文/長谷川安曇(在ニューヨークライター)
アメリカのホリデーといえば、11月のサンクスギビング(感謝祭)で、一年の中でいちばん大きなホリデーのひとつ。毎年11月第4木曜で、翌日の金曜日は「ブラックフライデー」と呼ばれ、お店が大セールを行い、日曜まで4連休にする人もいる。翌週の月曜は「サイバーマンデー」と呼ばれ、オンラインショップがセールを行う日で、次の火曜は「ギビングチューズデー」と呼ばれ、チャリティに募金しようという日。サンクスギビングにあやかって、いろいろと行事が多い。
サンクスギビングの起源は、1620年にイギリスから移住したピルグリムファーザーズ(清教徒)が、ネイティブアメリカンにトウモロコシなどの作物の栽培方法を教えてもらい、寒い冬を生き延びることができたことに遡る。翌年は収穫に恵まれ、ピルグリムとネイティブアメリカンが一緒に恵みに感謝して、ごちそうを食べて祝ったことが始まりだとされている。現在は、親戚や家族が集まり、ターキーの丸焼き、マッシュドポテトやパンプキンパイを食べて、フットボールの試合を観たりする家族団欒の祝日だ。
だが最近では、「もともと住んでいたネイティブアメリカンの人のところへやってきて、白人が征服した事実を祝うのか?」と疑問視する声が上がっていたりする。特にニューヨークの若い世代は白人的ストラクチャーを問題視する傾向があるので、長い間続いている伝統であれ、物事を再考する姿勢がある。
サンクスギビングのクラシックなメニュー、ターキーの丸焼き、スイートポテトとマシュマロのキャセロール。photo:LISA KATO for ERIKA KATZ
ターキーのデコレーションがついたメイシーズ。パンデミックの影響で、ニューヨーク市のほとんどの伝統行事がキャンセルされる中、11月26日に開催が決定。photo:RISA SATO
ニューヨークのサンクスギビングの一大イベントといえば、「メイシーズ・サンクスギビング・デイ・パレード」。1924年から毎年続く伝統あるパレードで、ニューヨークのパレードでは、最大規模。人気キャラクターがバルーンになって登場し、街中を歩く姿がテレビで中継される。今年はパンデミックのため、観客なしで、テレビ中継のみで開催される。photos:RISA SATO
いっぽう、ここ数年の間に浸透してきたカルチャーで「フレンズギビング」というものがある。要は友だち同士で祝うサンクスギビングだが、感謝祭の前の週末や前日に行われることが多い。または実家に帰らないと決めた友だち同士が当日に祝うことも。アメリカでは、家族や親戚が集まると決まって政治の話になるので、コンサバな叔父や銃が好きな従兄弟に会うのが嫌だとぼやく人も。支持する政党が違う、義理の家族ともなればさらに気を使うことになるので、行きたくないとため息をついている人も本当に多い。政治的見解が違う家族と憂鬱な食卓を囲むくらいなら、気のおけない友だち同士で祝った方が楽しめる。そんな背景もあり、ニューヨークのフレンズギビングのカルチャーは加速してきたように感じる。
ちなみに私はターキーが苦手なので、作ろうと思ったことは一度もないが、私と同じようにたいしてターキーが好きではないという人も多く、ニューヨークでは意外にも鍋が好評だ。ニューヨークにオープンした火鍋のレストランが流行って定着したことや、あのみんなで一緒に食べる感じが楽しい!と、サンクスギビングに鍋をする人がじわじわ増えた。といっても、アメリカ人で作り方を知っている人はなかなかいないので、知っている人が(たいていアジア系)全部ひとりで用意する羽目になる。今年はパンデミックのため、鍋はお預けだろう。そして、実家に帰るのをスキップする人も多い。来年のサンクスギビングは、また家族でも友だちでも、みんなで一緒に祝えるといいのだが……。
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texte : AZUMI HASEGAWA