汚れも傷も美しい。好き!が詰まったファミリーライフ。

PARIS DECO 2020.01.08

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Reina Takiguchi
レイナ・タキグチ
クチュールメゾンのプレス部門勤務

パリ10区、毎週のように新しいレストランがオープンする界隈。レイナと夫のオーレリアンは125㎡のアパルトマンに数年前に越してきた。いまは家族も増え、4歳の長男と2歳の長女の一家4人の暮らしである。あ、そして愛犬のポメラニアンも。

「最近はボボたちに人気の場所だけど、私たちは予算と広さに応じて納得のできるアパルトマンがここだっただけで、引っ越し先を探す時に特にこの界隈にこだわったわけじゃないのよ。10年くらい前は治安が悪い界隈だったけど、いまはそんな時代の面影もなく、ここの暮らしには満足してるわ」

アパルトマンに入るや、建物の端から端を貫く広いスペースに圧倒される。右がリビングスペース、左がオープンキッチンのダイニングスペースだ。中央には大きな木のテーブルが置かれ、大勢が集まった時にこの周囲で和やかな時間が流れるそうだ。

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夫オーレリアンの父が若い時に購入した木のテーブル。長いこと庭に放置されていたのを、このアパルトマンで引き取ることに。オーレリアンの家族は全員が大柄なためテーブルの脚が継ぎ足され、普通のテーブルより少し高くなっている。奥に見える白い空間がリビングスペース。

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オーレリアンの祖父母が使っていた50年代のモジュール家具MD。

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みんなが集まる大テーブルとキッチン。

「住むにあたってアパルトマン全体にわたる大工事をした際に、これだけ広いスペースがあるのだからと、工事する前は別の場所にあったキッチンをここに持ってくることにしたの。以前住んでいたアパルトマンもそうだったけど、オープンキッチンにしたのは友人とか人を招くのに、とっても良いスタイルだからよ。子どもが2人になる前は、毎月最初の日曜にブランチを催していたの。最近はちょっと……。でも、ゲストが多い家であることは変わらないわ」

この家で料理をするのはオーレリアン。イタリア料理が得意で、彼が作るアンチョビ&レモン&ケッパーのリングイーネがレイナのいちばんのお気に入りである。彼女は料理をしないので、彼が作らない時は食のストリートに住む利点を活用し、あれこれテイクアウトで調達するそうだ。料理を一切しないレイナを”モダン・ウーマン”と称するオーレリアン。彼ひとりしか使わないのがなんだか惜しいような、見事なオーブンがキッチンに備えられているのだが……。

「この場所にはLa Cornue(ラ・コルニュ)のオーブンが要るわ!という私のアイデアに、彼は妥協するしかなかったの。私は料理をしないので馬鹿げてるかもしれないけれど……。学生時代にサンジェルマンのラ・コルニュのショールームの近くに住んでいて、前を通るたびに美しいオーブンを眺めてうっとりしていたの。でも、これを置くには場所が必要でしょ。このアパルトマンに暮らすとなった時に、ついにそのチャンスが出現した、というわけなの」

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アパルトマンの以前の持ち主は山ほどの書籍、絵画などを残したままに。レイナとオーレリアンは工事前に催した”解体パーティ”で本の多くを友人たちにプレゼント。絵画の一点は競売場で高く売れ、おかげでこのキッチンの代金に回せた、というエピソードがある。

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プロの料理人たちも評価する鋳鉄製のラ・コルニュのオーブン。

ふたりで作り上げているアパルトマンのインテリア。幸いにも、同じ趣味なので意見が合うそうだ。

「私たち、古い品が好き。傷や汚れもそのまま、というのがいいの。建物は1834年の建築で、当時のものと思われる天井の周囲に巡らされた刳形(モールディング)も、手入れをせず、そのままにしてある。ふたりともピカピカは嫌いだから、修復されてないのがいいのね。ブロカントとか蚤の市で掘り出しものを探す時も、欠けていたり、傷んだお皿とかをあえて選ぶのよ、私たち。時代の経過が感じられ、その物の歴史が感じられて……」

仕事でキューバに滞在した時にブロカントの存在を耳にしたレイナは足を延ばし、古いお皿やフラコンを持ち帰った。もっともベトナムを一家で旅した時にはインテリア関連の品は何も買わなかったという。というのも、アジアンテイストの品はこのアパルトマンのインテリアには合わないから。

「その代わりパリでは見つけられない香草やソースなどを持ち帰ったんだ」とオーレリアンが付け加えた。彼はタイの演劇で用いられる仮面は、アジアのオブジェの中でも素晴らしいと眺めているそうだ。

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サーカスで使われていた、背に番号のついた椅子を食卓で使用している。中古品売買サイトのBoncoinで購入した。屋根裏部屋で古い品を探す感覚で、ふたりはBoncoinやe-Bayを活用している。

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キューバのブロカントで見つけたガラスを食卓に。

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エントランス。床のタイルは新しいが、時代を経たもののようにあえて古びて見える加工を施した。奥のリビングに置かれたランプが、後に語られるガイ・アウレンティのランプ。

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白い寝室と黒のドレッシングルーム。

部屋ごとに色を変えてペンキを塗るのが、最近のインテリア傾向のひとつ。でもレイナのアパルトマンは広々としたLDKも寝室も壁は白である。

「私たちの最初のアパルトマンは19㎡。そこに3年間住んでいたの。それから、サントノーレ地区に引っ越して……。これまで壁をいつも暗い色に塗っていて、白い壁の家というのはこれが初めてなのよ」

こう語るレイナ。彼女が家の中でいちばん大切にしているのはクジャクの剥製で、これは自分への結婚祝いなのだそうだ。これが飾られているのは夫妻の寝室で、白い壁のスペースではあるがクジャクをはじめ、昆虫や蝶の標本、マトリョーシカ、貝殻、ダチョウの卵……集められたオブジェがキャビネ・ドゥ・キュリオジテ風の雰囲気を作り上げている。

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レイナのお気に入りはクジャクの剥製。その脇にはGoossensによる麦の穂が脚のテーブルが。

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貝殻、昆虫標本などをベッドの脇の棚にディスプレイ。

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ガラス容器にカラフルな貝殻を詰め、オーレリアンはオブジェに仕上げた。

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古い本を束ねて、暖炉下に飾っている。

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ゴミ袋に詰めて汽車で持ち帰ったのは、東の街ストラスブールで見つけたシャンデリア。

隣接のドレッシングルームは一転して、真っ黒の世界。衣類の収納棚の向かい側を宗教画が飾っている。オーレリアンの祖父母が教会のシスターたちを援助する篤志家で、その関係でイコンがレイナ夫妻にも贈られたのだ。

「私は全然信仰深くないのだけど、これら、とっても美しいと思うの。宗教のイコンだけど、私にはフォークロアの絵のように感じられる」

実際、フォークロアのオブジェなどもイコンと一緒に飾られている。どこに何を、といった配置はオーレリアンが”こんな感じ?”と実際に壁に置いてみせ、レイナの了解を得て、という方法。ここに限らず、家の中、こんな感じにインテリアが作られるそうだ。

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壁を真っ黒にペイントし、宗教画を飾ったドレッシングルーム。

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壁の鏡に宗教画が映りこみ、キャビネ・ドゥ・キュリオジテの雰囲気がより強調されている。

ドレッシングルームと子ども部屋に挟まれるように、バスルームがある。機能的にまとめられた、モノクロームの空間だ。洗面台の家具についてはちょっとした物語がある、とレイナが教えてくれた。

「アパルトマンの工事を進めるうち、徐々に予算が減ってゆくでしょ。これ、Flamantの品なのだけど、高価すぎて手が出なかったのね。ところが室内建築家が引退に際して、将来の客のためにストックしていたこの洗面台を手放すことにしたのを、私たち、Boncoinで見つけたの! 定価より安く、たしか配達もしてくれた……この家、定価で買ったものってないのよ(笑)」

リビングルームにガエ・アウレンティの有名なランプ”ピピストレッロ”が置かれている。レイナが初めてのサラリーで、これもバーゲンを利用して購入したもの。ボリュームの見事なランプでいまの広いアパルトマンにはぴったりだが、購入は小さな19㎡のアパルトマンに暮らしていた時代のことだという。趣味に合わない品は一切置かず、お金を可能な限りかけずに自分たちの気に入った品を入手する努力をするふたり。その工程も楽しんで暮らす様子が微笑ましい。

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理想の洗面台を備えたバスルーム。

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子どもたちとの暮らし。

長男と長女の部屋は天井から複数の地球儀がぶら下がり、小さなペナントを繋げたロープが四方に巡らされてちょっとサーカス小屋のよう。壁を動物の絵が飾り、棚にもぬいぐるみやオブジェなど動物ものがいっぱいで、ここで眠るおチビさんが羨ましくなる愛らしさだ。動物のポストカードなどはレイナがNYで買い求めたもので、子どもが生まれるよりずっと以前のことだという。典型的なアールデコ・スタイルの鳩の置物も、彼女がBoncoinで見つけたのだが、オーレリアンは“きれいじゃない!”と好んでいない。

「妊娠中、頭の中で子ども部屋のインテリアについて理想を描いて、何の脈絡もなしに壊れやすいとか考えもせずに、あれこれ買い物を始めたの。60年代の品とかアンティークとか、真っ白なマルジェラのマトリョーシカとか……子どもには楽しくもないわね。すぐに理想は現実に取って代わられ、カラフルで頑丈な品が増えているわ」

子ども部屋に動物というインテリアは彼女が始めたことだけれど、オーレリアンは子どもたちが動物に向ける意識という点でそれを歓迎している。彼は食事の際に、肉料理の日にはそれがどこから来たのか、を子どもたちに説明するそうだ。単においしいまずい、というだけでなく、将来についての意識を持つようにと。

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子どもの隣に座って、なだめたり、励ましたりする時にとても良いサイズ!と、レイナは長男のために仮置きしたゲスト用の大人ベッドをそのまま使用している。

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母になる日を待ちながら、子ども部屋のために動物のオブジェなどを買い集めたレイナ。

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子ども部屋の動物の額。シリーズで飾るのがオーレリアン流だ。 

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レイナの友人で、1区のテレーズ通り3番地にブティックを持つAlexia Hollingerが子どもそれぞれの名前入りのキルトを作ってくれた。

「一家揃っての団欒はダイニングテーブルでするけど、ゲストがいる時は子どもたちはリビングコーナーへ。有益あるいは興味深いドキュメンタリー映画をここで見せるようにしているの。そしてアニメーションフィルムも。これはうちでは当たり前のことでしょ ! でも何でもかんでもじゃないわ」

とレイナが語るのは、オーレリアンがアニメのクリエイターだからだ。アパルトマンは入口の右側に生活スペースがあり、左側が彼のアトリエという造り。週に2日彼はここで作業をする。子どもたちに見せる作品をメディアセンターに探しに行くのも、彼の役目である。

「これまで子どもたちが気に入ったのは『王と鳥』。ポール・グリモー監督のポエジーあふれる作品で、宮崎駿や高畑勲がすごく影響を受けたんだ。もとは1950年代に作られ、それが80年代に作り直されたもの。子どもたちには”ミヤザキ”のフィルムも見せますよ」 

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子どもたちはここで親が選んだアニメやドキュメンタリー映画を観る。

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サロンの隅に置かれたアーケード・ゲーム機は、オーレリアンの30歳の誕生日のプレゼントで日本から船便でパリに届けたそうだ。100円硬貨で遊んでいる。ソファでスヤスヤしているのは愛犬のプティ・リュ。

子どもが2人になってから、週末はあまり外出をしなくなった。というのも犬も必ず一緒なので、レストランに行くにしても店選びや事前のオーガナイズをしないと、と厄介なのだ。というわけで、リビングコーナーのソファは子どもたちが多く時間を過ごす場所である。

いまのアパルトマンに満足しているレイナが、ひとつだけ絶対に変えたいと思っているのが、そのソファなのだ。従って、新しいソファを買うのは、彼らがもう少し大きくなるのを待つことに。さて、どんなタイプのソファを夢見ているのだろうか。

「Flamant社のエディンバラという名のチェスターフィールド!! 大きな茶色の革張りで、ヴィンテージっぽく革が古い味わいなのよ」

ふたりのことだ。いつかエディンバラを家に迎え入れるに違いない。寝室の壁にリトグラフィーがあれば、と思っているのはオーレリアン。お気に入りのミュシャのリトグラフィーを彼が壁に掛ける日も、いつか訪れるだろうか……。

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アニメのクリエイター、オーレリアン。週に2日は自宅内のアトリエで仕事を進める。

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
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