文/坂本きよえ(在ミラノジャーナリスト)
ミラノでいまいちばん問題視されているのは、コロナ感染拡大の原因とも噂された大気汚染だ。2018年のある調査によると、ミラノでは、大気汚染物質の排出量が国の規定を超えた日が135日もあったといわれている。しかも、盆地で風が吹かないミラノではスモッグが溜まりやすい傾向にあるうえ、車通勤の人が多いことも原因のひとつだと考えられている。
そこで、5月のロックダウン解除とともにミラノ市長が打ち出したのが、個人用移動手段の推奨にともなう補助金制度。ロックダウンの解除で、混雑した公共交通機関の利用を避けて車通勤しようとする人がさらに増加することを避ける狙いと、ミラノ市民の平均通勤距離がわずか4㎞以内というデータもあり、通勤スタイルの移行は可能だと考えられたからだ。
たとえば自転車を買うと、最高500ユーロを上限に購入費用の60%の補助を受けられる。自転車道がほぼなかったミラノ市だが、街中にいくつもの長距離用の自転車道を作ることも発表した。もともとあった市のレンタルバイクやレンタル自転車に加え、キックボードバイクや電動バイクのレンタルも数を増やし、とにかく車通勤を減らすことに尽力。
新しいレンタルバイクブランド、e-bikeなども登場。
すると、ロックダウン解除後の5月から7月の間に自転車は売れに売れ、車から自転車へ、あるいは電動自転車通勤にスライドした人が増えたのだ。その成果もあり、市内の公園にはいままでいなかった虫や鳥まで戻ってきたともいわれ、週末にはランニングをする人だけでなく、サイクリングを楽しむ人の姿も。公園内の森を走るサイクリングコースの整備や、郊外の歴史的建造物を巡るコースなどもできたおかげで、街には家族揃ってサイクリングをする人々も多く見られるようになった。
公園の森を走るサイクリングコースマップ。
ここ数年、世界的に異常気象による自然災害が、目に見えて増えてきている。その原因は、人間の行いにあることに気づいてはいるが、便利さになれている私たちがその生活習慣を変えられないことにあるだろう。小さなエコ活動を自分なりに志して生活する今日このごろ、私もこれを機会に自転車族の仲間入りを果たしたのだった。
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photos et texte : KIYOE SAKAMOTO