ペッリンゲの吹雪、凍る海、青い空。
在本彌生の、眼に翼。 2023.05.04
ペッリンゲで見た半分凍りついた海と夕日。冬の終わりから春のはじめにかけての海は凍っては溶けその上に雪が積もるので氷が脆いという。ここはフェリーの通り道で常に水面が顔を見せている。
vol.4 @フィンランド
ヘルシンキに住む友人に導かれ、フィンランドの島に住む人々の暮らしを垣間見る旅をした。ポルヴォーから車で1時間弱、途中陸地と島を繋ぐフェリーに乗り、ペッリンゲ群島へ。酪農を営む家族が持つコテージに滞在した。ペッリンゲにはトーベ・ヤンソンがパートナーとともに長く暮らした島もあり、彼女の作品に度々描かれた生きた森や海がここにはいまも息づいている。もうそろそろ春が来るという時期ゆえ、数日のうちで天気が目まぐるしく変化した。目の前にある世界の見え方は前の日に見たそれとはまるで別世界、激しい吹雪が唸る夜と、太陽に照らされた真昼の雪と青空のコントラストに圧倒された。その一方でこの世界においての人間のちっぽけさが身に沁みる。
コテージの主から農場で育てた羊の肉と卵、じゃがいも、玉ねぎを譲ってもらい、部屋で料理をして、吹雪の唸り声を聴きながら食べた。真っ青な空の下、雪を踏みしめながらこの島に住む女性猟師のグンネルに森を案内してもらい歩いた。言葉少ない彼女の発する一言には真心が込もっていた。
「このとおり、ペッリンゲの自然はこんなに素晴らしいの」
振り返って、静かに微笑んで私に言った。友人を通じてたくさんの島の人々と触れ合ったが、淡々としてもの静かながら心温かく、生きる底力を備え持っている、彼らのありようにそんな印象を受けた。カウリスマキ監督の映画に登場する愛すべき人々のように。
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ヘルシンキで訪れた建築家アルヴァ・アアルトの私邸兼アトリエで見た彼の作業机と窓辺。アアルトの作品には自然のモチーフが頻繁に取り入れられるが、この国の美しい自然のフォルムを目の当たりにしたらそれもそのはずと思う。
グンネルが秋に収穫した林檎は道を通りがかった鹿たちのご馳走になる。
監督・脚本/アキ・カウリスマキ
2002年、フィンランド映画 97分
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●『少女ソフィアの夏』
トーベ・ヤンソン著 渡部 翠訳
講談社刊 ¥1,760
Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。