転職と天職 金融界から美容へ。ビオの「アマルテア」を設立したマリル。

Maryll Beaux(マリル・ボー)はブランド「Amalthéa(アマルテア)」の商品販売開始と同時にマレ地区にブティックをオープンした。アマルテアはシンプル、安全、オーガニックをうたうコスメティックブランドである。彼女はフランスでも指折りのビジネススクールの出身。長年ファイナンスの世界で働き、30歳を期に無縁だった美容界での冒険に乗り出したのだ。

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アマルテア創業者、Maryll Beaux(マリル・ボー)。現在33歳。

「このグランゼコール(高等専門大学)に入る前に、準備のための予科が2年間ありました。文学、哲学、数学のどれも同じように得意だった私にとって、数学と同時に文化一般も学べたのでとてもよい2年間だった。ビジネススクールは卒業後に何をしたいかアイデアがまったくなく途方にくれていた私の視野を広げ、目の前にたくさんの扉を開いてくれるという感じ……頭の中であれこれ考えずに済む場所に連れていってくれて、おかげで前進することができたんですね。ここで3年学び、最後の1年は企業での実地研修。研修の受け入れ先を見つけるのって、けっこう大変なんですよ。クチュールメゾンのブティックでの販売職を選びました。 女性の価値を高めたいという夢があり、この世界に親しみを感じたので……」

リュクスなプレタポルテを女性相手に販売する。この仕事で客たちとコンタクトすることが、とても気に入った。女性たちの価値を引き出すことで、自信を与えられることを楽しんだ。ところが、ブランドの考え方も含めその裏に広がる世界がマリルはまったく好きになれず……。

「ここには長くいられないわ‼となって。数学に強いこともあり、次の研修先として金融界に向かうことにしました。株の売買など、香港の銀行で企業が相手の仕事。ここで働く間、中国にも旅をするなどよい時間を過ごしました。卒業後、2011年に就職したのも金融関連の会社で、チームにも恵まれて多くのことを学べて順調だった。でも、仕事が気に入っていた、というわけではありません」

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30歳、後戻りはしない!

その後同じ業界で会社を2つ変わって、最終的に8年間金融の仕事に従事したマリル。年を重ねるごとに、この業界に留まっていることが難しく感じられるようになった。自分が身を置く世界と自分自身との間に、大きなズレを感じるようになっていたのだ。

「なぜ私はここにいるんだろう、って思い始めていました。最後の職場での仕事はとにかくハードで、私はここで何しているんだろう? 自分の5年後の姿がこの世界に見いだせる? 私の価値って何なのかしら? このように30歳が近づいたときに思うようになり、そして、いまが行動するときかもしれない、と」

金融業界に留まっていたくない。これは確かなことだ。自分の価値を生かせる仕事、自分を発揮できる仕事をしたい。でも、自分は何をしたいのだろうか……ファイナンスの仕事で快適感を得られなくなった頃から、マリルは自問自答していた。

「化粧品業界に当時から否定的な視線を向けていたんですね、私。女性に自信を与え、価値を高める役を果たす産業のはずなのに、女性はつねに20歳に留まっていなければならないというように、その年齢以上の女性に罪悪感を覚えさせ、心理的な追い込みをし、そのおかげで女性たちの健全な思考が阻まれて……。それに洗浄とクリームがあれば十分だって思うのに、10近い製品を顔につけなければならならず。パッケージングもものすごく無駄があって……というように」

マリルは2017年に退社した。 自分に時間をかけ、本当にしたいことがあるなら、それを進めましょう……こう頭の中を整頓するのに、その2年くらい前から真剣に取り組んでいたヨガ、瞑想がとても役立ったそうだ。

「30歳。これがターニングポイントとなりました。学生時代の最初の研修で販売を経験した時から、私は客と接すること、女性の価値を引き出すこと、人に自信を持たせることが好きというのはわかっていました。 ウェルビーイング、人々と分かち合うこと。これは私にとって小さい時からの基本的な価値なんですね。この中で何かしよう、と思ったのです。退職した時、未来への信頼とコスメティックにおける男女への真の解決策を提案しようという考えがありました」

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ナチュラルな成分だけのアマルテア

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2018年にオープンしたブティック。

会社をやめてからアマルテアを創業し、商品の販売を始めるまで10カ月とスピーディにことが進んだのは、自分が求めているものが明快だったからだとマリルは語る。

「100%ナチュラルな品。とりわけ私がこだわったのはエッセンシャルオイルを使わないことでした。それを受け入れてくれるラボを見つけるために、ビオ認証できるあらゆるラボにコンタクトし……たった1か所だけが受け入れてくれたんです。私の希望は身体にもよいヴェジタルオイルの使用でした。このラボも私と同じ論理で仕事をしたいという意欲があったところで、私と出会ったのです。お互いにチャンスだったと言えますね。このラボが見つからなかったら、ブランドの発足はもっともっと遅れてたことでしょう」

フォーミュラは科学者と仕事をしたが、マリルはその前にビオ認証の成分リストを作成。そこで分かったことは、99%の化粧品が健康を害するものを含んでいるということだった。 たとえば、アンチエイジングのクリームに含まれる成分の中には、太陽に当たることで癌を引き起こすものがあるというように、真の危険が潜んでいる。おまけに確かな成分だけで安全だと彼女が信頼をおいていたファーマシーで販売されている品も、そうではないことがわかって大きなショックを受けたという。

2018年秋に、サイトでの商品販売をブティックの開店と同時にスタートした。ブティックの奥にはラボ空間があり、オンライン購入者への商品発送もここで行われる。

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他者とのやりとりを好むマリルは、ブティックでヨガや瞑想の教室の開催も開催している。

「1か所にすべてまとめるというのは、最初からのアイデアでした。ブランドの価値を伝えるために必要だと思ったからです。私たち、何も隠すことがありません。購入者はこの店に入るやすぐに、店のすべてを見ることができます」

ブティックに展示されている商品アイテムは多くない。シンプルであることが信条のマリルが提案するのは、3つの商品による新しいスキンケア儀式。朝は公害からの保護と保湿が必要なので保湿クリームを。夜はきれいに洗浄し、肌をソフトにするクレンジングローション(あるいはメイクオフ用のオイル)、そしてピュアなヴェジタルオイル。この3点である。ボディ用としては保湿乳液があり、新たにクレンジングオイルが加わったところだ。

「なぜセラムやゴマージュがないの ? とよく聞かれます。必要ないから、というのが私の答えよ。そうした品はシワ対策や血色のよい肌のために不可欠だと化粧品産業に思い込まされているだけ。アマルテアは健全な肌作りを約束しているので、こうした品は不要なんです。私も含め、大勢の人でテストを繰り返しました。最も時間をかけたのは肌のタイプによって必要なものが異なるので、どの成分を入れるか……この部分にとりわけ念を入れました」

肌タイプはドライからウルトラドライ、ノーマル、ミックス〜オイリーの3タイプに分け、さらに各肌タイプについて壮年者向けの商品組み合わせも提案している。壮年とはアマルテアでは30歳以上を指す。男女ともに20代の頃に比べると、30代以降はオメガ3、6が40%不足ということからだ。ちなみに購入者の最高齢は92歳の女性だとか。

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たとえばノーマル肌壮年向けの組み合わせの一例。左から99%ナチュラルの保湿クリーム(50ml)、99%ナチュラルのクレンジングウォーター(100ml)、100%ビオのハイビスカスオイル(50ml)、ボディ用99%ナチュラルの保湿リッチ乳液(100ml)。セット購入150ユーロ。もちろん単品でも購入できる。

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ドライ〜ウルトラドライ肌のフェイスとボディ用4点。99%ナチュラルの保湿クリーム(50ml)、クレンジングには100%ナチュラルのメイクオフオイル(100ml)、その後のオイルは100%ビオのスイートアーモンドオイル(100ml)。ボディ用には100%ビオのプラムオイル(100ml)。

シンプルを信条にするブランドである。フェイシャルとボディのための儀式にはすでに必要なすべてのプロダクトが揃っている。次のステップはシャンプーだという。これも必要最小限であるのは当然だ。「アマルテアの商品の成分はすべてが生分解性だから、下水に流れてもエコシステムを乱すことがありません」

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フランス初の詰め替えできるスキンケア商品

マリルがアマルテアでもうひとつこだわったのは、中身が詰め替えできることだ。ブティックを最初から設けたのはそのためでもあるが、ボトルの詰め替えは郵送でも受け付けている。どちらの場合でも、いちどボトルを殺菌してから中身をチャージする。コンセプトに賛同するクライアントは多く、開店して間もなく口コミで客が増えていった。アマルテアの商品は男性も対象にしていて、購入者の30%が男性であることにマリルはとても満足している。

「継続購入契約のシステムもあって、契約者にはトラベルサイズをプレゼントしているんですよ。これは郵送で詰め替えのやりとりをしている間に役立つ便利なサイズです。海外からのオーダーはアメリカがいちばん多いのですが、アメリカ人は詰め替えせずに新たに購入していますね。ボトル発送用のアドレスシールも同封しているのですけど。幸いボトルはプラスチックではなくガラスなので、捨てられても再利用されるので……。理想はアメリカにブティックをオープンすることです。そうすれば、パリの店同様に詰め替えが楽になりますから。パリ旅行をする友達にボトルを託したアメリカ人客もいて……自分のリズムで行動すればいいのです。詰め替え可能と知らせることで、ソフトに意識を目覚めさせる方法となっています」

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左 : あらゆる肌向けのボディ用100%ナチュラルのラベンダーオイル。これで肌をクレンジングしながら、マッサージ。40ユーロ(100ml)、詰め替え25ユーロ(100ml)。 右 : 極めてシンプルなパッケージングが好評。商品の発送にはメッセージ、そして詰め替え方法についての説明書が添えられる。

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怖ければ転職しなくていい

彼女には確信があって始めたアマルテアだが、もしうまくいかなかったらと考えた事はあったのだろうか。

「私は自分がしようとしていることを信じてました。それに最悪の場合でも、少なくとも試したという事を誇りに思うでしょうね、と。ボトルがあり、それを詰め替えて使いたい人がいて……どれだけのロスを私たちは避けることができたかということも。怖いから新しいことを始められない、というのは、まだ自分に準備ができてないということ。それは受け入れなければならないわ。最近、私がちょっとおかしいのでは?と感じているのは、転職やクリエイトすることへと“やるのよ‼”と人を駆り立てようとする風潮です。でも、誰もがリスクを負いたいとは思ってないのだし、誰もがクリエイトしたいと願ってるわけじゃない。これは自分だけに関わることなのだから、したくなければ、しなければいいのよ。自分にとってプライオリティは何? 自分がしたいのは何?と考え、いまがその時、と感じられたら、やってみなければわからないのだから転職すればいいのです」

転職したことを後悔していない彼女。金融業界での経験は自分がしたくないことが何かを知るのに役立ち、また多くを学ぶことができたおかげでいまの会社経営にとりわけ役立っている。仕事の方法論、プロジェクトの管理、効果的な組織法……業種は異なれど、過去からすっぱり切り離されたのではないと語る。

創業時はひとりだったマリルだが、その直後に幸運が待っていた。ホテル業界で働いていた弟アレクサンドル・アマデウスも仕事を辞め転職を考えている時期だったそうで、ひとりで奮闘するマリルを手助けするという感じにアマルテアの仕事を始め、いまや共同創立者である。

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「弟(プティ・フレール)といっても大きいのよ」とアレクサンドル・アマデウスを紹介するマリル。

「彼と一緒に働けることがとっても自慢よ。特にコスメティックに関心があったわけじゃないの。それが、環境にポジティブなインパクトを与えている毎日に彼はとってもやる気をかきたてられていて……うれしいわ 。私にはアマルテア・ファミリーもいるのよ。それは商品の美徳を語り、チャージ式で環境にもいいと語ってくれる人たち。ファミリーがブランドを成長させてくれるのです」

Amalthéa
39, rue des Gravilliers
75003 Paris
tel : 01 70 23 75 35 
www.amalthea.bio
instagram : @amalthea.bio

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réalisation : MARIKO OMURA

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