その後のtricotにインタビュー
Music Sketch 2014.05.26
さて、3月に行なわれたtricotのアジア・ツアー5公演のうちマレーシアとシンガポール公演についてレポートしたが、その後のtricotは止まることを知らず、次なるレベルへ向けて驀進している。3月末に行なった東京、大阪のワンマン公演を終えた直後に結成当初の女子3人組に戻り、その一週間後にはイギリスのバンド、マキシモ・パークの来日公演のオープニングアクトに指名されて、サポート・ドラマーを迎えて同じステージに立つなど、ライヴを続行中。最近はポケットティッシュから新曲が聴ける(後述)という斬新な試みを展開するなど、話題はいつも尽きない。ワンマン後にメンバーに聞いた話を盛り込みつつ、最新情報を。

今年3月20日に赤坂BLITZで行われたワンマンライヴ『帰ってきたトリコさん』はソールドアウト!!! Photo:Ohagi
■ 来てくれた人に何かしら残るようないいライヴを
----アジア・ツアーを振り返ってみて、どうでした?
イッキュウ「香港と台湾は歌うとか騒ぐとかなくて、礼儀正しい感じでしたね」
ヒロミ「お客さんはフィリピンとマレーシアが一番凄かったと思います。tricotを応援してくれるファンクラブ的な感じのストリートチームがあったし」
イッキュウ「ポスターを作って街に貼ったりとかしてくれたし、会場も今までで一番人が入った日だったって聞きました」
----ライヴの状況としてハコや機材の問題もあったと思うんですけど、自分たちとしては日増しにアジア・ツアーに慣れていった感じ?それとも特にしんどかった場所などありました?
イッキュウ「そうですね〜、昔いろんな環境でライヴすることがあって、学祭といっても普通の教室みたいなところに無理矢理作った場所でライヴするとか、凄く謎な形のライヴハウスとか、いろいろ一応経験はしてたんで、今回、ちょっと違うところで見せるというか、気持ちで負けへんみたいなところを昔鍛えといて良かったなと思いました。マレーシアとシンガポールは、ほとんど中音(演奏者がステージ上で聴ける音)しかわからなくて、全く何が何だかわからない中だったんですけど」

ライヴをMCでも引っ張っていく、中嶋イッキュウ(Vo & Gt)。全曲作詞を手掛ける。 Photo:Ohagi
----シンガポールでは、ドラムのモニターのノイズ、特にハイハットがひどかったから。
ヒロミ「いろいろ凄かったけど(苦笑)、あの日は音のことは仕方ないというか。日本ほど良くないのはわかっていたし、自分のアンプとかも持っていってないんで、その場でできる限りでやれたらそれでいいかなと。あとはパフォーマンスとか、他にもっと見せられるとこもあるやろし」
----たとえば?
ヒロミ「パフォーマンスもそうですし、たとえばコール&レスポンス的なところで(お客さんを)引き込んだりとか、キメとか、音だけじゃなくても伝わるとことはいっぱいあるかなと」
キダ「機材も全部持っていけたらいいんですけど。"こういう音が出したい"というよりは、"音が出ればライヴは何とかなるでしょう"という。日本じゃないし、それは仕方ないと思って」
イッキュウ「でもやっぱり環境悪くてもなかなか来れへん土地やし、待っててくれてる人もいるので、演奏だけじゃなくていいライヴにしようとは思って演奏中もやっていました」
----いいライヴというのは?
イッキュウ「想い出にちゃんと残るようなライヴ。来てくれた人に何かしら残るような、来て良かったと思うようなライヴにはしたいと思っていました」
----大変だった国がマレーシアとシンガポールって、私はそこしか見てない(苦笑)。
イッキュウ「ほんまや(笑)。確かに」

ベースの長さと身長が同じながら、重低音を効かせた演奏を展開するヒロミ・ヒロヒロ(Ba & Cho)。Photo:Ohagi
■ アジア・ツアーからヨーロッパ・ツアーへ
----一番キツかったことは?
ヒロミ「私は急性腸炎(笑)」
イッキュウ「そりゃそうやろ(笑)」
ヒロミ「たぶん香港からなんですけど、ライヴ後の打ち上げの時ぐらいから何か様子がおかしい。でも気持ち的にはライヴになると全然楽しんでいた。お客さんも盛り上がってくれたし、救われたところもありましたけど。マレーシアとシンガポールが一番キツくて、シンガポールの病院で点滴しました」
----一番嬉しかったことは?
キダ「やっぱり行ったことない国へ行って、"待ってたゼ!"みたいな人たちがいることに驚きもしたし、嬉しかったですね」
ヒロミ「誕生日もな」
イッキュウ「泣いてたもんな」
キダ「(マレーシアやシンガポールでみんなに祝ってもらって)嬉しかった」
----今回はアジア・ツアーでしたが、tricotにとってはアジアも日本も、7月からのヨーロッパもみんな同じ?
イッキュウ「私はそうです。全部行きたいから、とりあえずアジアから攻めたっていう感じですね」
ヒロミ「行って良かったと思います」
キダ「いい経験になりました」

変拍子を得意とし、曲作りの要となるキダ・モティフォ(Gt & Cho)。Photo:Ohagi
■ "違う"と思っていることを擦り合わせるより、次へチャレンジ
----アジア・ツアー後のワンマン@赤坂BLITZでは、音の聴こえ方も曲の構成もそれまでのライヴとずいぶん違っていたので、事前にワンマンのリハをかなりやっていたのかなと。よく時間がありましたよね。
イッキュウ「そうですね、PAさんも赤坂から意識的に音を変えるようにしてて、前までは勢い重視というかインパクトのある音を出すことにかけてたらしいんですけど、今のtricotはネクストに行っているので、音もちゃんとフレーズとか聴こえるような音作りに変えたりしていますね」
----マレーシア、シンガポールという音が悪かった環境の中で、イッキュウさんのヴォーカルが凄く成長したと感じていて。赤坂BLITZの時は凄くうまくなったし、基本的に喉も強くなったし、表現力もついたし。それはアジア・ツアーで鍛えられたのか、ネクストレベルということで意識しているのか。そのあたりの変化は自分ではどう思います?
イッキュウ「そこまで意識してないというか、マレーシアとシンガポールの音の環境の悪い時も、"歌で"というよりは、"何か残したい、いいライヴにしたい"というのがあって、うまく歌おうと意識的にやったわけではないんです。たぶん気持ち的にそのまま歌に出たというか」

海外のバンドが対バンしたくなるのもわかる、圧倒的なパフォーマンス。Photo:Ohagi
----BLITZではイントロというかインプロヴァイゼイションがあってから曲に入るパターンが多くて、それもカッコ良かったし、キダさんも音にさらにこだわった感じですよね。反動でいろいろと試しているのかなと思いました。
キダ「はい。日本は、環境がかなり恵まれています」
----で、この3月末のタイミングで、1stミニアルバム『爆裂トリコさん』(オリジナルのライヴ会場限定盤は2011年8月発売)のニューミックス&リマスタリング盤(新録音源1曲あり)とアナログ盤3枚の発売、そしてkomaki♂さんの脱退など重なってしましましたが、これは偶然?
3人「偶然」

3月27日の大阪AKASOのワンマンで脱退したkomaki♂(Dr)は東京へ進出し、自身のバンドを組むという。こちらも応援したい。Photo:Ohagi
----komaki♂さんが抜けることになった流れはHPにも発表していましたが、いつぐらいからドラムを変えていこうと思ったんですか?
ヒロミ「辞める辞めないというほどでなくても前から話はいろいろしてて、ギリギリ辞めるってなったのは、わりと急です」
イッキュウ「2月頭ぐらいですかね。私達3人がちょっとおかしいので、だから私達にkomaki♂が音楽的にも人間的にも合うっていうことはたぶんなくって、今までは"その違いを逆に楽しんでやっていたような感じ"やったんです。でも私的には"バンドってそうじゃないんじゃないかな"っていうのがずっとあって。"みんなで同じ方向を向いてやっていきたい"というのが前からあって、4人の方向性みたいのを正していく話し合いもしたんですけど、結局根本の部分が違うし、別々の方がうまくいくんじゃないかなっていうのがお互いにあって、ていう感じですね」
----変拍子ってキモはドラムじゃないですか。ドラムが変わることで、今までやってきた曲がどう変わるのかなという興味はあるけど、その一方で、やっぱりそこにいる人を変えるのは勇気あることだと思うんですね。決断した最終的なきっかけは何だったの?
イッキュウ「このままずっと"違う"と思っていることを擦り合わせていくよりは、次にチャレンジした方がいいなっていうのがあって。その方が前向きになれる感じがあったので。話した時は、ヨーロッパ・ツアーとかもたぶん決まっていたし」
ヒロミ「その時期が大変なのもわかっていて、しんどい状況になるのはもう覚悟したし、いいタイミングなんてないと言えば、なかったんですけど。tricotとしての(最初のepの)『爆裂トリコさん』の再発というのもあって、ワンマンというタイミングがあったというのはあるかもしれない」

2010年9月1日の結成当時の3人に戻ったtricot。本当に仲がいい。Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
■ 結成当時の3人になり、初心に帰るような刺激的な感じ
----これからは3人でtricotという形で、それにサポート・ドラマーが加わるという編成?
イッキュウ「そうです、しばらくは。この3人だと言葉に出さなくてもわかってしまう部分が多いんで、それを新しい人に伝え忘れるのが結構多いんやろなと思うので、気をつけないと」
----キダさんは今の現状に満足しています? 凄い速度でtricotは動いているわけで。
キダ「う〜、とにかく動きを止めたくはないなと思ってて。今は凄く自由すぎて、〆切とかも別に気にしなくていいから、縛られるものがなさすぎるっていうのがあるんですけど。だから、自由さに負けないように曲も作り続けていきたいなと思います」
----曲を常に作れるのは大きいですよね。ヒロミさんはどうですか?
ヒロミ「ドラムとか今はちょっと大変なところがありますけど、初期の頃はサポートをいろんな人に頼んで曲作りをやっていたんで、その時の初心に帰るような刺激的な感じはありますね。これから忙しくなったり、さらに大変なことも出てくるかもしれないけど、そういう刺激は個人的にもバンドとしてもずっと持っていたいです」
セルビアで行われるヨーロッパ最大級の野外フェス「EXIT FESTIVAL 2014」での出演も決定。ASIAN DUB FOUNDATIONなどと一緒に紹介されている。

ポケットティッシュにAR(拡張現実)機能を仕込み、アナログとハイテクがひとつになった画期的なAR版カセットテープを制作。スマホのアプリと連動させ、そのカメラでカセット部分を写すと、テープが回転して見えて音楽が流れてくる。5月17日、18日に渋谷と梅田で配布。

新曲「Break」はライヴ会場限定で500枚販売。このジャケットは一例で、全部デザインが違うという。
今後のtricotは5月25日(日)より「どっこいしょ!男気ワンマンツアー(&二瓶どん)」がスタート、そして7月からは海外フェスに招かれ、チェコやセルビアなどへヨーロッパ・ツアーを展開する。また国内では先日ポケットティッシュから曲を聴けるという試み(スマートフォンでダウンロードしたアプリでティッシュの図柄をスキャンすると、カセットテープが擬似的に動きだし、新曲が再生される仕掛け)を展開し、IT業界からも注目された。そして新曲「Break」を会場で限定500枚全部異なるジャケットで販売するという。
tricotは、こうしている間も、常に動き続けている。
ツアー情報などHPはコチラ→http://tricot.tv
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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