文・写真/髙田昌枝(弊誌パリ支局長)
デザイナーとのコラボがおしゃれなモノプリ、ハイパーマーケット出身のカルフール・シティ、ビオ専門のナチュラリア、ビオコープ、ビオ・セ・ボン……。パリにスーパーマーケットのチェーンはいくつもあるけれど、今回は新しい試みを次々と繰り出して驚かせてくれるフランプリを紹介したい。小さな店舗が多く、長い間、どことなく目立たない存在だったのだが、5年ほど前、ミカンの新ロゴとともにイメージチェンジ。存在感が急激にアップした。
ミカンのロゴがトレードマークのフランプリ。パリに500軒ほどある、ご近所型スーパー。エリアや店舗のサイズによってちょっとずつサービスや品揃えが違う。
「近所の食材店」をモットーにした食品メインのスーパーだが、店舗の9割がパリエリア、というだけに、パリジャンの気分を先取りするアイデアが楽しい。
最初のヒットは、搾りたてオレンジジュース。オレンジの実がゴロゴロ詰まった機械が店頭に置かれ、その場で絞ったジュースを500mlか1Lのボトルに自分で詰める。同時に開始した、店内で焼き上げるローストチキンも、家庭用の丸ごと一羽のほか、もも肉2本にポテトを添えて3.90ユーロという価格で、ランチタイムの人気商品になった。店頭には電子レンジやコーヒーメーカーを置き、カウンターやテーブル席を設置して、買ったものをその場で食べられる“スナッキングスーパー”に生まれ変わった。
観光客の多いオペラ座脇の店。壁には店内で焼くパンやローストチキン、搾りたてオレンジジュース、電子レンジが並ぶ。
すっかり定着したスナッキングのコンセプトをさらに進め、昨年秋にはファッション系の若い世代が多く働くモントルグイユ界隈の店に、なんとキッチンが登場。店で購入した野菜を切ってサラダにしたり、ステーキを焼いてください、というわけだ。食べるだけでなく、調理の場まで提案してしまった。
モントルグイユ通り近くのフランプリのキッチン。
また、パリジャンの間に広がるビオ食品やごみゼロにこだわるエシカル志向ももちろん重視。パッケージごみの縮小を狙う量り売りは、ビオの野菜やフルーツ、豆類やシリアルはもちろん、ワインやリカー、シャンプーや家庭用洗剤、ペットフードまで、幅広いラインナップを揃える店も出現。マイクロフィルターで濾過された水道水をガス入り/ガスなしの2種類で無料提供する店、タイムやミント、バジリコなどのハーブを、鉢植えから必要な分だけ「ご自由にどうぞ」というサービスのある店もあって、それぞれ話題を呼んでいる。
同じくモントルグイユ通り近くの店。壁にずらりと並ぶのは、量り売りのシリアル、豆類、オリーブオイルや洗剤など。野菜ももちろん、量り売り。
11区の店には、ワインの量り売りも!
パリ11区の店ではハーブの「ご自由にどうぞ」コーナーが評判。この日は、バジルやミントは全部摘み取られて丸裸になっていたけれど、小さな葉が顔を出していた。
郵便局のプリペイド封筒や小包パックの販売、国際送金、配送品受け取り、AirB&Bなどに便利な鍵の受け渡しサービス、携帯の充電、自転車の空気入れなどなど、エリアの性格に合わせて、実にさまざまなご近所サービスを取り入れているのも、地域のスーパーらしい一面。
8年も前からマルヌ川、セーヌ川の水運を利用し、環境に優しい商品運送を実施していたり、店舗の入り口にタバコの吸い殻入れを設置し、フィルターのリサイクル運動をするなど、地道な活動もしている。そのいっぽうで、TwinswHeel社のロボットを高齢者などの買い物補佐にテスト導入してみたり、ロックダウン中にはスポーツ用品店「デカトロン」と早速コラボして、パリジャンの運動不足解消のためにお家ジムグッズを販売。とにかく話題に事欠かないスーパーなのだ。
広さもエリアも違うそれぞれの店で、すべてのサービスが実施されているわけではないし、数々のアイデアの中には、大成功とはいかないものも多いよう。それでも、移り変わりの早い都会のトレンドを相手に奮闘するフランプリ、これからのアイデアにもついつい期待してしまう。
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texte et photos : MASAE TAKATA