人格を全否定してくる母親、縁を切ってしまうのは薄情でしょうか?

読者から寄せられた悩みに、かつて『週刊プレイボーイ』を100万部売った“伝説の編集長”島地勝彦が答えます。

Q.無理解な母親、 縁を切っていい?

子どもの頃から母に否定され続け、恨みに近い感情がありました。 私も大人になり、母が老いてきたのを感じ、昔のことは自分の中で折り合いを付けて過ごしてきました。しかし、私が離婚した後、再婚を考えていると伝えた時、理解を示さない母と口論になり、母はまた私の人格を否定してきました。この時、母への怒りが再燃し、以降お互い連絡を取らない状況が続いています。このまま連絡を取らず縁を切ってしまいたいと思う日もあれば、ひとり歳を取っていく母がかわいそうだと感じる瞬間もあります。どのように折り合いを付けるべきなのでしょうか。(旅行代理店勤務/ 41歳)

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photo:fizkes_iStock

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A.『ティファニーで朝食を』の悲劇を知っていますか?

古くから「骨肉の争い」という言葉があるとおり、たとえ身内でもわかり合えないことはあるものです。自分の人格を否定する人間とは縁を切る、これは決して悪いことではありません。しかし、肉親の情から身動きが取れなくなってしまう相談者の心境もわかります。相談者と同じように悩んだのが作家のトルーマン・カポーティです。彼は幼い頃、上流階級に憧れた母親に田舎に置き去りにされました。さらに、カポーティが同性愛者であることがわかると母は彼を拒絶し、親子関係は分断。カポーティが作家として名を成した頃、母親は放蕩が祟って破産し、自殺に追い込まれてしまいました。自分を捨てた母ではありましたが、何もしてあげられなかったことにカポーティは苦悩します。上流階級を闊歩する田舎娘に巻き起こる悲喜劇を描いた彼の代表作『ティファニーで朝食を』には、亡き母に対するカポーティの複雑な想いが隠されているのです。

さて、相談者が取るべき道は二つあるように思います。一つは、自分を否定する母親とは金輪際会わないと宣言し、赤の他人よりも遠い存在となること。もう一つは、年長者のお母様を立てて、あなたから謝って関係を平穏な状態まで修復すること。どちらを選ぶにしても、決断は困難を極めることでしょう。

そこで、相談者には相手に手紙を書くことを勧めます。かつてお 母様から受けた仕打ちの何が嫌だったのか、いま自分はどのような気持ちでいるのか。カポーティが過去に向き合い自伝的な小説を書いていったように、あなたも自分自身の気持ちと向き合い、冷静に自分の気持ちを確かめましょう。文章を書くことによって、混沌とした気持ちを目に見える形にしていくのは大切なことです。自分の思いを客観視することができ、また手紙を書いている中で忘れていた記憶が蘇ってきたりするものです。面と向き合って言い辛かったことや、口論の中で思いが伝わらなかったことなどもあるかもしれません。自分の気持ちを、素直な心に従って紙面に綴っていってください。

その手紙への返事次第で、相談者は対応を決めてはいかがでしょう。手紙への返事がない、もしくは無理解が続くようであれば縁を切る。お母様と話ができそうならば、関係を続ける。さまざまなことがスピーディに進んでしまう世の中ですが、時が解決してくれる場合もあります。時間をかけ、まずは自分の心が伝わると思うまで手紙を推敲してみてください。

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*「フィガロジャポン」2021年11月号より抜粋

1941年生まれ。『週刊プレイボーイ』編集者として直木賞作家の柴田錬三郎、今東光の人生相談の担当者に。82年に同誌編集長に就任、開高健など人気作家の人生相談を企画、実施。2008年からフリーエッセイスト&バーマンとして活躍。現在は西麻布『Authentic Bar Salon de Shimaji』でバーカウンターに立ち、ファンを迎えている。

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