うつわディクショナリー#10 大江憲一さんのいい醤油差しといいお皿

「これぞ、大江憲一」のうつわ作り

すこぶるキレがよいと大評判の醤油差しを筆頭に、お皿もカップもキリッとした表情。陶芸家の大江憲一さんは、同世代の人たちの食卓にひとつでも多くの、かっこよくて使いやすいうつわを届けたいといいます。

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—大江憲一さんといえば、とてもキレのよい醤油差しが評判です。
大江:使いやすいと言ってもらえるのは、すごく嬉しいですね。醤油差しは月に100個は作っています。ろくろで形を作りしのぎ文という縦の線を入れていく作業と、蓋を作る作業を同時進行で、すべてひとりでやるんですけど、小さいものなので時間がかかるし、蓋と本体の大きさを合わせるのにも気を遣うから割と手間がかかるんですよ。でもそういうものを気に入って、何度も買いに来てくれるお客さんがいるのはありがたいです。「もっと作りますよ!がんばります」って思っちゃいます。
 
この醤油差しが生まれたきっかけは?
大江:自分の必殺技だと言えるようなものを作りたいというのがあったんですよね。他の誰にも真似できないようなもの。そう考えたら、ふと醤油差しが浮かんで、キレのよい構造を研究しながら自分なりのデザインを考えていきました。しのぎ文の幅、深さ、大きさ、持ちやすい形、いろいろなことを真剣に考えて作っているし、日々更新しています。必殺技ですから!
 
—必殺技っていいですね。そう思ったきっかけがあるんですか?
大江:僕は、人生で初めて出会った陶芸家が鯉江良二(こいえりょうじ)さんだったんです。鯉江さんは、前衛的な陶芸で知られる超有名な作家ですけど、最初はそんな人とは知らなくて。工房に遊びに行ったら、お酒を飲みながらろくろを回していて。なのにすっごいかっこいいものができあがる。「自由だなあ、いいなあ」って思ったのがきっかけで本格的に焼物を始めました。陶芸の学校を出てからは、師匠にはつかず独学でやってきたんですけど、自分にしかできないかっこいいものを作りたいという気持ちは強いですね。使ううつわだから機能がしっかりしているのは大前提ですけど、どこかに遊びがあるようなものを作りたくて。
 
—遊びというのは、具体的にはどういうこと?
大江:一見きちんとしているけど、どこかにハズしがあるものかな。醤油差しもこうやってキリッとした感じに並んでますけど、ひとつひとつ見ていくと、しのぎの幅が違ったり、ゆがみがあったりする。見逃しそうなほど小さなことであっても人は自然とそれを感じていて「あれ?なんかいいかも」と手を伸ばしてくれるんじゃないかと思うんですよね。
 
—確かに。大江さんの作品は、言葉よりも感覚的にいいと思う部分が大きい気がします。
大江:同世代の人に使って欲しいんですよね。僕はアウトドアとか釣りが大好きでファッションも好きですけど、それと同じ感覚で使って欲しい。僕の家には、イケアの食器もあれば、作家のうつわもある。料理もよく作ります。そういう中で、例えば、料理が美味そうにできた時、僕がパッと手にとるのは、手作りのものだったりするんです。無意識、というか意識があるかどうかすら考えたことがないくらいそれは普通のことで。「やっぱりこっちがいいな」って自然とね。ひとつでもふたつでもいいから、同世代の食卓に手作りのものが入っていくといいなと思います。そのためには、手間はかかっても、お値段以上の魅力のあるものを作りたいですね。
 
—お値段以上……♪ の魅力とは?
大江:ひとつは、見ているだけでもかっこいいものを作ることかな。まだ使っていない人の生活にも入っていくためには、ひと目見て家に置きたい、買いたいと思える雰囲気を持つことは心がけてますね。楽しげな野菜の箸置きもそのひとつです。
 
—機能の面でいうと、大江さんのお皿は厚みがあるのに軽くて持ちやすいです。
大江:自分で使ってみて、ある程度厚みがある方がパスタとか餃子みたいな普段の献立にはいいんじゃないかと。厚みがあってもエッジがきりっと引き締まったものを意識しています。お皿はこれからまだまだ追求していきたいですね。
 
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今日のうつわ用語【鯉江良二・こいえりょうじ】
奇想天外で破天荒な焼物作りで知られる愛知県常滑市出身の陶芸家・現代美術家(1938〜)。1960年代に活動をスタートして以来、国内外の数々の陶芸展に出品。伝統や前衛といったジャンルを超えた鯉江良二流の作陶を続ける。

大江憲一さんの真骨頂、すこぶるキレのいい醤油差しは凛とした佇まい。¥6,480/ルーサイトギャラリー

醤油差しは、瑠璃釉やブロンズなどさまざまな色で展開し数種類愛用する人も多い。¥6,480/ルーサイトギャラリー

思わず欲しくなる落花生の箸置きは振ると豆の音がするという楽しさ。¥2,160/ルーサイトギャラリー

口当たりにこだわったカップの他、急須や湯のみなどお茶の道具にも定評がある。¥2.700/ルーサイトギャラリー

伝統的な釉薬である織部は料理を美味しく見せる。八角皿L¥4,860/ルーサイトギャラリー

お皿はどれもエッジがきりっとしていて和にも洋にも使いやすい。八角長皿¥4,860/ルーサイトギャラリー

【PROFILE】
大江憲一/NORIKAZU OE
工房:岐阜県土岐市
素材:陶器
経歴:1975年愛知県生まれ。愛知県立瀬戸窯業高等技術専門校、多治見市陶磁器意匠研究所を経て1999年独立、工房を構える。年に5〜6回、国内をはじめNYや台湾などで個展およびグループ展に参加。http://www.oe-kimura.com/oe

ルーサイトギャラリー
東京都台東区柳橋1-28-8
Tel. 03-5833-0936
営業時間:11時〜18時
不定休
http://www.lucite-gallery.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『大江憲一展』開催中 会期:2017年6/24(土)〜7/1(土) 会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

ライター/ 編集者

子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
Instagram:@enasaiko 衣奈彩子のウェブマガジン https://contain.jp/

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