2021年も終わりに近づいているが、「今年はフランス史上最高にマンガが売れた」という報道が仏各紙で相次いだ。でもじつは2020年だって、「フランス史上最高にマンガが売れた年」だと報道されていた。2020年は記録的にマンガが売れたというのに、2021年の売上はさらに前年比で約2倍になっているというのだ。計り知れない。

10月6日から10日まで、フランス国立図書館の一面には、ジャンプ+で連載されている松本直也さんの『怪獣8号』が建物一面にどーんと現れ、日本でもニュースになった。フランス国立図書館というのは、つまり……国立ということである。パリ左岸セーヌ川沿いにあり、高さは約45メートルだ。
 


巨大だ。

これは仏語版の『怪獣8号』第1巻発売に際し仕掛けられたキャンペーンで、出版社側としてはいろんな意味で「最大の」キャンペーンだと銘打っていた。こんなドでかいキャンペーンをパリの真ん中で張るのはずいぶん勇気のいることだと思うが、そこを突破できるほど近年フランスでマンガの売れ行きはすごい。

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しかし喜ぶ声に交じって、こんな意見も見た。

「いい作品なのだと思うけど、マンガとパリの街は合わない」

そう感じる人がいるのは決して不思議なことではないと思う。もしあなたがパリの街を愛していて、その魅力をサクレクール寺院やオルセー美術館、ふと迷い込むパッサージュに感じているとしたらなおさら共感されることだろう。

友人のフランス人男性Jも大の日本びいきで溝口健二の信奉者だが、この件に関してはとても否定的だ。ただ彼については未だにスタバもマクドも受け入れていないし、モンパルナスタワーの名を出すと顔をしかめて激しく首を振る。エッフェル塔でさえ「うう~ん……」と唸って寡黙になる。

そう、エッフェル塔だ。

エッフェル塔は現代でこそパリの象徴だし、パリがテーマのイラストには必ずと言っていいほど描かれる。スーパーモノプリもエッフェル塔柄のエコバックを売っているし、1月にパン屋でガレットを買って食べるとエッフェル塔を象ったフェーブが出てくることもある。

しかし、いまでは観光コースには外せないエッフェル塔も、建設にあたり多くのフランス人による拒絶反応を喰らったのは有名な話だ。1887年に芸術家たちが連名で出した陳述書では「無駄だし醜い」「めまいがするほど馬鹿げた塔」などと、ちょっとそこまで言わなくてもと思うほどけちょんけちょんに言われたい放題であった。

もちろん個人の感想に過ぎないが、エッフェル塔を訪れ眺めてみると、私はいつも醜いどころか率直に「きれい」と感じる。こんなに近づいても近づいても失望しない鉄製の塔はほかに見たことがない。近づけば近づくほど鉄製だということを忘れそうなほど可憐で華奢な線がそこにある。友人Jには怒られそうだが、21世紀に外国人の私が見るエッフェル塔は、パリの街と調和している、と思う。

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さて、話はマンガに戻るが、2021年5月にマクロン大統領は、18歳の若者が文化に関わる商品や体験を買うことができる約4万円分のクーポンを配布した。そしてこの「文化パス」で18歳たちが日本のマンガを爆買いしてしまう事態となった。しかしコロナ禍はたしかにマンガの売り上げを伸ばしたようだが、この文化パスによる売り上げについて多くの出版社はただの「ボーナス」に過ぎないといっている。

だがポイントは、18歳の若年層がいまマンガを読んでいるということだ。

そもそもフランスが第2のマンガ消費国になったのは、1978年に子ども番組「クラブドロテ」で日本のアニメが放送されたことがきっかけだった。以前マンガ専門のフランス人ジャーナリストと話した時、フランスのマンガ読者も高齢化が進んで、クラブドロテよりもあとの世代による新陳代謝が必要だと言っていたのだが、文化パスでそれはまったく必要ないことが判明したのだ。

コロナ禍以前、パリ郊外で開催された異文化交流イベントに参加したことがある。その時、同じテーブルに19歳の、パリ13区にあるアニメーションを学べるスクール「ゴブラン」に通う女の子がいた。私がこれまで出会った中でも指折りのシャイな人物だったが、武内直子さんの『美少女戦士セーラームーン』をとても愛していることを小さな声でゆっくり語ってくれた。

彼女は学友たちとセーラームーンのイラストや考察文などをまとめた同人誌のような冊子を作っていて、それを見せてもらったのだが、その装丁といい、レイアウトといい、各々が描いたセーラー戦士たちのイラストといい、「学生なんですか?」と聞き返したくなるほど美しく、書店に並んでいてもよさそうなものに見えて、私は単純にびっくりしてしまった。

そこには偏愛があり、新しい解釈があった。ただ新しい世代というだけではなく、日本とは遠く離れた土地で生まれ育った人、その文化の中で『美少女戦士セーラームーン』を発見し、のめりこんだ人による解釈だった。

時間がものごとをどう変化させるのか誰にもわからない。いつかパリの街とマンガがぴったり調和する日がくるかもしれない。そうだとすればその調和はどんな様子なのか、ぜひ見てみたいと思う。

text: Shiro

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