文/神 咲子(在ストックホルムコーディネーター)
スウェーデン人はある程度生活が落ち着くと、犬を飼い、車を購入して田舎にサマーハウスを持つというのがライフスタイルの定石だ。今年は、世界を襲ったコロナ禍によりスウェーデンも例にもれず、国外旅行は禁止。その影響でサマーハウスを購入する人が多く、値段が高騰した。
サマーハウスは、小さな家から豪邸並みのものまでピンキリで、たいていはかなり田舎にあり、ご近所は何百メートルも先。電気は通っているが温水は出ず、シャワーなし、そして下水の下部構造がないのでトイレは外で汲み取り式が一般的だ。だが、このトイレこそ、まさにスウェーデンのエコロジーカルチャーの原点といえるものなのだ。
(スイマセン、ここから少しお下劣な話になります。)
外にあるトイレは、少し傾斜のある場所に造られ、尿は自然に地中へ流れ出ていくが、便は蓄積される。その蓄積したモノに、用をたした後、2、3回に1回の割合で灰のような粉末(草木などの植物繊維で、堆肥化するのを手伝う処理材)をふりかけるのである。次に、いちばん精神的にハードな作業だが、それらを別の樽形の入れ物に汲み上げて、発酵を待つこと数カ月……ジャジャーン!! 立派な堆肥(コンポスト)ができあがる。
最近は、自然と共生することが現代病のヒーリングにとても効果があるということで、森林浴やガーデニングテラピーも注目されているため、サマーハウスでの菜園づくりも人気だ。そこで、このコンポストを自家菜園や庭にまけば、100%循環型の素晴らしいエコロジー生活が始まる。
だが、さすがに21世紀を生きる人間に汲み取り作業は厳しすぎる。そこで、スウェーデンでかなり前から導入されているのが「水不要・高熱燃焼トイレ」。こちらは、トイレ本体の胴体部分に専用のフィルターを入れて、用が済んだらボタンを押す。そうすると、約1分でフィルター内の汚物がすべて燃焼され、あれよあれよという間に灰と化すというもの。その灰は、トイレ下部の受け皿にコンポストとして落ちてくる。
水不要・高熱燃焼トイレ。矢印にあるように、専用のフィルターを使用前にトイレ本体に付けるだけ。下の受け皿部分に燃焼後の灰がコンポストになり溜まる仕組み。
あとは花咲爺さんのようにそれをまいて使うだけだ。汲み取りの後始末が要らず、電気さえ通っていれば水洗トイレのような面倒な設置手続きも不要、かつコンポストにもなるため、ボートクラブや田舎のアウトドアアクティビティ関連施設などに多く導入されている。しかし、新品は40~50万円とかなり高価で、自治体からの補助制度もなく、許可を得るのに時間がかかるため、ハードな原始エコトイレに留まっている人が多いのも現状だ。
騒音がなく、静かな日々を過ごせる居間。
都会のマンション育ちの猫マトリョーシカは、最初こそビビって外に出るのもためらっていたが、ようやく慣れて落ち着いた模様。
サマーハウスによっては、敷地内に薪でお湯を沸かす場所があり、そこで身体を洗うことができるが、たいてい滞在中は近くの湖で泳いだり、水浴びをして過ごす。そして、天気の良い日は外でバーベキューを楽しむのがお決まりだ。少し不便なことも含めて、スウェーデンのサマーハウス滞在は、エコな暮らしを体験するひとときでもあるのだ。
とある日の夕焼け。夏は夜22時ぐらいまで明るい。
photos:PICCOLI&ELLIOT, texte : SAKIKO JIN