文・写真/河内秀子(在ベルリンライター)
ドイツの人たちと木や森の関係は深い。グリム童話を見てみよう。ヘンゼルとグレーテルや白雪姫、森の中の三人の小人など森が舞台の物語がたくさん出てくる。大きな木がある森は、魔女や妖精たちが集う神秘的な場所だったのだ。21世紀になったいまも、ドイツ人は何かというと散歩と称して、何時間も森の中を歩き回ったりする。忙しい日常をシャットアウトして、木々からのパワーを浴び、リフレッシュするのだ。
目抜き通り、クーダムもプラタナスの大きな並木に彩られている。
しかし、この大切な樹木が、いま大変な危機に直面している。
ドイツをはじめ中欧は、ここ数年続く熱波によって、250年来最悪の干ばつに直面している。街の59%が緑地というベルリンでも、秋めいてくる前から、街路樹が乾燥のために枯れ葉のような茶色の葉を散らしたりと、その影響が見てとれる。そこで、私たちの木を、みんなで救おう!と「Gieß den Kiez (街に水をやろう!)」というベルリン市によるサイトが開設され、ドイツ中で大きな話題を呼んでいる。
このサイトは、62万5千本もの市内の街路樹が、樹齢や乾燥度とともにオンライン上の地図にアップされるというもの。サイトに登録したユーザーは、自分が居る場所の身近な木を選んで状態をチェックし、定期的に水やりを行うことで、木の水不足を防ぐことができる。
木を愛するドイツ人の心に響いたのか、アッという間にベルリンだけでなく、ライプツィヒやドレスデンなど他都市でも同様のサイトが次々公開され、近所の人たちで日替わりで水やりをするなど、各地で水やりのご近所ネットワークも立ち上がっているそうだ。ちなみに、ベルリンでは現在までに、4300本以上の木がこのサイトのおかげで定期的に水やりされている。
ベルリン市内には、2000カ所もの公共のポンプがある。地図上にはこのポンプの位置も表示されるので、自宅の水道を使わず近くのポンプから水が引けるので、市民も水やりしやすい。
そもそも街路樹は、公共機関が水やりやケアの担当ではないか?という疑問もあるだろう。ベルリン市は今年、5千万ユーロもの干ばつ対策予算を追加しているものの、樹齢3年までの若木のケアで精一杯、人手不足という事情があるそうだ。
ベルリンの壁の跡地に植えられている桜並木。若木を乾燥から守るため、水の袋が取り付けられている。
数あるベルリンの木々の中で、私がまず気になったのは、ベルリンの壁の跡地に植えられている美しい桜並木のこと。毎年春になると、桜色に染まる道はなんとも美しいのだが、まだ若木で根っこが深くないので水が不足しがちのようなのだ。定期的な水やりはなかなか難しいけれど、参加してみようと思っている。緑が多いのはベルリンの魅力のひとつ。コロナ禍で外出制限が行われた時も、緑の中の散歩やランニングにどれだけ心が助けられたことか。この恩恵を失わないよう、私なりにできることから、木との共生の一役を担っていきたい。
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photos et texte:HIDEKO KAWACHI