ヴィルジニーの選択、うたかたのイベント会場より永続の室内建築。

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現在室内建築家として活躍中のVirginie Friedmann(ヴィルジニー・フリードマン)。photo:Shehan Hanwellage

以前の仕事は、イベントのセノグラフィーの仕事をしていました。こう語るヴィルジニー・フリードマンは、人気上昇中の「Friedmann & Versace(フリードマン&ヴェルサーチェ)」という室内装飾家デュオのひとりとして、現在はレストランや個人宅のインテリアを手がける日々だ。かつての仕事を振り返って、彼女は話を続ける。

「ジャーナリストやその分野のプロ、あるいは一般の人を対象にブランドや特定の商品を紹介して、その価値を高めるという仕事ですね。オブジェの デザイナーやモードのデザイナーと組んでイベントをクリエイトしていました。会場がグラン・パレのような素晴らしい場所だったこともあるし、コカ・コーラのように世界的に著名なブランドの仕事も手がけました。来場者が体験できるようにと、会場内にレストランをクリエイトしたこともあります。ランジェリーのファッションショーの会場づくりという仕事も……。毎回タイプの異なるさまざまなブランドとの仕事で、数日とか短期間のためのイベントの会場を作り上げるのに要するエネルギーはかなりなもので、刺激に満ちていました。幸いなことに私が関わったプロジェクトは常に予算に恵まれていて、たとえばカンヌ映画祭のときに手がけたイベントはレストランがひとつできてしまうほどの予算があったくらい。この仕事、10年くらい続けたでしょうか」

彼女は大学でまず法律を、その後5年間は商業の高等専門大学で学んでいる。その最終年に大企業で研修したものの、これは自分の気にいる仕事ではないという確信に終わるという結末に。学費を何年も払ったのに!とこれは母親を嘆かせたそうだ。親しい人がいたことから卒業後アイルランドでしばらく暮らした後、フランスに戻ったときは音楽やカルチャー系の仕事はどうだろうか、と思い始め……。

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パレ・ド・トーキョー内にオープンするや話題を呼んだレストラン「Bambini」。ふたりの知名度もこれでぐんとアップ! フリードマン&ヴェルサーチェによる内装は、空間に太陽が感じられることが特徴のひとつだという。photo:Alexandre Tabaste

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Bambini。空間だけでなくランプシェード、花瓶なども含め家具の95%もふたりのデザインである。photos:Alexandre Tabaste

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自分がしたいことが、なかなか見つけられず……

「具体的にはイベントのセノグラフィーというアイデアが浮かんだものの、それを仕事にするにどうしていいかわからず。途方に暮れました。たまたま香水やジュエリーの分野に関わっていた叔母にちょっとした人脈があり、その世界に私を繋げてくれたんです。でも、彼女がそのイベント業での才能をその時私に見いだしたのかといえば、そうは思いません。彼女も母同様に私は大学で学んだことを台無しにしていると絶望していたんですね。で、反対するよりも、彼女がしたいことに役立つのなら、という感じだったのでしょう。 私、学校での成績はとてもよかったんですよ。でも、その後は完全に落ちこぼれてしまって、実のところ誰も私の将来を長いこと信じていませんでした」

イベントの会場の構成から仕上げまではチームの仕事。彼女は徐々に自分の場所をその中で確保していったという。あちこちに出向き、モード界やアール・ド・ヴィーヴルの分野など異なる分野で多くの発見があり、始めた頃は若かったこともあり大きな興奮があった。

「でも、これは私がずっと続けたいという仕事なのかというと、そうではない。それは仕事が気に入らないということではなく、自分のしていることがとても儚いものなので。いろいろイメージがあっても時間をかけて熟考することができず、会場は短期間で解体され作り上げた装飾は捨て去られ、しかもそれは段ボール製……後には何も残らない。それに対象は限られた人だけ。いま、フリードマン&ヴェルサーチェでしていることと全然違いますね」

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創って捨てる仕事より、永続の室内建築

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ヴィルジニーの初仕事となった「Bistro Rougemen(ビストロ・ルージュモン)」。当時、グリーンを内装に使ったレストランは珍しく、ファッションウィーク中にパリを訪れていた海外のジャーナリストたちからも評価された

うたかたのイベントの仕事より室内建築を!と思ったヴィルジニー。30歳の頃で、自分が願う職業へ向かうべく努力を始めるのだ。パリにはブール校をはじめ室内装飾家を目指す人々が学ぶ学校がいくつかある。現在のパートナーのデルフィーヌ・ヴェルサーチェもテクニックをそうして学んでいるのだが、ヴィルジニーは学校にゆくことはしなかった。デッサンを学び、そして室内装飾家が必要とするソフトの使い方の講習を受けただけ。いわば独学で室内建築家として仕事をスタートするのである。こうして複数のブラッスリーを経営しているカップルと1年くらい仕事を続けるのだが……あいにくと彼らが離婚話の真っ最中だったこともあり具体的に事は運ばなかった。

「これができます!とアピールできる資格も能力もなかったので、自分が知っているイベントの世界に戻りました。室内建築の仕事をしたくても、この業界に詳しい人が周囲にはひとりもいないので、ここでまた途方に暮れてしまい……。偶然にもイベントの仕事仲間の中に室内建築家のミカエル・マラペールを知っている人がいたんですね。ちょうどホテル部門へとミカエルが仕事を拡張するところだったので、彼のスタジオで仕事をすることになりました。私はイベントの仕事から、空間を造って売ることには経験があります。いま一緒に仕事をしているデルフィーヌが彼をこの時期手伝っていたところで、こうして私は彼女と知り合ったんです。彼女と組んで彼のスタジオに声がかかった複数のホテルの入札をした中で、私たち5つ仕事を勝ち取りました。それに並行して彼は私にレストランやブラッスリーといった現場を任せてくれて……」

多くのことを実地で学んでいったヴィジルニー。ミカエルは小さなプロジェクトを扱うエージェンシーも持っていて、彼女はここで大勢の外部の人に出会い、クリエイティブな面でチームを操る仕事をして、とイベント時代にしていたことの経験を役立たせた。そんな彼女にミカエルは自由を与え、そのおかげで彼女は学ぶことができただけでなく自信をつけることもできた。働き始めて約2年後、彼女個人に仕事の声がかかることになる。ミカエルに対して透明でありたいと、この提案について彼に伝えたところ、「素晴らしい! 一緒に仕事ができて楽しかったけれど、君はここを去ってフリーランスとしてひとりで飛び立つ時が来たようだ」と。

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いよいよ独り立ち!

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デュオの室内建築家スタジオ、フリードマン&ヴェルサーチェ。左がDelphine Versace(デルフィーヌ・ヴェルサーチェ)。Bambiniにて。photo:Ricardo Romain

予算はないに等しかったけれど、パリ9区のビストロ・ルージュモンがかくしてヴィルジニーの初仕事となった。この時にこっそりと彼女を助けてくれたのが、ミカエルの仕事を続けていたデルフィーヌだ。その後、ヴィルジニーには別の仕事の依頼も来るようになり、その間にデルフィーヌもフリーになっていた。

「そんな頃、私が引き受けたクラブのプロジェクトは予算もたっぷりあったのだけど、問題点も多くって……。それで経験も豊富で解決策を持つデルフィーヌに、ふたりでコラボレーションするのがいいのではないか?と声をかけました」

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フリードマン&ヴェルサーチェが2020年に手がけた田園のようなレストラン「Boria」。photos:Hervé Gozula

2019年春に“フリードマン&ヴェルサーチェ”がこうして誕生。ふたりが手がけた「リヴィエラ」「ベビー・ドール」はそれまで築いた人脈もあり、複数のメディアに取り上げられる幸運に恵まれた。新型コロナ感染症対策として外出制限がとられた際は、個人宅のプロジェクトのおかげでふたりのエージェンシーは順調に発展を続けることができた。最近パリで話題のレストランのひとつとして挙げられるパレ・ド・トーキョー内のバー・レストラン「Bambini(バンビーニ)」を手がけたのも彼女たちだ。蚤の市での調達品もあるが、ほどんどの家具のデザインもしている。

「昨日もバンビーニに行きましたけど、相変わらず200席が満席。食事をしている人たちがみんな店内での快適な時間に幸せそうな様子で……。自分たちの仕事が気に入ってもらえていることを目にするのはうれしいですね。私たちのインスタグラムに、食事客から“素晴らしい場所だ”という賛辞のメッセージをたくさんもらうんですよ」

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現在、ふたりはエージェンシーとして初のホテルの仕事に取りかかっているところだ。これはほかの建築エージェンシーも参加してのコンペティションを勝ち得てのこと。ニースの海辺に面したシャトーで、かつて航海士のラ・ペルーズが宿泊した場所ということから彼の名前をつけたホテルである。またパリではオープンキッチンのレストラン「L’Orgueil(ロルグイユ)」がもうじき完成するし、ドバイでもひとつプロジェクトがあって……と室内建築家として順風のヴィルジニー。人々との出会い、クリエイション、そしてパレ・ド・ドーキョーやムジェーヴといった素晴らしい場所という3つの要素を現在の仕事で得られることに満足している。これは直感に従って選んだ仕事だが、迷いはなかった。彼女がこの道を目指すと決めた際には、長いキャリアを持つ室内建築家が彼女を励ましてくれ、関係者に紹介もしてくれたという。常に目を輝かせて熱意をもって多くを語る彼女。この先達がこの業界では珍しい独学のヴィルジニーの未来を信じたのも、わかるような気がする。

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地中海を感じさせる10区のレストランの「La Riviéra(ラ・リヴィエラ)」。2019年の仕事だ。photos:Hervé Gozula

「この転職で何がすばらしいかというと、クリエイションの自由があることです。私たちのアイデンティティに合わない仕事を断わる自由もあります。それは求められるスタイルというより、人間的な面からですが。でもその結果、仕事相手はいつも気持ちのよいクライアントばかり。今後はミュージアムやコンセルヴァトワールといった公共建築物を手がけられたらって。きっとおもしろい仕事ができるだろうと思います」

Friedmann & Versace
www.friedmann-versace.com
Instagram:@friedmann.versace

editing: Mariko Omura

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