ストイックすぎるからこそ美しい、シオタの服。


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「シオタのデザインは引き算で、モノづくり(製造)は“足し算”なんです。この足し算の部分が他のアパレルとのいちばんの違いです」

デザイナーの荒澤正和さんはそう話し出す。

「なぜならシオタがやる事は、価値(=value)がある服を作ることだから。最高の糸を手に入れる。それを活かす最高の生地を作りあげる。その生地をいちばんに活かすデザインを考えて、ボタンなどの付属品のすべてにおいて、いちばんいいなと思うものを調達し、縫って一枚の服に仕上げる。“いいモノを作る”ことだけを追求すると、糸代、織り代、付属代、縫製代……がプラスに積み重なっていって、結果この値段になるんです。シオタの服は決して安くはありません。ただ、モノのクオリティと値段のバランスを考えると圧倒的にこの価格が破格であるのは、触ってもらうと、着てもらうとわかるかと思います」

一般的にアパレルの製造(モノづくり)は引き算で物を作る。まず販売価格(売れる価格)を設定し、それに従い原価率(おおよそ25%前後)を割り出し、その予算のなかでモノを作る。生地の設定、付属品のチョイス……。予算という天井があるなかでは、デザイナーはモノづくりに拘りたいけど妥協を余儀なくされざるをえないし、おまけに会社という組織のなかでの忖度も加味してモノを作るとなると、最初にデザインしていたモノとはまったく異なる仕上がりになる。

「イギリスに“5人が机を囲んで馬をデザインしようとするとラクダが出来上がる”ということわざがあるんですが、僕はこれがアパレルメーカーのモノづくりを象徴した言葉だと思う。こういうモノづくりにはもう限界があると常々感じていて。それで以前から取引があった岡山の縫製工場及び生地製造販売会社であるSHIOTAの社長に声をかけて、一緒にブランドをつくろうと声をかけたことからCIOTAは始まりました」

「値段とクオリティのバランスにおいての、最高品質のプロダクトづくり」。20年以上アパレルに携わり、川上から川下までファッション業界の服づくりのすべてを見てきた人が、最後のキャリアにやりたかったことがこれだった。

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いまシオタは、ネクスト・コモリとかネクスト・オーラリーといわれてる。トレンドとか、セレブやインフルエンサーが着てるとかそういうところではなくて、“製品”としての服のクオリティの高さが口コミで広がり、わずか3シーズンで服好きにとってのマストハブなブランドに駆け上がった。

「シオタの強みはファクトリーを持っていること、つまり、原料の選定、生地の製法、デザイン、縫製、製造といった服作りの工程を全部自社で完結できるところなんです。だから、一切妥協せずに服を作ることが可能となります。複数の人や会社が絡んでくるとどうしても意思疎通が難しかったり、大人の事情も絡んだりする。あと単純に必要以上に人件費がかかるし、移動費や交際費など、無駄にコストがかかるんですよ。僕はその経費が一切無駄だと思ってるからなくして、その分製品のクオリティに充当したいし、お客さんに値段で還元したいんです。接待で何万も使ったお金を製品の値段に上乗せされても、レイさんだってイヤでしょう? 僕が作っているのはこういう無駄を一切省いて、本質だけで勝負した服」

シオタのアイテムはデニムにシャツ、スウェット、パーカといった奇をてらわないベーシックなアイテムたち。無味無臭のブランドとも言えるけれど、だからこそ“着る人”その人が主役になる服。

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「価値(=value)ある服を作る、かつ着る人が主役になる服を」

このスタンスって、いま、というかこれからの時代の価値観と併走したものだなぁと思う。

「私はいまこのすごいブランドを着ています、誰より早くトレンドを取り入れています、誰もが持っていないすごいアイテムを持っています」と言うことに価値がなくなってきている。というかクールさが無くなってるのを感じてて。それよりも時代の流れとしてはプロダクトそのもののクオリティがしっかりとしているというところに、クールさや価値を見出しつつある。

つまり「すごい」と感じる価値(=value)の拠りどころが、ブランド“イメージ”ではなくて“プロダクト”そのものになっている。ある種原点回帰というか、本質的な所に目が向き始めている。

かつCOVID-19の影響もあって、トレンドと呼ばれるものが生まれ難い(トレンドがしかけられない)時期においてよりベーシックな服が見直されている時期でもある。そんな状況下で、世の中の人たちの気分にしっかりとはまったのがシオタとも言える。

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ただ、高品質のベーシックなブランドは世の中にいっぱいある。そのなかでどうしてシオタは頭ひとつ抜け出すことができてるんだろう?

「僕らは服を作ることだけが仕事ではなく、“作ること・見せること・伝えること”の3つを大切にしてるんです。服を作って終わり、あとは任せた! みたいな分業制ではなくて、見せ方、伝え方までトータルで考えてるんです。そこが大きいかもしれないですね。そういうこともあって、ファーストシーズンからルックブックのクオリティには拘りました」

実際、シオタのルックブックに関わるクリエイターは見事に一流揃いで、そのクレジットを見ただけでも驚いてしまう。

「決して安くない出費ですけどね」と笑いながら荒澤さんは続ける。

「伝え方、見せ方には人一倍気を使うし、他の人から見たら驚くかもしれないほどのお金をかけてます。そして僕はひとつ決めていることがあって。一流の人、この人はすごいって思う人に任せられたら、僕は何も口出ししないことにしてて。僕はただルックブックが手元に届くのを待つだけです。一流に任せたからこそ口出ししたくないんですよね。それは、自分が相手の立場だったらそう感じると思うから。クライアントという立場ではあれども、あまりその道のプロじゃない人(=自分)に口出しされてクリエイションが変わっちゃうのって、本質的じゃないじゃないですか。それこそ“馬を作ろうとしてラクダができる”ことになるから、絶対やらないと決めてるんです」

信頼するクリエイターにはすべてをゆだねる、ということ。それって自分自身もクリエイターだからこそ、できるんだろうな、と思う。つまりモノを作る人へのリスペクトがあるから、門外漢の自分は口を出さないってその礼儀。そして委ねられた人たちは、そのリスペクトを感じるからこそ最高のコンテンツを作ろうと精一杯に力を出す。結果Win-Winの関係性で物事は進み、それぞれの立場でこのブランドを広めていこうと努力する。だから、とてもよいスパイラルで物事が進んでいくんだろう。

そう話すと、「そうなんです、SHIOTAの社長とも『お互いそれぞれに切磋琢磨して、上っていける関係性でいよう。手は差し伸べないでよ、馴れ合いのずるずるの関係性でやっててもいい物はできないから』って話してるんです」と教えてくれた。

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荒澤さんの仕事のスタンスは、聞いてて気持ちが引き締まる。ベストを尽くし合うことを求められる緊張関係、同時にだからこそのっぴきならない信頼関係が出来上がる。インプルーブし合う関係性は、相手が良い意味でライバルになる。寄りかからない、助け合わないからこそ築くことができるもの。

最高峰のモノを作る人のスタンスは、厳しくて強靱で、なによりとても目の前の相手を、関わる人たちを本質的に思う熱量がある。

 

日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。
石川県出身。早稲田大学卒業。
被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。

毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類い稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。

ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元に TVやラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐にわたる。

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