JM オトニエルの花咲くプティ・パレ、ディオールのカルチャー ガーデン。

PARIS DECO 2021.10.23

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左:  ジャン=ミシェル・オトニエル。 右: 1900年の建築物と彼の作品が対話する。photos:(左)Claire Dorn/Courtesy of the Artiste & Perrotin©️Jean-Michel Othoniel / Adagp, Paris 2021、(右)Mariko Omura

ブルー・リバー

いま、プティ・パレの前を通ると、ゴールドに輝く見事な鉄門扉をいただく正面階段をきらきらと輝き流れ落ちる青い滝に驚かされる。これは来年1月2日まで開催されている、ジャン=ミシェル・オトニエルの『ナルキッソスの定理』展の導入部。展覧会のために設けられたインスタレーション『La Rivière Bleue』(2021年)だ。このガラスのレンガを並べた滝の脇道をたどってエントランスへと向かうところから、展覧会へと足を踏み入れることになる。プティ・パレでは現在ロシアの画家『イリヤ・レピーヌ』展が有料で開催されているが、無料で鑑賞できる常設展とこの『ナルキッソスの定理』だけでも十分見ごたえがあるので、時間の余裕をとってゆくのがいいだろう。入館したら、まずは庭へと。

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プティ・パレ前、誰もが撮影せずにはいられない階段を流れるブルー・リバー。photosMariko Omura

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庭園

このタイトルの『The Narcissus Theorem(ナルキッソスの定理)』とは、「自分自身を映し出すことで、周りの世界を映し出す、ひとりの花のような男の物語」とオトニエルは説明。よく知られているように、ナルシシズム、ナルシシストという言葉がギリシャ神話に登場するこのナルキッソスに由来している。池に映る自分の姿に恋をし、死後水仙の花に姿を変える美青年だ。プティ・パレは1900年の世界万博のためにグラン・パレ同様シャルル・ジローが建築した建物。半月型の庭園があり、アカンサスやシュロといった南国を思わせる植物が生い茂りジャングルのよう。ここでオトニエルが庭園との対話から生み出した詩情豊かな合計26点の彫刻作品を見ることができる。天井のフレスコ画と床のカラフルなモザイクで有名な、庭に沿ってカーブを描く柱廊にはイノックス素材のシルバーのパールを繋げた巨大な結び目の作品が6点。パールのひと粒ずつに周囲の光景が映り込んでいる。庭では木の枝の随所にゴールドのプレシャスネックレスが掛けられ、ブルーのモザイクが周囲を縁取る池にはゴールドのハスの花が浮かぶ……という構成。花が水面に姿を映し込むさまが、ナルキッソスの物語を彷彿させる。この展覧会のために韓国の画廊から運ばれたのは、2015年にオトニエルが制作した『Gold Lotus』。プティ・パレの建物に入った時に庭に目を向けると、ガラス越しにゴールドに輝くその姿が目に飛び込んでくるはずだ。

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ソウルのKukje Galleryから展覧会のために取り寄せたという『ゴールド・ロータス』(2015年)。つぼみ、半開き、満開と見る角度を変えることで花の一生を共にできる。photos(左)Mariko Omura、(右)Claire Dorn/Courtesy of the Artiste & Perrotin ©️Jean-Michel Othoniel / Adagp, Paris 2021

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プティ・パレの庭園内、ブルーのモザイクに囲まれた池に浮かぶ蓮の花。メタルに金箔という素材で、ナルキッソスのごとく水にその姿を映している。池の周囲を歩くと、ゴールドパールのネックレスが木々の間に見え隠れする。photosMariko Omura

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回廊に展示されている作品は巨大なガラスのパールを繋げた結び目、ネックレス。パールのひと粒ずつが周囲を写し込む。天井、床、そしてガラス越しの美術館内部とあわせて鑑賞を。庭園内のカフェレストランにはテラス席もあるので、庭を眺めながらのランチタイムも。営業は10時~L.O. 17時15分(金 10時~L.O. 20時15分)。

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夜の冠

さてオトニエルの作品鑑賞は庭園だけでは終わらない。次は常設展を抜けて、螺旋階段の天井に吊るされた巨大なシャンデリアの『La Couronne de la Nuit(夜の冠)』(2008年)を目指そう。2008年にオランダの森の中で発表されたこの作品。建物の反対側にある螺旋階段の丸天井はモーリス・ドゥのフレスコ画『フランス芸術の歴史』が覆っているが、こちらの天井は予算の都合で白く残されたままだったという。そこに吊るされた『夜の冠』はこの『ナルキッソスの定理』展をきっかけにプティ・パレの所蔵品入りし、常設作品に。オトニエルと彼のギャラリストのPerrotinからの、とても素晴らしい贈り物である。

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螺旋階段に吊るされた『La Couronne de la Nuit(夜の冠)』(2008年)。濃いブルーはモーツァルトの『魔笛』のヒロインである夜の女王の色。中央のふたつの赤いハートはロマンティシズムのシンボル、大きなミラーボールには取り囲む周囲がすべて映り込む無限の世界だ。

なお、ここに向かう途中、常設展内でギュスターヴ・クールベの『Le Sommeil(眠り)』(1866年)の前で足を止めてほしい。この作品は向かいの壁に開いた窓の前の回廊に置かれたシルバーの結びの作品と、横たわる裸婦の大理石像『Bacchante(バッカス神の巫女)』をはさんで、対峙するように計算されているのだ。『眠り』の中のベッドに投げ出された大粒の真珠のネックレスが、窓の外に設置されたシルバーのパールに呼応している。

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常設展のギュスターヴ・クールベ『眠り』と向かいの窓の外の結びの彫刻。

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ナルシスの洞窟

次は螺旋階段で、複数の空間で46作品を展示する『la Grotte de Narcisses』へ降りよう。真実に近づくことの難しさを語るプラトンの洞窟の比喩を思わせるイノックスのレンガが作り上げる洞窟『Agora』(2019年)が中央に置かれている。ここには実際に入って、ベンチで外界から遮断されたひと時を過ごすことができる。その周囲の壁に掛けられた色ガラスの複数のタブローはそれぞれ色が異なり、ライティング効果でまるで炎のような光を上下にめらめらと。これらはオトニエルが2020年に家から出られない外出制限期間中、アメリカの1960年代のアメリカのミニマリスト・アーティストたちの作品にインスパイアされて制作されたそうだ。

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中のベンチで瞑想できる洞窟『Agora』とガラスレンガのタブロー。photosMariko Omura

その次の空間は床に青いガラスレンガが敷き詰められている。この静かで内省の場である青い湖の上に浮かぶのは、さまざまな色の『Noeuds Sauvages(自然にできた結び目)』。さらに次の空間では、ガラスのパールの牡丹が台の上に鎮座し花を咲かせている。壁を飾るのは、その牡丹の花のフォルムにインスパイアされた結び目が白金箔のベースに黒インクで描かれた作品群……ロマンティックで幻想的な展覧会の締めくくりは、19世紀に制作されたケースの中の小さなヴァイオレット色の彫刻『Kiku』(2021年)だ。その名の通り菊の花にインスパイアされた作品である。昨年秋に東京のペロタン・ギャラリーで開催された『夢路』で発表された作品を思い出す人もいることだろう。

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青い湖の上に、日本文化に触発されたという結び目の作品。photoMariko Omura  

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牡丹の花が咲く空間。その先には、日本の古典文化における菊の花の象徴的意味からインスパイアーされたという『Kiku』が、19世紀のケースに収められている。

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ディオール カルチャー ガーデン

2013年から、プティ・パレでは秋にコンテンポラリーアーティストの作品を迎えていて、今年はオトニエルに白羽の矢がたったのだ。パリで彼の作品がまとまって見られる機会は、10年前のポンピドゥー・センターにおける『My Way』展以来のことという。花々にインスパイアされて、植物が生い茂るプティ・パレに彫刻作品を展示したオトニエルの『ナルキッソスの定理』を後援しているのは、アートと自然とのサステイナブルな対話を根底に置いて「ディオール カルチャー ガーデン」というイニシアティブを立ち上げたパルファン・クリスチャン・ディオール。花や庭園への愛はメゾンの歴史から切り離すことはできず、メゾンのクチュールもフレグランスも、このインスピレーションに満ちた愛によって培われているのである。

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その昔、地下鉄の入り口をギマールのアールヌーヴォー作品が飾っていたように、パレ・ロワイヤルの地下鉄駅を飾る『Le Kiosque des noctambules』。ヴェネチアのムラノ島で造られる色ガラスのパールを1993年から彼は作品に使用している。photosMariko Omura

さてプティ・パレを出たら地下鉄1号線でパレ・ロワイヤルまで、オトニエルの名前を世界的に広めた『Le Kiosque des noctambules 』を見に行ってみるのもいいだろう。コメディ・フランセーズに面したコレット広場、地下鉄7号線の入り口を200年から飾るこの作品はムラノの吹きガラスのパールを素材にした、初期のものだ。設置されてから毎日、昼も夜もカラフルでポジティブなポエジーをパリに放ち続けている。

『Le Théorème de Narcisse/Jean-Michel Othoniel』展
会期:開催中~2022年1月2日
Petit Palais
Avenue Winton Churchill
75008 Paris
営)10:00~18:00(金 10:00~21:00)
無料
www.petitpalais.fr

editing: Mariko Omura

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