けて、誰でも持っている弱さ、触れてはいけない深いところまで届くような歌を歌っていきたい」と話していたのを、とても印象的に覚えています。そういえばこのコラムでは、昨年末のLEO今井さんのライブ原稿の時に一度ご紹介しています。
色彩感覚をはじめ、ロンドン芸術大学では次席で卒業したほどの高い才能。
油絵は、気に入った風景を撮影し、そこから描いている場合がほとんどの様子。そういえば、「音楽も油絵も、現実に空想を加えて世界を描いていくのが興味深い」と、話していたことも記憶しています。昨日個展に伺った時にあらためて音楽と絵画の共通点を訊いたら、「音楽もアートも人がそこに佇める空間を描くことができること」と話していました。
会場で売っている絵画集には、とても興味深い彼女の文章が書かれています。たとえば、最新シングル「Romantic」、最新アルバム『Urban romantic』と、最近"ロマンティック"という言葉にテーマを置いているように、Rie Fuこと舩越里恵が"ロマンチックだと感じること"に関してこう書いています。
「私がロマンティックだと思うのは、ムーディなデートとかよりも、毎日見ているような一見平凡な風景やものをいかにスペシャルに捉えるか、という、人それぞれの個性的な感受性だ。その感受性は、日常生活の中で、少し視点を変えて見るととても綺麗に見えたりシュールに見えたりするものを発見していくことで磨かれていくのだと思う」
アトリエで見せてもらった制作途中から気になっていた"工事現場"を描いた作品。まるで銅板を貼ったように見えるほど、大胆な手法も駆使しています。
そして、"ロマンチック"と"ノスタルジック"という二つの言葉が表裏一体であることや、最近、東京の"工事現場"に興味を持ち始めて絵を描くようになった話など、つい引き込まれてしまう話がいくつも書かれています。
ミュージシャンRie fuとしての最近のCDのアートワークはイギリスのデザインチームAirsideが手掛けていて、彼女の音楽世界を見事にヴィジュアル化しています。
昨日のオープニング・パーティにはたくさんの人が来ていて、私も一緒に行った編集者も知り合いに逢うなどして話に終始してしまい、しっかり写真を撮れず(言い訳ですね)。個展は表参道の駅(B2出口)から渋谷方向に歩き、無印良品の角を曲がった左手にあるガラス張りの白いビルのプロモ・アルテ・ギャラリーで8月4日まで行われていますので(3日は休館)、ぜひ、近くに行った時は足を運んでみてください。私は最近のビート感の効いた音楽作品はもちろん、彼女のアート作品も大好きです。
*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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連載:Music Sketch
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