『零落』を巡って。浅野いにおと竹中直人の在り方を齊藤工が撮る。

映画監督やフォトグラファーとして作品を堪能し、解釈し、表現するクリエイター・齊藤工が、今回、フィガロジャポン本誌 & madameFIGARO.jpの連載「齊藤工 活動寫眞館」でカメラを向けた被写体は......主演俳優・斎藤工として関わった映画『零落』の原作者・浅野いにおと監督・竹中直人。「『零落』は浅野作品のなかでも特別な位置づけにある」と齊藤が語るその理由とは? 監督と原作者のモノクロポートレート撮影を通して見えてきたものとは?
紐解いていく。

原作漫画も映画化も大ヒットした『ソラニン』を発表して11年後。人気漫画家としてカリスマ的な存在感を放っていた浅野いにおが、自らの人生を投影しながら起こした作品が『零落』だ。

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公式コメントで齊藤は、「『零落』は、浅野いにおさん自身の根幹部分に最も近づいているように思えます。浅野作品が、何故こうまでも内臓に響くのか。その理由になるような"苦しみの原動力"が赤裸々に描かれています」と綴っている。

齊藤が演じるのは、浅野いにおを投影したと思われる主人公の漫画家・深澤薫。笑顔もなく、厭世的で、自身の中に在る虚無感を持て余しながらも、居場所を変えることのできないヒリヒリとした人間像だ。演じてみてどう感じたのか?
「ずっと苦しかった。撮影期間、それを維持できて初めて、深澤、すなわちいにおさんに、歩み寄れた気がします」

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竹中直人、浅野いにおとも2021年12月、映画『零落』の現場にてポートレートを撮影。

主人公を演じた齊藤に対し、漫画『零落』に衝撃を受け、インスパイアされ、運命的にメガホンを握ったのが竹中直人だ。本作は監督として取り組む10本目。演者として優れていることはもちろん、『無能の人』から始まり、撮る側となっても人間の性を描く作家として注目される竹中。ある書店で『零落』と出合った。
「とある日、本屋さんに立ち寄るとひとりの少女に出会った。
その少女はじっとこちらを見つめてる。その少女をそっと手に取った。
少女から目を逸らすと《零落》という文字が浮かび上がった。
『れ・い・ら・く』 その言葉が思わず口を衝いて出る。
そして...原作がなんと【浅野いにお】! その文字に脳が震える!
一枚、一枚ゆっくりとページをめくってゆく...
どれくらいの時間が経ったのか最後のページを閉じた時、
『...映画にしたい...!《零落》を絶対に映画にしたい!』
と心が叫んでいた。
浅野いにおが描いた《零落》を絶対に映画にする!
それだけの思いでぼくは一気に走り出した!うおー!!!」
(映画『零落』 竹中直人 公式発表コメント)

書店に佇む竹中直人の姿が目に浮かぶような臨場感のある言葉だが、いかに激しく心が囚われたか、がわかる。

齊藤は、いままでも数々の作品やプロジェクトで竹中とタッグを組んでいるが、
「竹中さんが《零落》を映像化したいと思われた時点で、このプロジェクトは何かひとつ"到達"しているんだと思います。そこから、丁寧に、大切に、映画と人間に向き合われた竹中監督。『この場面では最低な顔をして下さい』と言われたことが忘れられないです。これぞ映画です」

浅野いにお、竹中直人、齊藤工。作品づくりを生業とする3人の男性たちが表現するのは――創造することでいかに多大なエネルギーが失われていくか/喝采を浴びることでいかに良い方向悪い方向含めて心のバランスに揺らぎが生じるか/それでも生きて存在する実感は創ることからしか得られない――ということ。それらを観客たちが体感できる作品が『零落』だ。
ぜひ、自分対作品密度が濃い、劇場の暗闇の中で観てほしい。

浅野いにお/INIO ASANO
1980年生まれ、茨城県出身。1998年に漫画家としてデビュー。代表作に『虹ヶ原ホログラフ』(2003~05年)、『おやすみプンプン』(07~13年)などがあり、『ソラニン』(05~06年)や『うみべの女の子』(09~13年)は実写映画化もされた。また『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(14~22年)で第66回小学館漫画賞の一般向け部門と、第25回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門・優秀賞を受賞。同作はアニメ化も決定している。
 
竹中直人/NAOTO TAKENAKA
1956年生まれ、神奈川県出身。1983年のデビュー以来ドラマや舞台、映画など多数の作品に出演し、96年にNHK大河ドラマ「秀吉」で主演。『シコふんじゃった。』(92年)をはじめ、3度日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。映画監督としても活動し、主演も務めた初監督作『無能の人』(91年)はヴェネツィア国際映画祭で国際批評家連盟賞受賞。そのほかの監督作に『東京日和』(97年)、『連弾』(2001年)、『サヨナラCOLOR』(05年)、『山形スクリーム』(09年)、『ゾッキ』(21年)など。10作目となる『零落』(22年)が2023年3月17日に公開。
『零落』
●監督/⽵中直⼈
●出演/斎藤⼯、趣⾥、MEGUMIほか
●原作/浅野いにお「零落」(⼩学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
●配給/⽇活、ハピネットファントム・スタジオ
●2023年3月17日より、テアトル新宿ほか、全国にて公開
©2023 浅野いにお・⼩学館/「零落」製作委員会
happinet-phantom.com/reiraku/

TAKUMI SAITOH

ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi

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