写真・文/坂本きよえ(在ミラノジャーナリスト)
ミラノで人気のゾーンサヴォーナ通りに面した可愛いウィンドウに、ついついいつも足を止めたくなる。デザインやイラスト、子どもの本の出版で有名なコライーニ社が自ら経営する書店、121+だ。
月に一度はイベントを催し、新しい作家やデザイナーを紹介するコンテンポラリーアートのギャラリーのような機能も持つ。特にデザインやアートに関心がある人にとっては、この店のイベントや本に注目していると、いま流行のデザインや人気のデザイナーが一目瞭然でわかるというので有名な店だ。
121+の店内。特集する作家やデザイナーが替わるたびに、店内のディスプレイやレイアウトが替わる。
いっぽう、コライーニ社がアートやデザイン書以外に力を入れているのが、子どもの本。ネット販売を含めて1000以上のタイトルが揃い、縦横わずか5㎝くらいのイラスト本や飛び出す絵本などマニアックな本が豊富だ。
しかし、実はこの書店、グラフィックデザイナー、絵本作家、教育家としての顔も持つブルーノ・ムナーリと、家具デザイナーのエンツォ・マーリという、イタリアを代表するデザイン界の巨匠ふたりの存在なしでは語れない。ムナーリとマーリは、「長く使い続けられる良品」をモットーにデザインを手がけていたことで知られるが、コライーニ社で教育専門家と共同開発していたのが、児童書だった。
イタリア人は、『ABC』(ブルーノ・ムナーリ著)で子どもに英語のレッスンをする。
仕掛け絵本『Storie di tre uccelliniー3羽の鳥の物語)』(ブルーノ・ムナーリ著)には、英語とイタリア語バージョンがある。
子どもに夢を与え、子どもの視点で楽しめるものを。店内には、ムナーリと交流のあったスイスの人気作家、フーバー夫妻の絵本を含め、ふたりが出版した本が当然たくさんある。『Sedici Animali(16の動物)』(エンツォ・マーリ著、1957年)、『Piu E Meno(プラス・マイナス)』(ブルーノ・ムナーリ著、70年)、『I Prelibri(本に出会う前の本)』(ブルーノ・ムナーリ著、80年)など、いまの子どもたちにも読み継がれていくことを願って、コライーニ社により何タイトルも復刻されている。それらは、復刻にも高いコストがかかるこのご時世、ほかの書店では見られないものなので、大人でもつい欲しくなってしまう。
ブルーノ・ムナーリやエンツォ・マーリ、イタリアデザインが好きな人はもちろん、新しいことに触れたい、新しい本の読み方や選び方、絵本で買うべき本を知りたい人には、ミラノを訪れたらぜひ立ち寄ってほしい書店だ。
動物の絵が描かれたカードで物語を作る『Il Gioco Della Favole(おはなしづくりゲーム)』(エンツォ・マーリ著)
誰でも簡単に家具が作られるというプロジェクト『Autopogettazione?』を収めた、エンツォ・マーリの名著。
奇しくも、10月19日にこの世を去ったエンツォ・マーリを偲び、現在は彼の本や貴重なデザイン画などを集めた回顧展が行われている。
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photos et texte : KIYOE SAKAMOTO