クイーンのフレディ・マーキュリーの姓バルサラが由来する、インドの小さな町を訪ねて。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はインドの小さな町、グジャラートの旅。

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カッチにて、家事の傍ら戸口でポータブル糸紡ぎ機を使い作業する女性。子どもが途中で遊びに来たりして微笑ましい。

ガンジーと布と水星。

vol.13 @ グジャラート

私にとって縁が途絶えない国インド、もはや30余年のお付き合いだ。20代はチベット文化圏の寺の曼荼羅や僧たち、ヒンドゥーの聖地にいる歌う盲楽師に憧れ旅を重ねた。5年ほど前のこと、インドの手工芸、特に関心を寄せていた布の工芸を撮りたくて、インド布に深く関わり現地と強い繋がりを持つCALICOの小林史恵さんに相談したところ、彼女の活動を追って職人たちの仕事とその周辺を一緒に巡り撮影する機会を得た。約2年をかけ、西ベンガルやグジャラート、タミルナドゥの各地を巡り、紡ぐ人、織る人染める人と直に接し、職人やリーダーたちに話を聞いた。あれは極めて心の動く撮影の日々だった。それらの写真は小林さんの文章とともに、『CALICOのインド手仕事布案内』に収められた。

グジャラート州のアーメダバード、ブージなどで布の撮影をして回った後、念願叶い同州の海辺の街、バルサードを訪れた。映画『ボヘミアン・ラプソディ』でおなじみクイーンのフレディ・マーキュリーの姓バルサラは、この街の名前に由来する。彼の生誕地ではないが、ペルシャをルーツに持つパールシーの家に生まれた彼の先祖がこの辺りで暮らしていたゆえの名前だろう。いまはどんな街になっているのか、ただ見てみたかった。そこは廃れているでもなく、栄えているでもない、良い意味で平凡な田舎の海辺の街で、ビーチでは地元の少年たちがはしゃぎ、古い図書館では初老の紳士たちが悠々と新聞をめくっていた。

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バルサードの海岸で記念撮影のポーズをとる少年たち。のんびりとした風情が漂う。
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街の図書館を覗いてみると、サロンのような風情。木製の書棚に古い書籍がずらりと並んでいた。本ではなく、新聞を広げて熟読する男性たちの姿が印象に残った。
●『CALICO のインド手仕事布案内』
小林史恵著 ・在本彌生写真
小学館刊

●『ボヘミアン・ラプソディ』 
監督/ブライアン・シンガー 
2018年、アメリカ映画 135分

*「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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