うつわディクショナリー#56 まだ見ぬうつわを追いかける、ガラス作家・左藤玲朗さん

「あったらいいな」をこの世に生み出す喜び

幼い頃から使ってきたようなシンプルなコップ、ガラスのカトラリー立て、金属の蓋のある容器。ガラス作家の左藤玲朗さんは「こんなガラス器が暮らしにあったらいいな」をかたちする喜びを大事にしてうつわを作る。 そのものづくりの成り立ちを聞きました。
 
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—左藤玲朗さんのガラス器作りは、コップからはじまったそうですね。
左藤:日本のいわゆる居酒屋ででてくる、工業製品の円筒形のシンプルなコップ、ありますよね。ガラス工芸というと、装飾的だったり、かたちに凝っていたりで、ああいうシンプルなものを作る個人作家は、当時あまりいませんでした。ならば僕が作ってみようと。20年前ですね。
 
—コップという名前ですが、サイズは、ビールジョッキのように大きいです。
左藤:僕は、沖縄ガラスの「奥原硝子製造所」に勤めて吹きガラスの道に入りました。いわゆる沖縄ガラスのデザインやサイズは、米国統治時代に休暇で本国に帰る米兵などが、いくつかあったガラス工場に、日本からの土産として依頼した米国風のレトロデザインが発祥と言われています。だから大きくなったのかな。その後、それより小さいサイズを作って居酒屋コップと名付けました。一番小さいのは、日本酒や麦茶を飲むのにちょうどいい、日本人にとって、ふつうのサイズだと思います。これ以上ない究極の大きさってことで「居酒屋Z(ゼット)」としています。
 
—他にも、沖縄風コップ、銘々シャーレ、新作のナイトシリンダーなど、独特な作品名からは、発想の源を垣間見ることができます。
左藤:銘々シャーレなんて名前、何だろうと思う方もいるかもしれませんね。シャーレは実験用ですが、かたちが綺麗。でも生活で使うのはちょっと難しい。ならば、すこし深さを出して、銘々で使う小鉢のようにしたらいいんじゃないかなと。ナイトシリンダーは、夜、帰宅してアクセサリーを入れるものが綺麗だったらいいな。発想はいつもそんな感じです。
 
—海の底を覗き込んだような深みのある青緑や、懐かしさのあるセピア、緑がかったクリアは、左藤さんの作品の定番色ですが、再生ガラスの色によるものだとか。
左藤:僕のうつわ作りは、使わなくなった瓶を再生することからはじまったんです。クリアは透明瓶の取り混ぜ、セピアはウイスキーの瓶。青緑は、いまは手に入らないので色を調合していますが、もともとは日本酒の一升瓶などブルー系の瓶を再利用していました。
 
—型吹きでモール模様を出す技法は、民芸調の器によく見られますが、左藤さんのものは、モダンですね。
左藤:工業製品が持つすっきりとしたラインを、手吹きでかたちにしたいという気持ちは強いです。モールガラスは、熱したガラスを型にあてることで模様をつけますが、普通に吹いたら下のほうに模様が強く入るんです。でも僕は、上のほうにモールが強く入るように工夫する。モダンに見える理由かもしれません。
 
—反対に花器など宙吹きの作品は、まあるいふくらみに歪みがあって、気に入ったそのひとつを、住んでいる空間に迎え入れたくなります。
左藤:ガラスを作りながら、花弁とか球根とか草花をイメージすることがあるんですが、自然物には、完璧に均整のとれた円や球体というのはあまりないんですよね。まんまるのようでいてどこかにエッジがある。それによる光の反射も意識して作っています。
 
—工業製品の瓶を材料としながら、それに人が手をかけて再生するからこそできる、手仕事と工業のあいだのかたちを作り出しているのですね。
左藤:「これは左藤玲朗のものだ」とひと目でわかるもの、まだ誰も作っていないものを生み出したいという気持ちがあります。でも、奇をてらったかたちにしたいというのとは違って。生活の中で「こういうものがあったらいいのに、そういえばないよなあ」というものをかたちにする。世の中を調べてみると、まだ作られていないものってけっこうあるんです。
 
—ガラス器を通じて、あったらいいものを世の中に加えていくのですね。
左藤:ガラス工芸を職業にしたのは、子供の頃から火というものの神秘的なところに惹かれていたからなんです。高温で熱した坩堝(るつぼ)のなかから、自分の夢見たものが、まるで魔法にでもかかったようにかたちとなって現れる。ぞくぞくする感覚があります。それを楽しみながら、自分が理想とする、これまで見たことのない「実用的なかたち」を作っていきたいですね。
 
※8月18日(日)まで、KOHORO二子玉川にて「左藤玲朗展」を開催中です。
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うつわ用語【坩堝/るつぼ】
ガラス工芸で使う窯のなかに設置された、ガラスを高温で融かすのに用いる容器。融けたガラスを竿に巻きつけて、窯の外に出し、宙吹きや型吹きすることで、うつわや立体物をかたちづくる。
【PROFILE】
左藤玲朗/REIRO SATO
工房:千葉県長生郡白子町
素材:ガラス
経歴:立命館大学文学部卒業後、沖縄の奥原硝子製造所、長崎の瑠璃庵に勤務。会社員やアルバイトを経て2000年、兵庫県丹波市にて工房を持つ。2009年千葉県長生郡白子町に工房を移転。1964年大分県生まれ。https://satofukigarasu.shop-pro.jp/


KOHORO二子玉川
東京都世田谷区玉川3-12-11 1F
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜(展示会中無休)
http://www.kohoro.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「左藤玲朗展」開催中
会期:2019年8/9(金)〜8/18(日)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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