アラフォーで流産を経験、この先子どもを持つべき?
たゆたえども沈まず 島地勝彦人生相談 2021.04.28
フィガロジャポン5月発売号から始まる新連載「たゆたえども沈まず 島地勝彦人生相談」。読者から寄せられた悩みに、かつて『週刊プレイボーイ』を100万部売った“伝説の編集長”島地勝彦が答えます。madame FIGARO.jpでは連載の開始に先立ち、web限定で人生相談を実施しました。第4回目の相談者は、流産を経験し、積極的に子どもを持つべきか悩むようになった女性。さて、シマジ先生の回答は?
Q. 2年半の不妊治療を受けても子どもができず、一旦は子どもを持たない人生を考えていました。「好き勝手に生きられるのも気楽でいいや」と考えていたのですが、急に妊娠が発覚し、その後残念ながら流産してしまいました。一度子どもを授かった後では、「年齢的にもこれが最後のチャンスなのでは」と悩むようになり、かといって、現在の主人とふたりの状況も幸せだと感じています。この先私は、子どもを持つことに積極的になるべきでしょうか?(37歳、会社員)
photo:MIREI SAKAKI
A.まずは相談者の心身の健康をお祈りします。よく言われる「子どもは天からの授かりもの」という言葉は、良い意味でも、悪い意味でも真実を捉えています。「これが最後のチャンスだったのかも」などと思い悩むことはありません。どんな状況におかれても、「人生は失望するなかれ」です。ご主人と愛し合っているあなたにもまた、お子さんが授かるかもしれません。高齢出産に備えるならば、人脈を尽くして名医を探しておくべきでしょう。しかし、子どもが生まれたからと言って、必ずしも幸せになれるとは限りません。
ご主人と二人の状況が幸せだ、という相談者の状況は、ものすごく稀有で、幸せなことです。一般的には、一つ屋根の下での暮らしが長引くにつけ、夫婦生活というものは、なかなか上手くいかなくなるものです。「子どもを持たなければ」と決めつけず、幸せだと感じているご主人との二人だけの時間を、目いっぱい愉しむというのも考え方のひとつではないでしょうか。ただし、先ほど申し上げた通り、いくら愛し合っているとはいえ、衝突することや分かり合えないことも出てきます。私の55年という長い結婚生活を振り返ると、もともと他人だった二人が共同生活を続けるコツは「愛ある無関心」を心がけることです。ご主人とは別に自分自身の趣味を持ち、お互いが好きなことに没頭する時間を設けましょう。愛し合っているからこそ、自分のベッドや寝室を持ち、好きな事をして、好きな時間に寝て、好きな時間に起きる。これは案外、お互いを尊重し合うカップルにしかできないことなのです。
そうしてお互いの時間を愉しむ術を知った二人が、一緒に時間を有意義に過ごすには、海外へ旅行し、知らない土地で刺激を受けるのがいちばん面白いことでしょう。しかし、それもなかなか難しいご時世です。ただ、芸術に触れたり、読んだ本を紹介し合ったり、家で映画を鑑賞したりと、未知の世界を愉しむ術はいくらでもあります。いくつになっても、飽きないものは勉強なのです。二人でとことん、あらゆる世界を学んでください。相談者がどのような職業に就いているかは存じませんが、あなたが習い覚えた物事は、必ず相談者の血肉となってあなたの仕事、人生に役立ち、それが社会に多大なる影響を与えることになるでしょう。
不慮の事故に遭ったにも等しい相談者に、私が感動したイギリスの名門、イートン校に掲げられた標語を捧げます。
1941年生まれ。『週刊プレイボーイ』編集者として直木賞作家の柴田錬三郎、今東光の人生相談の担当者に。82年に同誌編集長に就任、開高健など人気作家の人生相談を企画、実施。2008年からフリーエッセイスト&バーマンとして活躍。現在は西麻布『Authentic Bar Salon de Shimaji』でバーカウンターに立ち、ファンを迎えている。