ラトビア・リガ〜リガトネの歴史を刻む核シェルター。
在本彌生の、眼に翼。 2026.02.15
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はラトビア・リガ〜リガトネの旅。

実際に核戦争が起きたら、数カ月このシェルターで生きながらえたとて、いつかは地上に上がらざるをえない。初めから戦争などしなければよい、核兵器など作らなければよいはずだが。
自由と平和と地底に残る過去。
vol.37 @ ラトビア・リガ〜リガトネ
首都リガから東に車を走らせること1時間ほどの所にあるリガトネは、森と水に恵まれた国立自然公園のある美しい街だ。そんな恵まれた環境の中、建築や内装に"ソビエト感"の残る現役のリハビリテーションセンターがある。実はその地下深くに、ソ連時代、選ばれしものたちのために作られた"核シェルター"があり、いまも当時のままにその姿が公開されている。
隠し扉から深く地下に降りていくと、雰囲気は一変する。自家発電システムの怪しさとものものしさ、プロパガンダポスターがあちこちに張られた食堂のキッチュさ、地上と分断された光の届かない「"あの時代"の世界」がそこにあった。調度が整った会議室には、ラトビア全土をつぶさに描き出した地図が。一体どれだけの財や労力がこの施設を作るために費やされたのだろう。汗を流しながら、あるいは凍えながら働いた人々の熱が、まだこの場に生きて漂っているようにも感じた。忘れたくても忘れられないソ連時代の遺産が現在こうして一般に公開され、私たちが体感できるのは尊いこと。ただ順路に沿って歩いて、解説を読みながら見学するだけでは重苦しい印象に終わってしまうであろう施設だが、役者顔負けの案内人オスカーの正確でユーモアたっぷりな解説に泣き笑い、忘れがたい時間になった。ソ連からの独立を果たして34年が経ち、平和な時代が続くよう絶えず努力し続けているラトビアは、洗練を重ね、いま、輝き華やいでいる。

リガのダウガヴァ川沿いの夜景。世界中で人気を博したアニメーション作品で、絵本にもなった『キオスク』の中にも、この川や自由の記念碑が登場する。この作品の作者アネテ・メレツェのように、現在ラトビアではポストソビエト時代に教育を受け才能を開花させたアーティストたちの活躍が目覚ましい。

信号待ちをする人々の後ろに山のようにそびえるのは「光の城」と呼ばれ、市民から親しまれるラトビア国立図書館。ラトビア出身の建築家グンナー・ビルケルツが手がけた。アングルによって違う表情を持つ建物なので、撮るのがとても楽しい。
アネテ・メレツェ作 日本語版くろさわあゆみ訳
潮出版社刊 ¥2,200
東京生まれ、写真家。
ラトビアで手に入れた犬毛の指なし手袋がものすごく暖かくて、寒い屋外での撮影の時に大活躍しています。
*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋
photography & text: Yayoi Arimoto







