「不器用な父親を、繊細に演じたい」稲垣吾郎、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に挑戦する思いとは?
Culture 2025.05.07
稲垣吾郎がハリー・ポッターに!? ──ロンドンで誕生、ブロードウェイを経て2022年に東京公演が開幕し、ロングラン上演を続けている話題の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。稲垣が2025年7月から10月の公演に出演するというニュースは、舞台ファンをはじめ多くの人を驚かせた。小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ.K.ローリングが、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンとともに書き下ろした本作は、小説の最終巻から19年後、父親になったハリーとその息子アルバスを軸に描かれる新たな冒険物語。独特の世界観、数々のイリュージョンにあふれた壮大な舞台への取り組みについてインタビューした。

──俳優としてさまざまな舞台に立たれてきた稲垣さんですが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』への出演が決まった時はどのようなお気持ちでしたか。
最初は驚きました。『ハリー・ポッター』の映画は観ていましたが、多くを語れるほどではありません。世界中で時を超えて親しまれている作品に「まさか自分が?」と、ちょっと笑っちゃいました(笑)。役との出合いはいつもそうですが「稲垣吾郎にハリー・ポッターをやらせたらおもしろいかもしれない」と客観視している自分もいます。舞台の仕事が大好きなので、うれしいですね。でも今回はまさかの4カ月! 想像がつきませんが、皆さんが繋げてこられた作品をやらせていただけるのは光栄なこと。作品の世界観は大切にしつつ、自分らしいハリー・ポッターを演じていきたいですね。
──では、『ハリー・ポッター』シリーズの魅力とは?
ワクワクドキドキする魔法の世界のファンタジー、という印象が強いですが、映画を観直してみて、人間ドラマが軸にあると感じました。少年少女たちの成長だけでなく親たちの話でもある。人を愛すること、といったら大袈裟ですが、本当に大切なことを教えてくれる。それが壮大なファンタジーの中で描かれているのが大きな魅力と言えますね。
──魔法を使われても違和感がないように感じますし、マントもきっとお似合いですね。
自分で言うのも変ですが僕自身、少し不思議で謎なキャラクターとして捉えられがちですから(笑)、ハリーに合っているのかもしれません。マントも似合う? そう言って皆さんに乗せてもらって、自分で信じ込まないと!
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「不器用な感じを、繊細に演じられたら」
──実際に舞台をご覧になっての感想をお聞かせください。
藤原竜也さんがハリーを演じられた回でしたが、舞台ファンとして純粋に楽しみました。見たことのないようなエンターテインメントで、イリュージョンも本当にすごくて、自分もその世界にいるような、魔法が使えるような不思議な感覚に。スタッフの、見えないところでのプロフェッショナルな仕事を感じます。
舞台は20代からずっとやっていますが、人と一緒に作る、しかもお客さんとも一緒に、というところが魅力です。普段はわりと静かに、穏やかに、家にある植物に同化して妖精のように暮らしていて(笑)、あまり大勢の人と関わるタイプではないのですが、舞台となると何十人。今回はさらに多くの人が関わり、お客さんも毎日いろんな方が来てくださる。人との繋がりを感じて、「生きているんだな」と人間らしい自分に気づきます。

──この作品でのハリーは父親。どのような父親像をイメージされていますか。
僕にもし子どもがいたとしたら、子どもは自分のことをこういうふうに見るのかな、と思いました。父親はちょっと有名な人で子どもにどう接していいかわからないでいる。そのあたりの不器用な感じを、繊細に演じられたら。
──俳優としてこれからどんな道を歩まれるのか観客としてとても楽しみなところですが、ご自身ではどのようにお考えですか。
先のことを具体的なビジョンとして考えるタイプではありません。俳優の仕事ってとてもシンプルで、作品があり、キャスティングされて、必要とされて呼ばれる、その繰り返し。少し受け身なところもあります。もちろん、自分で舞台を作られている方もいらっしゃいますが、僕はむしろ才能ある人がいて、そこに飛び込んでいって一緒に何か作りたいという思いが強い。呼ばれないと何も始まらない仕事ですから、より良いものとの出合えるよう、日々自分を磨くこと、努力すること、感覚、感性を養うこと──。漠然とですが、そう思っています。
──4カ月間トリプルキャストで取り組まれる間、舞台に立たない日もあるわけですが、そんな日も、自身の中にハリーという人物がいる感覚になるのでしょうか。
「リモコンはオフでも主電源は落とさない」という状態。休演日でもどこかずっとハリー・ポッターでいるところがあると思います。それも楽しいし、「自分」だけでなく「何か」でもいられることって、すべてをひとりで受け止めなくて良くなるから、精神的に良いことではないかなと感じます。この世界にとって自分がどういうものかということと本当の自分とは違うわけだし、自分で自分を演じることも楽しみたい。さらに俳優として役を演じると、また自分の中で何かひとつ加わるようにも思いますね。

上演中~2025年10月31日(金)※稲垣吾郎出演は7月17日(木)より
会場:TBS赤坂ACTシアター
上演時間:3時間40分 ※休憩あり
料金:全席指定 SS席¥17,000 Sプラス席¥16,000(ともに平日昼料金)
※その他割引あり
https://www.harrypotter-stage.jp
03-5216-6518
text: Tomoko Kato photography: Daisuke Yamada styling: Akino Kurosawa hair & make: Junko Kaneda(June)