蚤の市の近くに、 新しいタイプの低価格ホテルが登場。

PARIS DECO 2017.03.24

日本人が“クリニャンクールの蚤の市”と呼ぶ蚤の市。パリの人々は“サントゥアンの蚤の市”と呼ぶ。というのも、St Ouen(サントゥアン)というパリの北に隣接する土地にあるので。そのサントゥアンに広大でカジュアルなホテルが3月9日にオープンした。名前はMOB HOTEL(モブ・ホテル)。英語で大勢、大衆といった意味のホテルで、郊外都市サントゥアンに馴染むように外観は素朴なレンガ作り、価格は手頃、そしてホテル内でさまざまなカルチャー・イベントが用意されていて……と、なんとなくアナログ系の匂いのするホテルなのだが、設備についていえばハイテクが導入され、フランスのホテルにありがちなインターネット接続の不安などはゼロだ。このホテルの1階には、早朝到着でチェックインできない人や、夜のフライトゆえチェックアウト後時間を持て余している人のためのエア・モブ・ラウンジというのがある。長旅の後、とりあえずシャワー! も可能。携帯電話やiPadなどの充電もできれば、自由にスカイプができる個室も用意され、有料だが軽食もとれる。リクライニングシートで寛ぐもよし……。

170323-paris-deco-01.jpg170323-paris-deco-02.jpg

至れり尽くせりのエア・モブ・ラウンジ。 ホテル滞在客1室について、利用料金は29ユーロ。奥にはキッズルームもある。photos:Mariko OMURA

ホテルの部屋数は92。4カテゴリーあって、広さは13~38平米と決して広くはないが、価格は89~159ユーロととても手頃だ。最大の部屋では5名での滞在も可能である。カジュアルな内装ながら、ベッドだけはどことなくイタリアンの宮殿風というのが風変わりで面白い。各部屋にタブレット・クッションが備えられ、ごろごろタイムも快適に過ごせる。環境に優しいホテルを目指すので、バスルームにはバスタブはなく、シャワーのみ。お風呂好きの日本からの観光客は、節水にご協力を! というわけである。

170323-paris-deco-03.jpg

部屋は4カテゴリーあり、13~38平米。どの部屋も赤いイタリアン・シアターのようなベッドが。そして影絵(18歳以上用、未満用がある!)が備えられている。宿泊客は1階のエピスリィでギターなど楽器のレンタルができる。photo:Powl Bowyer

170323-paris-deco-04.jpg170323-paris-deco-05.jpg

内装を担当したのはクリスチャン・ガボイユとヴァレリー・ガルシア。節水を意識して、バスルームはシャワーオンリーだ。photos:Mariko OMURA

92室中、テラス付きの部屋が20あり、ハンモックを備えたテラスもある。テラスの向こうに見えるのは、コの字型のホテルの建物に囲まれた中庭だ。パリ市内のホテルには望めない広さがなんといっても魅力。ここでは毎日曜に、ビオの野菜の販売が行われるとか。6月には、日本文化にフォーカスしたイベントが予定されている。庭の巨大スクリーンで日本映画の上映、和食のフードトラック、さらに無印良品の歴史を物語る展覧会のようなものも……。そうそう、日曜朝7時30分に太極拳もここで、ということだ。

170323-paris-deco-06.jpg170323-paris-deco-07.jpg

部屋はそれほど広くなくても、ゆったりしたテラスが魅力!! photos:Mariko OMURA

170323-paris-deco-08.jpg

広い中庭。太陽の季節が待ち遠しい。手前はレストランのテラス席。photo:Bruno Comtesse

21世紀のホスピタリティを謳うこのホテルは、宿泊客だけが独占するのではなく、大勢に開かれた場所なのだ。通りに面したドアから建物に入った、右手がホテルのエントランスなのだが、そこは同時にエピスリィと呼ばれるミニ・スーパーマーケットのような店でもある。スナックや駄菓子類の販売をしているので、室内でちょっとビールでも、というときに便利。ホテルが使用するタオル、スピーカー、ホームシネマなどで気に入った品があれば、ここで購入することも可能。またオリジナルTシャツ、バッジなどお土産向きのグッズの販売もしているが、奥に2つのポップアップ・ストア用ブースがあるのがこの場の特徴だろう。例えば今ブースのひとつで展開されているのは、アフリカで製造されるスニーカーのブランドのSAWA。このスニーカーはホテルのスタッフのユニフォームの一部となっている。 もうひとつのブースでは、La Box à Planterというブランドのポップアップを展開中。ビオの野菜やハーブの種、それらを植えて育てるためのマニュアルがセットされたボックスが販売されている。ガーデニング初心者でも簡単、というのが売りである。今後の予定のひとつは、Alice Hubert(アリス・ユベール)。ジュエリーのブランドでこのポップアップの期間中は、ブースをアトリエに変身させて、作業をしながら販売をするとか。これまた新しい試みである。なお、ホテルなのにレセプションが見当たらない、と思ったら、なんと、このエピスリィの小さなレジが兼ねているということだった。ハッピを着て 、SAWAのストライプ・スニーカーをはいたレセプショニストに出迎えられても、驚かないように。なお、ここにはフィリップ・スタルクのSpeed Labが備えられているのも、嬉しい。アイフォンを接続、あるいはメモリーカードをスロットに入れて希望の写真を選ぶと、あっという間にプリント完了(1枚25サンチーム。小銭のご用意を!!)

170323-paris-deco-09.jpg

1階のエピスリィ。photo:Powl Bowyer

170323-paris-deco-10-11.jpg

初回のポップアップ・ストアはSAWA(左)とLa Box à Planter 。photos:Mariko OMURA

170323-paris-deco-12-13.jpg

左:アイフォンやデジカメの写真をSpeed Labでプリント! 壁にはホテルの工事に関わった職人たちのポートレートが飾られている。
右:エピスリィのレジがホテルのフロントも兼ねている。photos:Mariko OMURA

1階の100席の広々としたレストラン。これも当然、宿泊客に限らず利用できる。料理の素材はビオで、ピザ(すでにサントゥアンのほぼ名物!)に使われるイタリア産のビオの小麦粉はこのレストランだけのためのものとか。日替わり料理もあるので、界隈で働く人や住民にはうれしい。レストランは朝食ルームでもあり、プレイルームでもあり、そして本が並ぶ書棚もあって……と、活用の仕方は自由だ。ランチタイムでも、カウンター席なら気軽にカフェ一杯もOK。

170323-paris-deco-14.jpg170323-paris-deco-15.jpg
170323-paris-deco-16.jpg170323-paris-deco-17.jpg

場所によってさまざまな表情を見せる1階のレストラン。カーテンはオーナーや関係者などのポートレートをプリントしたオリジナルだ。photos:Powl Bowyer

170323-paris-deco-18.jpg170323-paris-deco-19.jpg

提携している農協からの新鮮な素材を使用するレストラン。ピザにはイタリアから届くホテル特製のビオの小麦粉を使っている。photos:Mariko OMURA

レストラン専用のテラス席の脇には、プランターが並んでいる。ここではピザ用ハーブを育てているのだが、このホテルでは野菜畑があることも話題のひとつなのだ。屋上に10の大きなプランターが並んでいて、それらはレストラン用ではなく、サントゥアン住民“レズゥードニアン”のためのもの。希望者の中からくじ引きで選ばれた10名が、自分の畑としてプランターを1年利用でき、園芸コーチのアドバイスも受けられるそうだ。もうひとつの屋上は貸切専用のルーフトップ。バーベキューも楽しめ、仲間たちのちょっとしたパーティに最適、というスペースである。

170323-paris-deco-20-21.jpg

左:屋上には、サントゥアンの住民が耕す野菜畑が並ぶ。右:エピスリィではサントゥアンで作られる竹の自転車を展示し、地元の産業に貢献。

モブ・ホテルの1軒目が蚤の市の近くなら、5月にできるリヨンでは再開発計画が進む博物館とショッピングセンターのあるコンフリュアンスに。そして、来年はアメリカに進出して、ピッツバーグは市場のあるストリップ・ディストリクト、ワシントンはユニオンマーケット、LAはチャイナタウン……というように、大衆性の高い場所を選んで数を増やしてゆく予定。LAはフィリップ・スタルクがデザインを担当するそうだ。モブ・ホテルのオーナーは哲学者、ヒューマニストとして知られ、スタルクと組んでホテル・ママ・シェルターを仕掛けたシリル・アウィゼラット。彼のモブ・ホテルが起爆剤となって、サントゥアンが果たしてブルックリンのような町に発展するか……。楽しみに見守ろう。

170323-paris-deco-22-23.jpg

左:チベットを意識したホテルのエントランス。photo:Powl Bowyer
右:外観は周囲の家々と馴染むようにレンガで。photo:Mariko OMURA

Mob Hotel
6, rue Gambetta
93400 St Ouen
www.mobhotel.com/paris

 

大村真理子 Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。
Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories