文・写真/坂本みゆき(在イギリスライター)
曇りや雨が多いイギリスも、7月ともなればさすがに夏らしい日がぐんと増える。明るい光を受けて枝葉を伸ばした草木の緑は美しく、花の香りが風に漂う。その元を探ってみれば、咲いているのは可憐な紫の花。そう、ラベンダーだ。
空に向かって真っすぐに伸びるラベンダー。イギリスの夏の花。
この時期になるとイングリッシュガーデンではもちろんのこと、個人宅の庭でもラベンダーの花をよく見かける。イギリスの土壌と気候が合っているのか、特に手をかけなくても数年で大きな株となり、たくさんの花を付けて芳香を放つ。そのうえ開花期間も長いから、好んで栽培する人も多いのだと思う。
ロンドン中心部から列車とバスを乗り継いで行ける「Mayfield Lavender(メイフィールド・ラベンダー)」は、花が盛りのうちにぜひ訪れたい場所だ。ここは広大なイングリッシュラベンダーのオーガニックファーム。最寄りのバス停で降りるとすでにあの爽やかな花の香りが感じられ、エントランスを抜ければ目の前には一面、紫の大地が広がる。ワクワクせずにはいられない。
どこまでも続く紫の大地はただただ圧巻!
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ラベンダーの原産地は地中海沿岸だそう。約2000年前に古代ローマ人がイギリスに持ち込み栽培されるようになった。以来、香りや防虫効果から衣類の手入れに使われるだけでなく、香水や石鹸などのトイレタリー、鎮静の効果を持つ薬用、ジャムやお茶などの食用として幅広く親しまれているのはご存知の通り。
メイフィールド・ラベンダー内では、トラックフードでドリンクやお菓子を販売。ラベンダー入りのスコーンとラベンダーのお茶などが楽しめる。
なかでも1837年から1901年に在位したヴィクトリア女王がラベンダーを寵愛したのは特に有名で、毎朝花を飾り、家具のポリッシュやリネンの仕上げにもラベンダーオイルやラベンダーウォーターを好んで使用させていたそう。女王の嗜好は当時のトレンドにも反映されて、ロンドンの街中ではあちこちでラベンダーの小さなブーケが売られていたとか。
その需要を支えるために、当時はロンドン郊外には多くのラベンダー畑があった。しかし19世紀の終わりから20世紀初頭になると、人工的で安価な香料が開発されて生の切り花の人気は低下。同時に畑も失われていった。
コスメティックメーカーに勤めていたメイフィールドのオーナー、ブレンダン・メイ氏は、そんな昔ながらのラべンダー畑を復活させようと、地元のチャリティの協力を得て畑をスタート。現在では花の季節になるとロンドンをはじめとする近隣から多くの人々が訪れて、「お花見」の定番スポットとなっている。
ラベンダー畑でかけっこを女の子たち。こんなに広いと駆け回りたくなる気持ちも分かる! 花に囲まれて座り、おしゃべりをする女性たちも。過ごし方は人それぞれ。
花の開花状況によってオープンの時期は毎年若干変わるが、2020年は8月末日まで。いちばんの見頃は8月半ばくらいまでだそう。
どこまでも続くラベンダーの畑では、その美しさと癒される香りで誰もが笑顔。イギリスの短い夏のひとときを満喫出来る、とっておきの場所だ。
texte et photos : MIYUKI SAKAMOTO