文・写真/坂本みゆき(在イギリスライター)
日本のように女性から男性への告白ももちろんアリなのだけれども、イギリスのバレンタインデーはカップルが愛を確かめ合う日という意味合いが強いと感じている。
プレゼントは男性から女性へが主流だ。2月14日のロンドンの街角では、赤やピンクの薔薇のブーケを持っていそいそとパートナーの元へ急ぐ男性の姿があちこちで見られる。今年はロックダウン中で難しいかもしれないけれども。
花束以外の贈り物の定番は、甘い気持ちを代弁するチョコレートやスイーツ、ロマンティックな気分を盛り上げるシャンパンなど。もちろん、もっとラグジュアリーなプレゼントを贈る人も。いずれにしても決して忘れてはならないものがもうひとつ。それはカード。
イギリスではことあるごとにカードを送る。誕生日やクリスマスはもちろん、出産、引っ越し、お悔やみ、お礼、さらにはテストの合格祝いなどなど。バレンタインデーだって例外ではない。
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この時期、スーパーには特設のバレンタインカードコーナーが登場。ウィットに富んだデザインやメッセージもあって、なんともイギリスらしい。最近はゴミ軽減のためにプラスチックのパッケージなしで売られている。
バレンタインデーにカードを送り合う習慣が盛んになったのは19世紀。産業革命が起こり、たくさんの新しい技術が開発されたこの時代、手頃な価格の紙が市場に多く出回り、印刷技術も大きく向上したことで、安価なカードが量産されるようになった。
ヴィクトリア時代に人気を博していたのは、当時お目見えしたばかりのレースペーパーやエンボス加工の紙をコラージュして作ったもの。優美な装飾が好まれた、この時代らしい。
当時はまだ郵便料金が高価だったが、1840年にバレンタインカードに限り1ペニー(2/3現在の相場で約¥1.44)で送れる「ユニフォーム・ペニー・ポスト」がスタートしたことも人気を後押しした。以降1871年までの間に120万通のバレンタインカードがやりとりされたという。
ヴィクトリア時代の図版によるレプリカのカード。赤い薔薇やハートとともに、愛情を象徴する白い鳩や水色の忘れな草もこの頃人気のモチーフだ。
当時はカードを通して男性が女性に告白したり、プロポーズをしたそう。だからイギリスではいまでも、バレンタインデーは男性から女性に気持ちを伝えるためにカードとともにプレゼントを贈る習慣が色濃く残っているのかもしれない。
でも人気デパートを覗いてみれば、最近は女性からの贈りものの提案も増えている。時代に即してバレンタインのスタイルはいまも変化しているのかも。
そしてもちろん、バレンタインデーは男女のカップルだけのものではない。店頭に並ぶカードにはLGBTQを象徴する虹をモチーフにしたのや、ユニセックスなデザインもとても多い。愛する人にその想いを伝えたい気持ちは、誰だって一緒だから。
スーパーのカードコーナーにて。ふたつの似た者同士の生き物や果実が描かれたカード。どちらも同等なのが良い。
「私の美しい妻へ」というカードもあればレインボーカラーのものも。さまざまなシチュエーションに応える品揃えだ。
イギリス人は送られたカードを、居間のいちばん目立つ棚や暖炉を囲うマントルピースの上などに飾って数日を過ごす。受け取った時のうれしい気持ちの余韻をその後も楽しむように。
photo et texte:MIYUKI SAKAMOTO