海辺の街、ストックホルムで過ごす冬。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はスウェーデン・ストックホルムの旅。

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夜霧立ち込めるストックホルム。こんな美しい街景色があるのかとすっかり夢中に。写真を何枚撮っても撮り足りないほど素敵だった。

海辺の街は夜霧に包まれて。

vol.18 @ スウェーデン・ストックホルム

昨年の同じ頃に撮影のためストックホルムを訪れた。大雪に見舞われ、あらゆるものが白い色に包まれて角を丸くし、夜の雪灯りが青白く照らす街の景色に魅せられた。一方、今年は雪がほとんどない代わりに、神秘的な夜霧に包まれた街に迎えられた。海辺に停泊した船を彩る灯りが滲んで、水面にも逆さ映しの景色が広がっている。不思議なことが起きてもちっともおかしくないムードだ。

妖艶な街の姿にすっかり心奪われ、歩きながら思わず何度も「うわぁ」と声をあげた。夜霧に包まれた街の光景を堪能すべく、宿泊先の船着場からいくつも橋を渡って、スウェーデン国立美術館まで歩いた。『DESIGN=MEMORY: Akira Minagawa&minä perhonen』展のレセプション会場へ。この展示開催にあわせ撮影を重ねた書籍『Textile Diary #1』はここでお披露目となり、なんともうれしい夜だった。

夢のようなイべントの後、美術館を出ると、儚いもので夜霧はどこかへ消えてしまっていた。寒空の下、繁華街で見つけたタイ料理店に入った。広い店内、大音量のカラオケで歌って踊る男女が底抜けに明るい。ここは、この街で暮らすタイ人コミュニティのミーティングポイントなのだろう。出会う文化も光景も、コントラストのある街は楽しみがいがある。客が歌うイサーン地方の歌謡曲をBGMにシンハーを飲み、山盛りのパッタイを頰張った。

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ストックホルムの街はたくさんの島からなるので水辺が多い。白鳥たちも優雅に憩う。
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スウェーデンはカルダモンロールがおいしい。街歩きの途中見つけたベーカリーの小さなカウンターで朝食。大好きなスウェーデン人監督、ロイ・アンダーソンの映画『さよなら、人類』は、ままならない人生を淡々と嗤(わら)う姿勢で観たい。伝説の青春映画『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』は50年以上前に公開された同監督のデビュー作。北欧的人間観の一端が見えてくるようだ。
『Textile Diary #1』
皆川 明、田中景子共著
ミナ ペルホネン刊¥3,850

『さよなら、人類』
監督/ロイ・アンダーソン
2014年、スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ映画 100分
Amazon Prime Videoにて配信中

『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』
監督・脚本/ロイ・アンダーソン
1969年、スウェーデン映画 114分

*「フィガロジャポン」2024年8月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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