写真・文/甲斐美也子(在香港ジャーナリスト、編集者、コーディネーター)
一昨年までの香港ならば、11月初めには街のあちこちに豪華なクリスマスのデコレーションが登場し始めていたもの。残念ながら2019年後半からは政情不安が始まり、今年は1月末から続くコロナ禍。年間6000万人以上にものぼった観光客がいないいま、本来は稼ぎ頭であり、街のデコレーションの牽引役だった高級ホテルやショッピングモールが、例年に比べて控えめなのは仕方のないところ。


2019年のペニンシュラ香港でのクリスマスイベントやデコレーション。香港のクリスマスには宗教色はほとんどなく、サンタや雪だるま、そしてくるみ割り人形もデコレーションの常連。香港バレエ団による『くるみ割り人形』公演はクリスマスの年中行事だ。
コロナ禍は、1日の新規感染者数がゼロに近づいて通常運転に戻りかけたと思うとぶり返す、を繰り返していて、残念ながら12月前半は1日100人前後の感染者が出るという第4波のまっただ中。再びソーシャルディスタンスが強く求められているため、始まろうとしていたクリスマスムードの出鼻をくじかれたような状態だ。
毎年気合いの入ったデコレーションで知られるショッピングモール「ハーバーシティ」は今年もきらびやか!
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2020年だからこそのクリスマスアフタヌーンティー。
そんな現状だからこそ、自宅で楽しめる華やかなクリスマスのアイデアがありがたい。
たとえば香港の名物であるアフタヌーンティー。もともと香港では、英国領という歴史も手伝って、観光客だけでなく、忙しい日々の潤い的な位置づけで地元の人にも愛されてきた。主に高級ホテルのラウンジで季節の行事をテーマにするのに加えて、ファッションやビューティブランドとのコラボを次々と行うなど、一年中カラフルでクリエイティブなデザインを競い合っていて、その豪華さは発祥地の英国を遙かに上回っている。特にクリスマスをテーマにしたセットは可愛さが格別なので、誰もが楽しみにしているもの。


最近、予約3カ月待ちと話題なのが、ダミアン・ハーストのアートでも知られるローズウッド香港「バタフライルーム」のアフタヌーンティー。コースになっていて、少しずつサーブされるのが特徴。
そしてこんな世の中だからこその、テイクアウト&デリバリー用アフタヌーンティーセットが話題を集めている。普段ならスマートで洗練されたラウンジでいただく、凄腕ペストリーシェフのリンゴ・チャンさんによる香港最高品質のアフタヌーンティーが自慢のフォーシーズンズホテル香港が仕掛け人。
自宅に届いた美しきボックス! とても端正かつまるでツリーのような存在感があって名残惜しくなってしまい、食べ終わってからも、しばらく飾っている。
今年5月、フォーシーズンズホテル香港が、母の日に向けてアフタヌーンティーを象徴する三段トレーを、持ち運びしやすい紙製ボックスで再現したのが始まり。紙の強度やバランス、持ち運びやすさ、美しさなどを徹底的に追求した実用性と美しさを極めたミニマルなデザインは衝撃的で、すぐにフォーシーズンズホテル京都など日本を含めた他国のフォーシーズンズでも取り入れられているほか、香港のほかのホテルも次々と真似している。
夏にはすでにクリスマス用セットの開発を始めていたそうで、オリジナルの白からクリスマス仕様の深紅に変身! こちらを自宅に届けていただき、プレクリスマス体験をしてみた。
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テイクアウトでもまったく隙なし!
まずは蓋を開けてびっくり。すべてのアイテムが微動だにせず、型崩れもまったくない完璧な姿のまま。スイーツはペストリークリーム、セイボリーはマッシュポテトをベースにして開発した食用で味覚の邪魔にならないニュートラルな味のクリームを使い、しっかり固定されているけれども、軽く引っ張るだけでさっと外れるのでまったくストレスがない。
蓋を開けて大歓声! バラエティ豊かでひとつひとつじっくり味わいたいおいしさ。2人分で628香港ドル、12月31日まで。同期間中、ホテルのラウンジでも同じ内容のアフタヌーンティーをサーブしている。
そしてひとつひとつのアイテムがとにかく凝っていた。たとえばスノーマンのマカロンは、クリスマスを象徴するグリューワイン風味! ピスタチオとイチジクのタルトなら、ピスタチオクリームがこっくりと濃厚な味わいで、イチジクの優しい酸味とサクサクのタルト生地とともに口の中で混ざり合って、まさに至福。
2016年クリスマスの頃のフォーシーズンズホテル香港ラウンジ。ちょうどアフタヌーンティーブッフェも開催されていた。
テーブルに置いた時の3段トレイボックスの安定感は抜群で、上の持ち手の部分からグルグルと回してもまったく中心がずれない。
持ち運んでも型崩れせず、味も落ちず、最高級ホテルのラウンジで食べる気分を自宅で体験できるように、徹底的に研究して作られていることがすみずみから伝わってきて、「テイクアウトだからこんなもの」と妥協しなくてよいのがうれしかった。
いつもとは勝手が違うコロナ禍のクリスマス。こんな風に工夫を凝らした素敵なものを手間暇かけて作って楽しませてくれる人たちに感謝して、できるだけハッピーな時間を過ごしたいもの。
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photos et texte:MIYAKO KAI