専門知識がなくてもOK? 変わりゆくアートの楽しみ方。

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私のまわりのお洒落なお兄さんおじさん(注:“お兄さんおじさん”というのは、お兄さんと呼ぶとちょっとお世辞感出ちゃう気もするし、とはいえおじさんと呼ぶにはまだ早い、的な男性を指す)たちはいま、絶賛アートを買うことにハマっている。

これまでスニーカーだったりフィギュアだったりを集めていた彼らがいま、コレクション対象としてハマっているのがアート、とりわけに現代アートだったりするのだ。たとえばそれは、HAROSHIさんやTIDEさんみたいにストリート出身ぽいなと感じさせるやんちゃな感じのものから、野口哲哉さんみたいな若手の美術作家のものまで。

彼らが手に取るアートに共通するのは“気構えがない”こと、だと私は思う。いわゆる“アート”と聞くと大抵頭によぎる小難しさだったり高尚さがなく、その分野に疎い私なんかでも気負いなく観ることができるのだ(いや、もしかしたら壮大なテーマやコンセプトなんかがあるかもだけど……少なくともパッと見で頭のなかに「?」が沸き起こる難解さはない)。

お洒落なお兄さんおじさんを観察しているうちに気がついたことがある。彼らはセレクトショップで好きな服を探して選んで買うあのノリで、アートを選んで買っていたりするのだ。

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あくまで私の肌感覚での印象ですが、と前置きをして「2018年に初めて原宿でアートオークションをやったことはきっかけのひとつになったのかも知れません」と、SBIアートオークションの広報・加賀美 令さんは話す。

「それまでアートオークションでは見られなかったような方々、ファッションだったり音楽だったりが好きな人たちがふらっと見に来てくれて。オークションに参加する人はいままでアート関係者がほとんどだったのですが、一気にファッション業界の人たちも参加してくれるようになりました。私たちとしては意外なアーティストの作品にもビックリするほどの値段がついたり、これまでとは違う盛り上がりを見せるようになったのです。それまでは関係者しか集まらない閉じた世界だったのが、最近は関係者以外の幅広いジャンルの人たちにも観てもらえるようになったのかな、と思います」

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もうひとつ。2018年のSBIアートオークションでは、出展アーティストがファッション業界の人たちにとって馴染みがある人、共通項が多い人だったというのもその理由だろう。スケートボードやグラフィティ、自分たちが若い時代に慣れ親しんだものが作品のモチーフだったり、もしくはグラフィックデザイナーやイラストレーターとして一緒にお仕事をしてた人の作品がわりと多く出品されてた。ファッション業界の人たちはその“共通項”や“近しさ”がきっかけになって、自然な形でアートに目が向いていったのだろう。そして近しさがあるから身構えず、いつもの審美眼―――つまりニットやシャツ、靴やパンツを物色する感覚――――でアートを観て、判断し、選び、買うことができたのだろう。まさにセレクトショップでお買い物する感覚で。

所謂“アート”を観て選ぶところに敷居の高さを感じる理由は、「アートの勉強をしていないと解らないじゃないか」とか「特別な知識教養とノウハウがないと無理なんじゃないか」とか、なんていうかその“ものを知らない引け目”にある。そう感じてたところに、自分の培った審美眼(ファッション業界の人は誰でも自分なりの審美眼をもってる)で選んでいい世界なのだ! とわかったのが出発点になり、ファッション業界の人たち(特にお兄さんおじさん世代)がアートの世界に一気に流れ込み、結果いまのムーブメントに繋がった。

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ところで、お洒落な人のファッションを選ぶ判断基準は、まず①見た目。パッと見のフィーリングが第一であって、圧倒的にそこが選ぶか選ばないかのほとんど司るといってもいい。そのうえで②ディテールやこだわりなんかのクオリティに言及が行って、その後に③ブランドへの愛着だったり、服に込められたコンセプトだったりへの共感がついてくる。この感覚でアートを選ぶのは、既存のアートコレクターのそれとは違う価値基準を提示することになるから、だからこそ2018年のオークションは想定外のサプライズが多く産まれた結果になったのだろう。視点が変わると価値は変わる。その変化がアートマーケットをさらに活性化させて、いまアート業界はマーケットが急拡大して、盛り上がりも加速化してる状況にある。

「あとは、SNSの影響も大きいかな、と。オークションに参加いただいた人たちを紐解くと、最近は、手に入れたものをSNSでアップしてくれてることが多いんですよね。『自分がこういうのが好き、興味がある』ということをアピールして自己表現をするのがSNSの役割なのだと思うんですが、いま、ファッション業界の人にとって、美術作品というのが新しい“お洒落アイテム”になっている気がします。あのアーティストの作品を買った、このクリエイターの作品を手に入れた、というのがひとつのお洒落アピールになっているのかな、と」。加賀美さんはそう付け加える。

まさにそれ! 思わず激しく首肯する。確かに服を買ってSNSにアップするより、アート作品を買ってアップしている方がいまっぽいし、ちょっとインテリジェンスがあってかっこよく感じたりする。キッズのうちは、スニーカー収集もフィギュアコレクションも微笑ましい趣味のひとつとして見られるけど、お兄さんおじさん世代がしてると“キッズの頃からゼロ成長”みたいなイメージになりかねない。若干の大人感、教養感を表現したいときにうってつけだったのが、現代アートをコレクションすることなのだろう。

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お洒落お兄さんおじさんから、新しいお洒落アイテム、おしゃれの嗜みのひとつという方向性で打ち出されたアートはSNSを通じて瞬時にそのフォロワーへと伝播され、いまやマーケットは20〜40代へと広がっている。もちろん昔からアートが好きな人からすれば、表層的なポイントでしか判断しないその見方を「軽薄でけしからん」という人もいるかもしれない。批判的な意見もあるだろう。さまざまな見解を戦わせる過程で、カルチャーというのは発展してく。

東京におけるアートとファッションの重なり合い方、発展の仕方。今後も目が離せない。

日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。
石川県出身。早稲田大学卒業。
被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。

毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類い稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。

ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元に TVやラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐にわたる。

IG : @reishito
TWI : @stylefromtokyo
FB : https://bit.ly/2NJF53r
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