チャオプラヤー川のたもとの花市場、そして街角。

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バンコクの隠れた見どころといってもいいパーク・クローン花市場は、24時間いつでも花であふれ、活気に満ちている。

vol.2 @タイ

バンコクに住む友人の突然の訃報を聞いた。逝くには若過ぎたとショックを受け悲しんだが、同時に残された彼の家族と仕事の仲間のためにできることはないものかと思い倦ねた。過去に2度ほど、私はバンコクでその友人が営むセミオーダーシューズブランドのイメージを撮影していた。地元のモデルたちとの仕事は感覚共有がスムーズで素晴らしく、さらに印象に残ったのは、ポップなイサーン音楽が流れる工房で、靴職人たちがテキパキと働く姿だった。たいそう人間臭く、愛すべき人たちなのだ。友人は職人たちの働く工房の隣にスタジオを構えていた。そこは彼の夢の秘密基地、表現で人と地域を繋ぐ活動の拠点だった。タイ東北地方出身の職人たちは皆工房のすぐそばに住んでいて、このバンコクの下町の一角はものづくりの小さなコミュニティとして育っていたのだった。

タイが国境を開いて間もなく、私はバンコクに渡り、亡き友人の仕事を支えてきた彼の妻や子どもたち、工房の人々と再会した。出来たばかりの新作を友人の残したアトリエで撮った。かつて彼らと撮影した花市場で買い込んだグラマラスな蘭を背景に、これから世に生まれでる靴を埋めて。

映画『ブンミおじさんの森』に描かれるタイ独特のあの世との関わり方は、我々日本人には違和感なく受け入れられる生死観だ。バンコクで逝った友人もタイの心優しい「おばけ」としてそちこちを浮遊してくれたらいい。

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チャオプラヤー川は常に表情を変える。この日は水量も多く、美しい夕日に照らされていた。川沿いにはレストランやカフェがあり、地元の人たちにも人気。

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モデルになってくれた職人たちの息子さんとお孫さん。いまのバンコクの若者代表のようなスタイリッシュなルックスにしてとても素朴で感じの良い男の子たち。近藤紘一の著書『バンコクの妻と娘』は、『サイゴンから来た妻と娘』の続編だが、70年代当時のバンコクの様子が描かれる中、夫婦父娘に起こる様々が巧みに綴られているのが面白い。

●『ブンミおじさんの森』
監督・脚本/アピチャッポン・ウィーラセタクン 
2010年、イギリス、タイ、フランス、ドイツ、スペイン合作映画
114分

●『バンコクの妻と娘』
近藤紘一著 
文春文庫刊 ¥400

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Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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