美味なるドライハーブティーの故郷を訪ね、リトアニアのアニクシャイへ。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニア・アニクシャイの旅。

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ラムーナスは中国で漢方や茶を学び、東洋的な薬草の使い方の知識がある。養蜂も行う。アニクシャイのハーブ店はArbatos Magija主宰。

野原へハーブを摘みに行く。

vol.32 @ リトアニア・アニクシャイ

ビリニュスから北へ車で約1時間半、森と水に恵まれたアニクシャイに薬草師ラムーナスの工房がある。一昨年秋にそこで淹れていただいたドライハーブティーのおいしさに衝撃を受けた。口内に野原が広がるようだった。ほのかな苦味、甘味、スパイスとは異なる類いの繊細な清涼感に味覚が覚醒した。こんな上等な薬草をどう育てているの? そう質問すると「河原で摘んでくるんですよ」とラムーナスは答えた。薬草は正真正銘の天然物、野生育ちだった。リトアニアでは自然享受権により、森の薬草やベリーやキノコを採取することを誰もが認められている。そう聞いて私は次の時期、収穫に同行させてほしいとラムーナスにお願いした。この薬草が伸びやかに生い茂る様子を想像し、その光景に遭遇したくなった。

夏の始まり、私は彼を再び訪ね、アニクシャイの森と河原での薬草摘みに同行した。カゴを脇に抱え、脱いだキャンバスシューズを肩に掛けて、ラムーナスは森の中を早足で歩いていく。森が開けるとキラキラ光る川が流れていた。そのまた先には野原が広がっていて白や黄色や紫色の花が自由に咲き乱れていた。「これは肝臓に効く」「これは切り傷の治りをよくする」、私に説明をしながら丁寧に薬草を摘み、カゴがいっぱいになると車に戻りと3往復、汗だくになり収穫は終わった。

街に帰る時、さっき摘んだばかりの小さな紫色の花をつけたタイムをお土産にと持たせてくれた。宿に戻って部屋の中でそれを広げると野原が蘇った。

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ラムーナスの薬草の採取は手早いが丁寧、必要な分だけ摘む。白い花をつけた薬草の葉を肌につけると、虫刺され跡や擦り傷が早く治ると聞いた。
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森の入口にはきらめく水が美しい川が流れていて、家族連れが泳いだり日光浴したりしてピクニックを楽しんでいた。こんなに美しい場所を独り占めしてしまっていいのだろうかと思うが、リトアニアでは人混みとは無縁でどこに行っても自然が近くにある。リトアニアで体験した自然と人との関係、人々の自由と平和への思いを取材し、写真とエッセイにまとめた『Lithuania, Lithuania, Lithuania!』がこの夏出版される。

『Lithuania, Lithuania, Lithuania!』
在本彌生著 アノニマスタジオ刊 ¥5,500

*「フィガロジャポン」2025年10月号より抜粋

photography & text: Yayoi Arimoto

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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